天女

 秋の空は高い。

 薄い雲の層は、まるで絨毯みたいに見える。


 あの雲の上に人が住んでいるとすれば、ふかふかの雲の絨毯の上で寝転んでるんだろうな。

 それでいて、良い眺めが見渡せて。

 とても気持ちいいんだろうな。


 暑くも無く、寒くも無く。

 風は気持ちいいし。

 金木犀の香りもして。


 秋って本当に良いよね。

 窓の外を見ているだけでも楽しくて、時間がどんどん過ぎていくよ。


「空から女の子が降ってくるとか、良いよねぇ」


 空を眺めながらつぶやいて過ごす。

 それも秋の特権だなー。


神無月かんなづきさん、ずーっとぼーっとしてどうしたの?」

「いやね、秋の空って素敵だなって思って」


 私の前にいる中尾なかおさんは、一生懸命作業している。

 精が出てますね。

 真面目で偉いなー。


「神無月さんは、いつもぼーってしているけれども、秋はいつも以上にぼーってしてるんだね」

「そうそう。それが私なんですよ。現実なんて忘れてさ。私は雲の上の住人になりたいんだよ」


 そんな会話をしながら窓の外を眺めていたら、怒声が聞こえてきた。


「これ、まだ進んでないの? 今日終わるって言ってたじゃん?」


 生徒会長が、男子に対して怒ってる。


 そうなんだよね。

 こんなに気持ちい陽気だと、中々手につかないよね。

 文化祭の準備って。


 私も全然進んでないや……。



 私と中尾さんは、造花を作る役目。

 クラスの出し物に使うらしくて、大量に作らなきゃいけないんだ。

 私の分も、ほどんと中尾さんにやってもらっちゃってる。


「神無月さん、私達も文化祭の準備進めちゃおう! 会長がこっち来る前に!」


 のんびり屋の私でも、怒られちゃうのは嫌だからね。

 こういう時は頑張ります。


「中尾さん。了解です!」



 ◇



 そこから、三十分くらいは集中して作業をしていた。

 秋の花のコスモス。


 よく、高校ごとに文化祭に名前がついてるけれど、私たちの高校の文化祭は『秋桜コスモス祭』っていうんだ。

 周りが山に囲まれた高校で、コスモスが群生してて綺麗な学校なんだ。

 コスモスも見慣れているので、やる気になればササッと作れてしまう。


 とても順調に作業が進んでいた。

 私が作業に集中している間に、生徒会長がこちらへ回ってきたようだった。


「ちゃんと進んでる?」

「もちろんです!」


 中尾さんが、調子よく答えてくれた。

 途中からだけど、私もやる気出したから、一気に進められた。

 これなら大丈夫そうかな。


「ここのチームは良い感じに進んでるね! 流石です」

「会長も順調そうですね。その衣装もお似合いです」


「ありがとう。花に囲まれて、天女が舞うカフェですもんね」


 ん……?

 私たちのクラスの出し物って、そんなコンセプトなカフェをやるんだっけ?

 クラスの出し物を決めるとき、私がぼーっと空を眺めてて聞いてなかったか……。



 作業の手を止めて会長の方を見ると、ふわふわした衣を羽織っていた。

 空に浮かぶ雲のように白くて、薄い生地なので会長の制服がうっすら透けて見える。


「空の住人、天女さんみたい……」

「あら、神無月さん。どうもありがとう。これ可愛いでしょ? 女子はみんな、この衣装だよ!」


「すごい、すごい。まさに空の住人って感じじゃん。私もそれ来て、ふわふわと舞いたい!」

「そうだね。文化祭の準備、頑張ろうね!」


「はい!!」


 私、空が好きだけど、そこに住みたいと思ってるんだ。

 その夢が文化祭で叶うんだ。

 憧れの天女になれるなんて。


 俄然、やる気が出てきた!

 天女って、とっても素敵。私、大好きです。

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