化学

 化学って難しい。

 なんだか記号がいっぱいあって、何のことだかわからない。


 すいへーりーべーぼくのふねー、

 なんだーそーれーわからないーって感じ。



 お経みたいで、聞いているだけで眠くなってくる。

 これは、私を眠くする魔法だね。


 私、小さい頃はお母さんの読み聞かせを聞いていても、全然寝なかったらしいの。

 お母さんの声は優しくて、すごく心地よかった記憶があるれど、全然寝付かなくて、目がギンギンして笑って聞いてたらしい。


 そんな私でも、この記号の羅列は、寝れる。

 優しいお母さんの声じゃなくて、科学の先生のおじさん声だけれども。

 これは、寝ちゃうな……。



 録音でもしておいて、不眠症になったら使ってみようかな。

 そんなことを思っているうちに、瞼が閉じてしまっていたらしい。



「……おい、笹原ささはら、寝るなよー」


 ああ、認識できる言葉が聞こえる。

 私の名前だ。


 そうは言っても、眠りの魔法が解けるのは、王子様のキスか、それに準ずる何かが必要です。

 そう言うのが無いと、いきなり目は覚めないよ。


 教室は暖かいし。

 お昼ご飯を食べた後の最初の授業。

 陽だまりの中で、最高に幸せな授業。


「おいー! 起きろー!」

「はいっ!」


 先生が大声を出したのでびっくりして目を開けた。

 目の前に先生がいた。


 白衣姿の先生。

 なんだか、白装束みたい……。

 いきなり起こされると、私は死んでしまったかのような錯覚を起こしてしまう。


「眠くなるのはわかるが、大事なところだから聞いててくれ」

「あ、はい。すいません……」


 うう……。

 びっくりしたよ……。

 周りのみんなも寝てるっぽいのに、一番前の席の私が見せしめとして怒られた感じだ。


 寝てるのが悪いんだけどね。

 この記号の羅列が良く分からない……。


 先生は、黒板に書いていた記号を指して、話始めた。


「これはな、『元素』っていうんだ。この記号だけ見てもイメージつかないだろうから、実物を持ってきた」


 そう言うと、先生は教卓に何個か塊を置いた。


「危険なものは、写真だけで申し訳ないが。この記号たちの実物はこういうものだっていう標本だ。

 眠そうにしてやつも多いからな、ちょっと前に出て来て見てみてくれ」


 そう言って、私が最初に呼ばれて、見せられた。


 元素記号の実物。

 記号の書いてあるところに、実物が置いてあった、。


「あれ、先生? 左端と、右端の実物は無いんですね?」

「おぉ、笹原冴えてるな! 良いところに目を付けた。周期表の端にある元素は気体で存在するからな」


「逆に、真ん中の方は、石っぽくて、この辺りから実物がキラキラ輝いてます!」

「そうそう、そこがいわゆる金属。ちなみに、この辺りが金銀だな」


「綺麗です……」


 私は、また違う部分が気になったので聞いてみた。


「先生下の方は、なんか変なマークになってるんですね」

「そう、それは『放射能標識』だ。気体や個体よりも、不安定な元素なんだ」


 先生の説明が腑に落ちなくて、首をひねっていると、先生は続けて説明してくれた。


「不安定ということは、性質を保てず分解されてしまう。その時にエネルギーを放出する。それを利用しているのが、原子力発電というものだ」


 難しいこと言われると、立ったままでも意識が遠のく気分……。

 なんだか、私には理解できないけれども、こうやって規則性があって並んでいると綺麗。


「元素って、初めは難しそうに見えるけれど、深く知っていくと、その性質は綺麗な法則に整っているんだ。そう考えると、なかなか楽しいだろ?」


 うーん。

 端の方が気体なのと、真ん中ん方が個体になってて、金属が集まっている部分もあるーっていう事しか分からなかったけれども。

 そんな法則性がいっぱいあるってことかな?



 先生の話を聞くまで、私は本質まで知ろうとしなかったもんね。

 ……化学って、実は楽しいかも。


「これをきっかけに、化学が好きになってくれると、先生は嬉しいぞ」


 少しわかると楽しく感じられたな……。

 なんだか、ちょっとだけ授業を真面目に聞いてみようかなって思った。


 実物が見ると親近感が湧くというか、なんだか身近に感じる。


 私、化学の事が少し好きになれたかもしれないな。

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