第9話 私カフェで本領発揮
親睦会も終わりオープンの日を迎えた。
しかし私はまだ研修先の店舗で働いていた。
オープニングメンバーとはいっても私は他の人達から少し遅れて入社した為、大混雑の新店で働くには力不足どころか足手纏いとの判断で研修先で居残りとなった。
研修先の店舗は割と暇な店舗で、優しくのびのびと育ててくれた。
しかしほとんどが大学生アルバイトの中、30代のおばさん新人に気を使ってくれているのが痛い程に伝わり、私は早く新店に移動できるのを心待ちにしていた。
そして遂に新店での初勤務の日がやってきた。
持ち前の人当たりの良さ(初回時のみ)で挨拶をして周る。さすが接客を売りにしているカフェなだけあって全員コミュニケーション力が高く笑顔で受け入れてくれた。
が、開始5分で心が折れる。
まずは接客の基本のレジから。
ここでレジミスに次ぐレジミス。
やる事は研修先の店舗と基本的には同じなのに、開店したての新店は尋常じゃない混み方で私は完全にあがっていた。
レジが間違えると無駄な作業が増え待ちの列がどんどん長くなっていく。ついさっき笑顔で挨拶を交わした先輩の顔がみるみるひきつる。
そんな様子を察して更に頭が真っ白になる。
打ち間違えてはいけない。聞き漏らしてはいけない。待たせてはいけない。
どれを優先したらいいかわからない。
完全に脳のキャパオーバーだ。
レジを交代したら次は仕込み係。
色々な原材料を切らさないように仕込んでいく。特にここはコーヒー屋なのでコーヒーを切らす事はあってはならない。しかし早々に切らしてしまう。気をつけてね〜と優しく注意されたにもかかわらず、次仕込んだはずのコーヒーが抽出ボタンが押せておらず更に注意をうける。押したはずのボタンがなぜ押せていないのか、原因を考えているとその事で頭がいっぱいでどんどん視界が狭くなっていく。
物の定位置が少しでもズレてると視界に入らず
一つ一つの物を探すのに異様に時間がかかる。
今になるとこうなってしまうと何をしてもダメで、一旦気持ちを落ち着かせないと雪だるま式にミスをし続ける事が理解できる。
オイル漏れしてる車を無理矢理動かして余計に故障させている状態だ。
しかし当時は、もうミスできない…!と焦るばかりで対策を考える余裕もなくとにかく手を動かさなければと暴走し続けた。
今や鬼の形相となった先輩に「ねぇ、ちゃんと周り見えてる!?」と怒鳴られた所で自分の脳が異常な状態になっている事に気づく。
これが私の鮮烈な店舗デビューだった。
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