第4話 窓から城壁が見える家

 俺が寝ていた部屋に戻って来た。


 食事を取って、落ち着いたし、現状について考えてみようか。


 それにしても、なんかこの部屋、暗いなぁ。


 あっ、そういえば、カーテンが閉じたままだったな。


 開けようか。



 俺はカーテンを開けた。


 そこには、日本によくある左右に引いて開閉するタイプの窓があった。


 おおっ、室内が明るくなったな!


 ん?

 遠くの方に、大きな壁が見えるぞ。


 まるで西洋の城にある城壁みたいだな。


 あれはなんだ?

 まさか本当に城壁なのか?



 あれ?

 町の様子もおかしいな。


 瓦屋根の日本風の建物もあれば、レンガ、石、コンクリートと思われるもので建てられている西洋風の建物もある。


 えっ!?

 ナニアレ!?


 キノコっぽい家まであるぞ!?


 なんでこんなに建築様式がバラバラなんだ!?


 訳が分からんぞ!?


 やはり俺は異世界に来てしまったのか!?



 おっと、慌ててはいけない。


 いったん深呼吸をして、落ち着こう。


 ひっひっふー……


 よし、落ち着いた。


 では、現状について考えてみよう。


 俺はベッドに座った。



 ええと、俺は繰栄くりえい 多一たいち、三五歳のおっさんで、日本人の会社員だったはずだよな。


 今日、目が覚めたら、なぜか周囲の者たちから、ダァンサービオと呼ばれるようになっていて、体が十代前半くらいの美少年になっていたと。


 周囲には、なぜか俺が昔作った世界の設定が反映されているものが多数ある。


 この部屋の家具のように、日本で普通に手に入るようなものも多数ある。


 肝っ玉母さん、お金、外の建物のように訳の分からんものもある。


 現状はこんな感じだな。


 なんだこれは!?


 訳が分からんな!?


 なんでこんなことになってしまったんだ!?



 そういえば、昨日は何をしてたっけ?


 あっ、そうだ!

 昨日は休日だったから、朝から酒を飲んだんだっけ。


 で、酒を飲んで……


 そのあとは…… そのあとは……


 ん?

 思い出せないな……


 ということは、もしかして、俺は泥酔中で、夢を見ているのか?


 もう一回、頬をつねってみようか。


 うん、やはり痛いだけだな。


 ここは現実みたいだな。



 そういえば、ダァンサービオの方は昨日何をしていたのだろうか?


 うーん、思い出せないな。


 みんなに聞いてみようか。


「ゼダジカ、俺って昨日何をしていたっけ?」


「不明でございます」


「えっ? 覚えていないのか?」


「ええ、実はわたしも記憶が混乱しているようでございまして」


「そうだったのか」


 他のみんなにも聞いてみた。


 全員記憶が混乱していて、昨日のことを覚えていないそうだ。


 なら、肝っ玉母さんに聞いてみようか。



 ダイニングキッチンにやって来た。


 肝っ玉母さんは皿を洗っているようだ。


「ちょっと良いかな? 俺は昨日何をやっていたか知っているかな?」


「えぇっ? そんなの覚えてないわよ!」


「昨日の朝は、何を食べたっけ?」


「え? ええと、忘れちゃったわ」


「じゃあ、夕飯は?」


「うーん、それも忘れちゃったわね」


 何にも覚えていないんだな。


「あっ、そうだ。俺って、何歳だっけ?」


「はぁっ!? 何を寝ぼけているの!? 一二歳になったから学校に行けるんでしょ!?」


「そ、そうだよな。いろいろありがとう」


 俺はその場を立ち去った。


 ナニコレ……


 みんな昨日のことを覚えていないみたいだぞ……


 どういうこと?


 ちょっと怖いんだけど……



 部屋に戻って来た。


 そして、ベッドに座った。


 さて、あとは何を考えようか?


 これからのことかな?


 とりあえず、目標は元に戻ることにしよう。


 そして、戻れなかった時のために、この世界でも生活できるようにしておいた方が良いだろう。


 そのために今やるべきことは、情報収集だよな。


 そういえば、この家には情報端末の類はないのかな?


 探してみようか。



 おや?

 机の上に何かあるぞ。


 これは学校のパンフレットかな?


 表紙には、三人の若い女性の写真も載っている。


 そして『ゴクフツウノタダノ学校』と書いてある。


 ごく普通のただの学校?

 なんかやる気のない名前の学校だなぁ。


 まあ、そんなのどうでもいいか。


 これはあとで読むことにして、探索を続けようか。



 ……見つからないなぁ。


 この家にはないのかな?


 それとも、この世界にそういうものはないのだろうか?


 どうなんだろうな?



 さて、どうするか?


 とりあえず、パンフレットを見てみるか。



 えっ!?

 ゴクフツウノタダノ学校というのは略称で、正式には『ゴケビムヂンクジイロ・クエアウセフサザナズ・フドタユクハァサブケ・ツデアバヴビオゴグナ・ウユエヨエビビフミビ・ノウレマウゾダイサゾ・タカマッパヘハルヨシ・ダダノムカアオトエル・ノクデヨワネイヤヂク盗賊勇者賢者魔法使い聖女冒険者学校』というのか!?


 なんだそれは!?

 名前が長すぎるだろ!?


 これを考えたヤツは、バカなんじゃないか!?


 もう、この時点で行きたくなくなってきたぞ!?


 なぜダァンサービオは、ここに行きたかったのだろうか!?


 訳が分からないなぁ。


 まあ、とりあえず、続きを読んでみるか。



 『この学校は、盗賊、勇者、賢者、魔法使い、聖女、冒険者を育てる環境を用意している学校です』と書いてある。


 盗賊を育てているのか!?


 なんじゃそりゃぁっ!?



 『この学校は、料金を払えば誰でも入学できます。百万アカヂィで、一年間在籍できます』と書いてある。


 ほう、そうなんだ。


 そういえば、お金は誰が、いくら払ったのだろうか?


 肝っ玉母さんかお父さんなのかな?


 確認しておこう。



 『この学校に試験や課題はいっさいありません。講義は自由に出席してもらって構いません。学校の設備は自由に使えます』と書いてある。


 なんか緩い学校だなぁ。


 生徒の自主性に任せる学校なのかな?



 『用がなくなったら、自由に卒業してもらって構いません』と書いてある。


 本当に緩いな。



 入学日は『ランブベービ歴二〇三一年四月八日』だそうだ。


 これはいつなんだ!?


 そもそもここの暦は、どうなっているんだ!?


 それも調べなくては!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る