サプライズ

 ――バツン。




「きゃっ……」


 いきなり、部屋が真っ暗闇になった。

 すぐさま、二階にいた姉の叫び声が聞こえてきた。


「ちょっと、なにこれ―!」


 私とお母さんはリビングにいた。

 一人、トイレに行っていたお父さんから、声が飛んでくる。


「みんな、大丈夫だ。落ち着けー!」


 一番落ち着かなきゃいけないはずなんだけど、一番慌ててるように感じるな……。

 そんなことを、私は冷静に思った。


 これは、停電が発生したんだね。


 今日は台風が来るって言って、外ではかなりの強風が吹き荒れていた。

 まさか、停電するとは思っていなかったけど。


「ちょっと経てば、すぐに戻るから心配するなよ? それまで動くんじゃないぞ?」


 お父さんが一番心配だよ。

 お母さんも同じく、私に声をかけてくる。


「ちょっとの辛抱だからね」


 スマホのライトでも付ければいいのに。

 私は、スマホのライトを使ってリビングを照らした。

 案の定、暗闇の中には、慌てているお父さんとお母さんの顔が見えた。


「お、美也子みやこすごく機転が利くな! これで周りが見えるな」

「さすが、美也子、いつでも冷静ね」



 はぁ。みんな頼りにならないな……。


「この明かりで、ちょっとポケットラジオでも持って来よう。お母さん、ラジオってどこかに無かったか?」

「あった気もするけど、どこだったかしら……」



 ……いつの時代の人だよ。

 情報を調べたかったら、私が今持っているスマホで調べればいいじゃん。

 お父さんも、お母さんも持っているはずなのにな……。



「誰かー、助けてぇーー!」


 その時、二階で姉が叫んでるのが聞こえた。


「大変だ、美也子、行ってきてくれないか。お父さんとお母さんがリビングで待ってるから」

「……まぁいいけど」


 どうしたんだろうな、お姉ちゃん。


 お姉ちゃん、スマホが手元に無かったのかな。

 適当にどこかに投げ出してたのか……。


 うちの家族は、どこか抜けてるんだよね。


 私は立ち上がると、階段を上がってお姉ちゃんの部屋へと向かった。

 スマホで階段を照らしながら、慎重に二階へと上がる。


 こんな状況だけど、私に抜かりはない。

 姉は、何をやってるか分からないから、念のため、ノックをしてみる。


 ――コンコン。



「お姉ちゃん、入るよー」

「入って入ってー!」


 ドアを開けると、真っ暗闇。

 スマホのライトで部屋の中を見るけど、お姉ちゃんの姿が見えない。


 あれ? どこに行ったんだ?

 ベッドが膨らんでるから、そこにいるのかな?

 子供じゃないんだから、そんなに怖がることじゃないでしょ。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 そう言いながら部屋の中へ入って、ベッドに近づいてみると急に部屋が明るくなった。


「あ、停電終わったみたいだよ。お姉ちゃんー?」


 やっぱり部屋の中には、いなかった。

 何でだろう?



 ベットの膨らみが気になったので、布団を剥いでみた。

 すると、ベッドの敷布団に、カラーテープを使って大きく書かれていた。



『MIYAKO Happy Birth Day!』



 部屋の入り口から、歌いながら家族がやってきた。

 三人とも、パーティ用の三角形の帽子を被っている。

 帽子は、電気に照らされてキラキラと光っている。


「「ハッピバースデー美也子ー♪」」


 あっ……。

 今日は私の誕生日か……。


 うちの家族は、抜けてる人が多いと思ったけど、私が一番抜けてるじゃん……。

 このサプライズ用に、ブレーカーでも落としたのか……。


 ……うちの家族、抜かりないね。


「休日にサプライズするって難しかったんだからね」

「どう、びっくりした?」


 そう言って、姉と母が楽しそうにしてる。

 お父さんは、なんだか誇らしげな顔をしている。


「これを考えたのは、お父さんだからな! 楽しかっただろ? もちろん、一階にケーキも準備してあるぞ!」

「お父さん、それは二段階目のサプライズだから言っちゃダメだよ!」



 こういうことするのも、楽しいか。

 私のことを楽しませようと、色々と準備してくれたんだね。


「ありがとう。楽しかったよ! サプライズって楽しいね。私、そういうの好きだよ!」

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