白黒
私は、
演劇部をやっています。
今日は春休みなのに、学校に来ていますよ。
いえ、正確にいうなら、向かっているところです。
それはそれは、面倒くさいです。
演劇が嫌いっていうわけでもないですし、部活に勤しむくらいには、大好きです。
けど、春休みは休みたい!
「春休みなのに学校に来るのは、頭が春な人だけだよー!」
って。
セリフっぽく叫んでみます。
叫んでも一人なんですよ。
普通休みなんですよ、やっぱり。
はぁ。演劇なんて、そもそも、どこでもできるんです。
公園で花見でもしながら、練習しましょうよね。
そう思う人手をあげてください。
はーい。
「……おいおい、なんか全部心の声、駄々漏れだぞ、志木」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこにヒロシがいた。
「え、え? 何か聞こえていた?」
「ああ。全部聞こえていた」
「恥ずかしいーーー!」
私は、恥ずかしさのあまり顔を覆い隠す。
「なんだか、志木って全部演技まみれっていうか。オーバーリアクションだよな」
「うぅぅぅー……」
覆い隠した指の隙間から、ヒロシを見ると、目が合ってしまった。
「それも、やると思った。相変わらずだな」
「もう!」
ヒロシは、演劇部だけれども、演技をしないんだよね。
脚本を書く人なんだ。
ヒロシはいつでもメモを持ち歩いている。
何かいいアイディアが思い浮かんだ時にすぐメモできるようにだって言っていた。
早速、メモとペンを取り出して書き始めた。
「さっきの、意外といいセリフだな。次の作品の脚本に入れておこうかな」
こういう時って、本当に入れちゃうんだよね。
仕事が早いって、こんなに怖いことだなんて知らなかったんだよね。
はぁ、やれやれだよ。
私は、おでこに手を当てて、首を振る。
その時、猫が視界に入ってきた。
「あ、白黒猫だ。あれ可愛い。モノクロって感じだね」
「お前って、わざとらしいのもあるけど、セリフが詩的だよな」
別に、わざと演技っぽくしてるわけじゃなくて、これが私の素なんだけどな。
白黒猫の感想を言っただけなのに。
まだセリフも終わる前に割り込んでくるしさ。
「春だから、人間だって色恋に浮かれ始める季節なのに。猫ちゃんは、白と黒だけだったから、印象的でした。色めき立たずに可愛いよね」
ここは,敢えて淡々と言ってみた。
セリフっぽいって言われるんだったら、セリフにしてやろうじゃない。
ヒロシに、何か皮肉を言われるかと思ったら、真面目に返してきた。
「そうだな、春休みに学校に来るやつは、色目気付かないで、浮つかないで、モノトーンでカッコイイかもな」
真面目な顔してる、ヒロシって、カッコいいかもな……。
「よしよし、このセリフも脚本に入れておこう」
けど、ヒロシは、脚本バカなんだよね。
一生、色づかないだろうな。
はぁ……。
誰にも色づかないなら、それでいいのかもだけど。
「私、白黒のモノトーンっていうのも好きだよ。カッコいいって思うよ」
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