第35話 相談

 洞窟の入口に近付いた千景は息をひそめて辺りを伺った。

 后妃と和孝がまだ焔と戦っている可能性があったからだ。


 千景は道を降りて、流れる川の水に足を浸す。

 冷たさは感じられるが、意識体だからさほど影響はない。

 そして壁を沿うように進み、岩陰からこっそり状況を把握するために覗いた。


 妙に静かだ。


 気配がないことを確認すると、千景は回廊の方へと向かった。

 浄化の間に通じる回廊は一部破壊されていた。手摺は壊れ、真新しい刀傷が柱に見える。


 だが、戦闘の形跡はあるものの、そこには誰もいなかった。

 血や負傷したと思われる明らかな痕は見当たらない。

 念のため、手摺の向こう側も覗き込んでみたが、誰かが落ちたような形跡もなかった。 


 ほっとしたものの、どちらが勝ったのか、それなら浄化の間に向かう間に誰とも鉢合うことがなかったことにも不安を覚えた。

 藤子と和孝が勝ったならば、千景を追って主上や悠幸の安否を確かめるために浄化の間に向かったはずだ。

 逆に焔が勝ったならば、千景を追うだろう。


「どうか、御無事で……」


 千景は祈るように呟いた。その時。


 がさがさと近くの繁みが音を立てた。千景がはっと警戒し、構えると。

 ひょこっととても小さな、そしてよく見知った姿が現れた。


「ちーさま、リンたち、何か力になれることある?」


 付喪神三匹の姿に、千景は驚いた。

 繁みから小さなうさぎと犬とかめが顔を出している。

 一体いつの間に、と思ったが、気が付いたら屋敷内で遊んでいる彼らだ。異変をどこからか察知したのだろう。


「いえ、危なくないよう今すぐに戻ってほしいのですが」

「ふえええん」


 リンは目を潤ませた。今にもぽとぽとと大粒の涙を流して泣きそうである。


「マロちゃーん、ちーさまにフラれたあ」

「よしよしよし」

「大丈夫だよ。ちーさまはリンちゃんのことを大事に思ってくれているんだよ」


 べしょべしょと泣きつくリンにマロとカメ助は宥めた。

 おろおろするマロに比べて、カメ助は大丈夫だよ、と安心させるのはいつものことだ。

 泣いてしまったリンに千景は弱りながら、マロとカメ助に尋ねた。


「どうしてここに?」

「こっそり来ちゃった」

 てへ、とカメ助は笑う。


 千景は悩んだ。連れて行っても戦力になるかわからない。そもそも危ない目にあってほしくない。


 だが、彼らの霊力は未知数のところがある。

 何よりも千景だけで、この状況が覆せるかといわれたら、かなり難しいのも事実である。


「じゃあ……少し相談してもいいですか」

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