6月

揚げ物

 じゅー。


 じゅわじゅわじゅわー。




 ジューシーな音。

 天ぷら鍋の中で、衣をつけた鶏肉が鳴っている。


 音を立てながら沢山の気泡が次々と出てくる。

 ベタベタとしていた衣だったのに、美味しそうな音と共にどんどん水分が飛んで行く。


 カラッと揚げるから唐揚げっていうかな?

 けど、音はじゅわじゅわーって鳴ってるから、本当は『じゅわ揚げ』なのかな?



 今日は、お母さんが唐揚げを作ってくれることになった。

 誕生日でもなんでもないんだけど、たまに揚げ物パーティをしようって言って揚げだした。

 それで、揚げる時はとことん揚げていくの。


 お母さんはちょっと極端なんだよね。


 けど、美味しい唐揚げがいっぱい食べられると思うと、私は幸せ。

 じゅわじゅわは、幸せの音だよね。

 幸せの音を聞いていると、お腹もぐーぐーなってくる。


 ――ぐー。


 ――じゅわじゅわ。



 音を聞いてると、やっぱり『唐揚げ』っていう名前の由来がどうしても気になってきた……。


 ちょっとお母さんに聞いてみよう。

「ねぇねぇお母さん、唐揚げってなんで唐揚げって言うの?」



「それはね、『カラッ』て揚げるからよ!」


 あ、やっぱりだ!

 私の思った通り。カラッて揚がるからだ!

 だから食べた時は、カリッてするもん。


 私の予想は、あってたんだ。

 母と顔を見合わせて、二人でニコっとした。


 そんな顔をお父さんに向けると、お父さんもニコっとした。

「せっかく揚げ物をするなら、お父さんはオニオンリングとポテトフライも欲しいなー」


 お母さんは、一瞬考え込むと答えた。


「それもいいね!」


 そう言うと、お母さんは冷蔵庫に入れてあった玉ねぎとジャガイモを取り出してきた。

 常温だとすぐに芽が生えてくるからって、うちでは冷蔵庫の野菜室が根菜の部屋になってい


 お母さんは手際よくピーラーでジャガイモの皮を剥いていく。

 ジャガイモは、しゃーしゃー音がする。


 皮を剥き終わったジャガイモを、今度は細い短冊状にザクザクと切っていく。


 切り終わったら、皿の上に乗っけて、今度は玉ねぎ。

 玉ねぎの皮を剥いたら、丸の上と下を切って輪っかになるように水平にサクサク切っていく。


 切った材料をキッチンペーパーで拭いて、鍋へと入れていく。


「衣は面倒だから、素揚げするよー」


「おっけー!」


 鍋に入れたジャガイモと玉ねぎはじゅわじゅわ音を立ててがり始めた。


 唐揚げと同じ音だ。


 真理まり、今揚げているのは何て名前かな?


「ポテトフライと、オニオンリング!」


 揚げ物っていろんな名前がある!


 揚がったものから順々にお皿に取り上げていく。お皿の上でもしばらくじゅわじゅわ言ってる。


 どんどん皿へ取り上げていくと、揚げ物で山が出来上がった。


 その山を、私がダイニングテーブルへと運ぶと、お父さんもお母さんも来た。


「それじゃあ、みんなで頂きましょうか!」


「いただきまーす!」


 うん、美味しい!


 私、揚げ物って大好き!

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