第21話 悠幸の想い

「突然あのような話を聞いて、びっくりしただろう」


 千景が立ち去った後、頼人は穏やかな口調で、固まっている悠幸に声をかけた。

 悠幸は少し考え込むと、首をゆっくりと横に振った。


「いえ、驚きましたが……千景が本当の兄だとわかって嬉しかったです」


 驚いた、というのは正直な感想だった。

 けれど、嫌ではなかった。むしろ、千景と血の繋がりがあるというのが嬉しかった。


 悠幸は両親を亡くしている。

 主上や従兄妹が良くしてくれるし、楓や松ノ宮に仕える者が皆優しいので寂しさを感じることはなかったが、千景のことは誰よりも大事に思っていた。


 だからこそ、例え隠されていたとしても、家族と言える存在がいるのは喜ばしいことだった。


 けれど、悠幸は顔を曇らせた。

 千景のあの時の驚愕した表情。彼はどのような思いを抱いているのだろうか。

 千景は悠幸を心から敬愛して仕えている。


 だからこそ、怖い。

 両親のもとで育てられた自分のことを疎ましく思わないだろうか。


 どうか、嫌わないでほしい。切にそう願った。


 頼人はそんな複雑な感情を浮かべる悠幸の頭に手を置いて、わしゃわしゃと掻いた。


「わっ」

「悠幸は本当に素直だな。さすが、兄上の子だ。俺の子たちも、もっと素直ならいいのに。口ばっかり達者になるんだ。誰に似たのやら」

「主上?」


 頼人は優しい目をこちらへ向けた。


「千景も真っ直ぐすぎる性格だから、今は衝撃の方が強いだろうが……大丈夫だ」


 安心させるように、頼人は口にした。

 彼に大丈夫だと言われたら、本当に大丈夫のような気がしてしまう。

 頼人は亡くなった父とは性格も話し方も異なるが、悠幸にとっては父に最も近しい存在だ。


「力を戻そうと悠幸なりに色々頑張っているのだろう? 聞いているぞ。今から浄化の間に向かう。よければ見学でもするか?」


 悠幸は千景を想った。今すぐ追いかけた方がいいだろか。

 だが、誰だって一人になりたい時もある。昨日悠幸が一人になりたいことを千景は察して、しばらくそっとしておいてくれたのだ。


 今度は自分がそうする番だ。

 悠幸は主上の言葉にあまえることにした。


「はい、お願いします」


 吹き抜けになっている舞台の方は、ぽつぽつと雨が降り始め、木の床を濡らし始めていた。

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