第32話 再会
洞窟の通路は以前と異なり、明かりが灯されておらず完全な暗闇であった。
微かな水の音だけが聞こえる。
数珠玉の手摺を辿りながら走っていたが、途中よりあまりの暗さから足元がほとんど見えず、特に何かに躓いたわけではないのに千景は転倒した。
「わっ、ったた……」
衝撃はあったが、怪我をしている感覚はない。
元の体でなくて良かった、と千景は思った。
冷静になると、この一日で色々なことがありすぎた。
特に心の疲労が尋常ではないはずだ。
足を止めるともう動き出せなくなるのではないか。そう思ってしまった。
だからこそ、今止まるわけにはいかない。
「早く、悠幸様のもとに……」
千景はふと思い至り、銀の炎を出現させた。
思った通り、それは光を発して行く道を照らしてくれた。
あれほど千景が信じたくなかった力が、今は千景を導いてくれている。
銀の炎が、湿った岩肌や足元の木の板で出来た道、手摺を浮かび上がらせている。
「ありがとう」
千景はそう呟くと再び走り出した。
しばらくすると、目的の空間が視界の先に現れた。
入り口を見て千景は愕然とした。
以前と異なり、空間全体に玻璃のような青い硝子が張り巡らされていた。
奥まで見通すことが出来ず、千景は精一杯の声をあげた。
「悠幸様! 主上!」
「千景!?」
声が届いたのであろう。悠幸の姿が硝子越しに見えた。傍までやって来てくれたのだ。
千景は硝子のような壁に手を触れた。近付くまでは感じられないのに、触れると氷のような冷たさがある。
悠幸は千景の身体が意識体であることに気が付いた。
「どうしたんだ、一体何があったんだ!?」
「早く主上に、お伝えをしなければならないことがあるのです!」
千景は守り刀を召喚した。魂や意識体による形成なので、以前と何ら変わりない形だ。
鞘から抜くと、千景は立ちはだかる壁に向けて振り上げる。
硬質の物同士がぶつかる耳が痛くなるような音が響いて、千景の守り刀が手の中から弾け飛んだ。
腕全体に痺れるような感覚が走り、千景は一度たたらを踏む。
それでも落ちた刀を拾って、千景は再び振り上げる。
今度は体全体を使って、先ほどよりも強く打ち込んだ。
「ぐっ」
腕から体全体にかけて打ち込んだ際の衝撃が走り、今度は体ごと倒れ込んだ。
力を加えれば加えるほど、その壁は同じぐらいの力で跳ね返してくるようだった。
「無理だ。この結界を一人で破ることは出来ない」
頼人の声に千景は顔を上げた。
結界を打ち壊そうとした音に気付いたのだろう。頼人は難しい顔をして、歩み寄って来ていた。
「ですが……!」
「これは元々神剣に込められていた、私の浄化の力を放出して利用しているんだ。
ひとまず話を聞こう。千景、お前の身に何が起こったのか教えてくれ」
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