梅雨の合間の晴れ

 梅雨の合間の晴れ。

 電車の窓が少し空いていて、車内に風が流れ込んでくる。

 久しぶりに晴れたので気持ちがいいなー……。



 窓の外には青空が見える。

 どこまでも青い空に、白い雲の輪郭がくっきり。

 吊革みたいに、丸い雲。


 電車の進行していくと、段々と雲も向きが変わっていって。

 雲と吊革と重なった。



 まる!



 なんか、今日は良いことありそう!




 電車が駅に着くと降車客と一緒に車外に押し出されてしまう。

 あらがってもしょうがないので、一旦降りてからまた同じ電車に乗る。

 それがみんなが気持ちよく過ごすためのルールだもんね。

 今日は晴れてるから、私の気持も穏やか。


 再度電車に乗り込むと、今度は奥のドアの方へと押し込まれた。

 車内側を向いても誰かと目が合うと思って、窓の外へと目をやる。


 やっぱり晴れてるっていいな。

 すっかり夏の天気だなー……。



 ◇



 高校の最寄り駅まで電車。

 そこからは歩きか、バスで高校まで向かう。

 歩いても行けるけど、梅雨の季節だとバスを使うことが多い。


 今日は晴れてるから、久しぶりに歩こうかな……?



 地下改札から出て、地下通路をそのまま歩くとバス停に通じる階段がある。

 いつもはここを上がっていくけど……。



 迷ったけど、やっぱり今日は歩こう!

 キッパリと決断しよう!



 バス停に通じる階段を通り過ぎて、地下通路の奥まで行く。

 歩いていく場合は、そこから階段を上がって地上へと出るのだ。


 階段をゆっくり上がって行くと、チラッと青空が視界に入った。

 地下から見上げる空は、とても明るくて綺麗。

 この青空を見ると、頑張ろうって気持ちになる。



 ふぅ。


 少し息切れしながら、明るい地上の世界へと出た。


 夏の日差しの明るい世界。

 バスに乗っていると景色なんて見ていないけど、季節は着実に変わっているんだね。


 紫陽花が綺麗に咲いている。

 新緑だと思っていた樹木も、濃い緑色の葉っぱをつけている。

 明るい日差しに照らされて、とっても綺麗。



 空気も澄んでるように感じる。

 風も気持ちいい。


 この季節も好きだなぁ……。



「おっ! ‌加奈子かなこ? 今日歩きなんだ?」


 いきなり後ろから声をかけられた。

 声の主は、すっと隣に並んできた。


 薄いベージュのスクールベスト。

 それと同じような色の明るい髪の毛。

 爽やかなマッシュツーブロックな髪型。


 弓弦ゆずる君。



「おはよう。……ございます」


 いきなり声をかけられるなんて思ってもいなかったので、ついつい敬語っぽくなってしまった。


「なに、かしこまっちゃって?」


 弓弦君、明るいな。

 細い眉をキリッとさせて。

 ちょっとキメ顔を作ってくる。



「今日も元気に頑張ろうぜ!」


 そんな弓弦君に、私は自然と笑みがこぼれてしまった。

 ……変にカッコつけちゃって。


「ふふふ」


 弓弦君は、キメ顔からゆっくりと優しい笑顔へと変わった。

「……あれ? ‌俺変なこと言った?」


 今日は、歩きにして良かった。

 やっぱりいい事があった。

 ‌弓弦くんと、楽しく登校出来た。


 梅雨の合間の晴れって好き。

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