第10話 私と障害者雇用の抹茶さん

前回の話で自分の新人時代を思い出したら想像以上に気分が落ち込んでしまったので少し違う話を。


私の働いているカフェには障害者雇用枠があり大体各店舗に一人、障害者枠で働く従業員がいる。

といっても従業員同士でも特に障害について説明を受ける訳でもなく、障害の重さも(客観的に見ている限り)軽度の人が多く、言われなければ気づかない場合も多い。


私は引越しの都合で一度店舗を異動している。

異動先の店舗にいたのが障害者雇用で古株の抹茶さん(仮名)だ。


抹茶さんは私より少し年上の女性で、独特な喋り方や風貌から差別的な言い方になるが、障害がある事が外見からわかりやすい方だった。

今まで一緒に働いてきた障害者枠の従業員と違い、接客に関わるポジションには入らず、主に掃除や、仕込み作業専属で働いていた。


私はハッキリ言って抹茶さんが苦手だった。


初対面時、作業中の抹茶さんに挨拶をしたところ、集中していた時だったらしく「話しかけないで!」と怒鳴られ、それ以降私は抹茶さんに無視され続けた。


挨拶は無視されるが、仕事中私のやり方が気に入らないと大声で一方的に注意され、こちらの意見は聞き入れてくれず、休憩中の雑談も露骨に拒否するのでなかなか打ち解けられなかった。


仕方がないと頭では理解しつつ、他の従業員とは仲良く話していたり、周りから特に説明やフォローがない事もじわじわと精神的負担になっていった。


解決が見出せないまま異動して暫くたった頃、抹茶さん宛にお客様から本社を通してクレームが入った。

「間違えた場所で並んでいたら、抹茶さんから厳しい口調で注意され、その後無視をされた」というものだった。


抹茶さんはそれ以降フロアの仕事には出してもらえずゴミ捨てや皿洗いなど完全にバックヤードの仕事に移行された。


バックヤードの仕事といっても常にある訳でもなく、やってもやらなくてもいいような仕事を文句を言わず作業する抹茶さんを見て、少し悲しい気持ちになった。


ある日、バックヤードで棚の裏側を掃除する抹茶さんに「見えない所までありがとうございます、気持ちいいです」と話しかけた。正直な気持ち…というよりも、罪悪感のような複雑な感情を消化したかった偽善からの言葉だったように思う。いつものように無視…かと思ったら


「私、掃除好きなんだよねぇ」と抹茶さんが笑いかけてくれた。


その日辺りから私への人見知りが解除されたのか、徐々に話してくれるようになった。


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アラサーADHDが某人気カフェの店員になった話 @TSUMAME

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