除夜の鐘

 今日は大晦日。

 うちの近所のお寺で、除夜の鐘を撞くことができるからだ。

 お寺の鐘はとても大きくて、力いっぱい引っ張ってもなかなか鳴らせないんだ。

 でも、それが楽しい。

 鐘の音は心に響いて、一年の終わりと始まりを感じさせてくれる。



 今年もお寺に行くことにした。

 お母さんとお父さんはテレビで紅白歌合戦を見ていたから、私は一人で出かけようと準備をした。

 私はお母さんに「お寺までは歩いて10分くらいだから、大丈夫だよ」って言ったら、お母さんは心配そうにしていたけど、お父さんは笑って見送ってくれた。


「ありがとう。お父さん、大好き!」


 ◇


 お寺に着くと、もうたくさんの人が並んでいた。私は早く鐘を撞きたくて、列の後ろに並んだ。


 順番に前の人から鐘を撞いていった。

 次々と鐘を撞いていくのを見ていると、私はわくわくしてきた。

 私の番が来るまで、あと何人だろう。私は数え始めた。


「15人、14人、13人……」


 そんなとき、私はふと後ろを見た。

 すると、そこにはなんと、私の好きな男の子、慎吾しんごくんがいたのだ。


 慎吾くんは私と同じクラスで、とてもかっこいい。

 でも、いつも無口で、私には冷たい態度をとるんだ。

 私は慎吾くんに話しかけたことがない。

 でも、ずっと好きだったの。


 慎吾くんは私に気づいていないようだった。

 私はドキドキしながら、慎吾くんのことを見つめた。

 慎吾くんは真剣な顔で、前の人が鐘を撞くのを見ていた。

 どうしてお寺に来たんだろう。

 私と同じくらい鐘が好きなのかな。


「10人、9人、8人……」


 私の番が近づいてきた。私は慎吾くんに話しかけたいと思った。

 でも、どうやって話しかけたらいいのかわからなかった。

 慎吾くんは私に興味がないかもしれない。

 私は慎吾くんに嫌われたくなかった。


「5人、4人、3人……」


 もうすぐ私の番だ。

 私は勇気を出して、慎吾くんに声をかけた。


「し、慎吾くん……」


 慎吾くんは私の声に驚いて、私の方を向いた。

 慎吾くんの目はとてもきれいだった。

 そして、私を見てにっこり笑った。


「あ、あの……」


 私は何を言おうかと考えたけど、何も思いつかなかった。

 私は慎吾くんの笑顔に見とれてしまった。


「こんにちは、君は……」


 慎吾くんは私に話しかけようとした。

 でも、そのとき、前の人が鐘を撞いた。

 鐘の音が大きく響いて、慎吾くんの声が聞こえなくなった。


「君の番だよ」


 慎吾くんは私に手を差し出した。

 私はその手を取った。

 慎吾くんの手は温かくて、優しかった。


「ありがとう」


 私は慎吾くんに感謝した。

 慎吾くんは私を鐘のところまで連れて行ってくれた。


「せっかくだから、一緒に鳴らそうか」

「……うん」



 私は慎吾くんと一緒に、鐘の縄を引っ張った。


 ――ゴーン。


 鐘が鳴った。私は慎吾くんと目を合わせた。

 慎吾くんは私に笑ってくれた。

 私も笑い返した。


「楽しかった?」


 慎吾くんは私に聞いた。

 私はうなずいた。


「うん、楽しかった」


 慎吾くんと一緒に鳴らせるなんて、とてもロマンチック。

 今年の最後に、とっても幸せな事が起こった。


「よかった」


 慎吾くんは鐘を鳴らし終わると、私の手を握ってくれた。

 私も手を握り返した。


「除夜の鐘っていいね。私大好きだよ」

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