第3話 異世界転生してる?

 手を洗って、顔を洗った。


 肌の感触が全然違うな。


 瑞々みずみずしくて、スベスベしている。


 自分の体とは思えないな。


 この体は何歳なのだろうか?


 体の大きさから考えて、十代前半くらいなのかな?


 あとで肝っ玉母さんに聞いてみようかな。



身綺麗みぎれい清潔漂白王ダァンサービオよ、まだ目ヤニが残っていますよ」


 聖女マユメ・アイ・コトリハが話しかけてきた。


「えっ、ああ、本当だ」


 目ヤニを取り除いた。


「気を付けてください。そんなざまでは、身綺麗みぎれい清潔漂白王を名乗れませんよ」


 名乗った覚えはないのだがなぁ……


 というか、なんなの、その肩書き?


 意味が分からないぞ。



 ん?

 今、マユメが目ヤニの存在を指摘してきたよな?


 ということは……


「もしかして、封印されていても、外の様子を見れるのか?」


「はい、見えていますよ。それに音も聞こえますし、ニオイも分かります」


「そうだったのか。どういう風に周囲が見えているんだ?」


「見えている範囲は、人間であった頃と同じくらいのようです」


「目はどこにあるんだ?」


「どうやら身綺麗みぎれい清潔漂白王の体の表面を、自由に移動できるようです」


「俺が前を向いていても、マユメは上や後ろを見れるのか?」


「はい、その通りです」


 そうなのか。

 いろいろと使い道がありそうだな。


「他のみんなも同じなのか?」


「その通りである」

「わたしも同じでございますよ」


 どうやら他のみんなも同じみたいだ。



 あれ?

 ということは……


「まさかトイレの中も見ていたのか!?」


「な、何を言っているのですか!? 聖女であるワタクシが、そんな不潔な真似をするわけないでしょう!! そういう時は、目を閉じていますよ!」


「なら、音と臭いは!?」


「それらも遮断することができます! そして、当然していましたからね!!」


「そんなこともできるのか!?」


 なら、風呂もトイレも問題ないな。


 ああ、良かった。



「かわいい息子さんだったわね、天使堕てんしおとしの益荒男ますらおダァンサービオちゃん。堕天使ちゃんは、ああいうのも好きよ」


 堕天使メートナ・ゲシビードがそう言った。


「ええ、確かに愛らしかったでござるよ、色狂い送りおおかみダァンサービオ殿。もっとじっくりと観察したいでござる」


 賢者レーロナネ・ウーマヒグがそう言った。


「あたしはもっと大きい方が好みよぉ。がんばって育ってねぇ、究極超獣きゅうきょくちょうけだものダァンサービオちゃん」


 悪魔トーネベワ・ガコホゲスがそう言った。


「形は良かったっぴ、ハイパーマジッククリエイター・ダァンサービオ。あとは育つだけだっぴ」


 大魔法使いレシンテ・ソノボアルがそう言った。


「将来が楽しみですわね、究極超雄魔女きゅうきょくちょうおすまじょダァンサービオ」


 魔女ガネモヨ・クダモがそう言った。


「おい、こら、なんで見てんだよ!?」


「聖女の前で、なんと不潔な!? 自重なさい!」


「お断りでござる」


「なんでだよ!?」


「封印されているせいで、娯楽が少ないでござる。数少ない娯楽、楽しませてもらうでござる」


「変態すぎる!?」


 なんでこんなのまでいるんだよ!?


 なんとか追い払えないかな?



「ところで、さっき肩書きはなんなんだよ? 悪口かよ?」


「そう呼ばれる行動を取ったのが悪いのよ、天使堕てんしおとしの益荒男ますらおさん」


「その通りでござるよ、色狂い送りおおかみ殿」


 いったい何をやったんだよ、ダァンサービオさんよぉ!?



 うっ、腹が鳴ったぞ。


 とりあえず、食事を取りに行こう。



 おっ、テーブルの上に料理が並べてある。


 白米、豆腐のみそ汁、焼いたさけ、卵焼き、青菜のおひたし、野菜の漬物に見えるものが置いてある。


 どれも、とても美味しそうだ。


 この部屋には、日本にあるようなシステムキッチンもある。


 ここはダイニングキッチンみたいだな。


「ああ、やっと起きて来たのね、ダァンサービオ。さっさと食べてしまいなさい。お父さんは、もうとっくに仕事に行っちゃったわよ」


 肝っ玉母さんに、そう言われた。


 この家には、お父さんもいるのか。



 ところで、これは食べても大丈夫なのだろうか?


 見た目は問題なし、変な臭いもしないな。


 食べても大丈夫そうだ。


 うっ、また腹が鳴った……


 もう我慢の限界だ!

 これを食べてみよう!


「いただきます」


 俺は料理を口にした。


 おおっ、うまい!


 さけの身はふっくらとした食感で、塩加減がちょうど良い!


 卵焼きは、甘くてふわふわしている!


 素晴らしくうまいぞ!!


 他のものは見た目通りの味と食感だな。


 こちらも美味しいぞ。



「そういえば、ゼドツベスドーザたちは食事を取るのか?」


「不要である」

「わたしもでございます」


 みんないらないそうだ。



「ダァンサービオ、何ひとり言を言っているの?」


 肝っ玉母さんがそう言った。


「えっ!?」


 あっ!?

 もしかして、ゼドツベスドーザたちの声は他人には聞こえないのか!?


 とりあえず、ごまかさないと!


「い、いや、なんでもないよ、うん……」


「そう? 変な子ねぇ」


 ゼドツベスドーザたちに話しかける時は、周囲に気を付けないとな。


 ひとり言をブツブツとほざく、変人だと思われてしまうからな。



「ごちそうさまでした」


「はい、お粗末様」


 俺は食器をシンクの側に置いた。


「ところで、ダァンサービオ、あんた学校の用意はできたの?」


「えっ? 学校? なんのこと?」


「あんた、まだ寝ぼけているの!? あんたが通う学校よ! 楽しみにしていたでしょ!?」


 そうだったのか!?


 そんなの知らないぞ!?


 どうなってんだ!?


 とりあえず、肝っ玉母さんから情報を集めよう。


「学校って、いつからだっけ?」


「そんなのパンフレットに書いてあるでしょ? ちゃんと読みなさいよ」


 パンフレット!?

 そんなのどこにあるんだ!?


 とりあえず、俺が寝ていた部屋を探してみるか。


「ああ、それから、これで装備を整えてきなさい」


 肝っ玉母さんが、革製と思われる茶色い袋をテーブルの上に置いた。


 装備?

 服でも買って来いというのか?


 まあ、いいや。

 もらっておこう。


「ああ、分かったよ」


 俺は茶色い袋を受け取った。


 ものすごく軽いな。


 中身はお金だよな?


 ちょっと見てみようか。


 俺は袋を開けた。


 中には、五円玉よりも三回りくらい大きい硬貨が一枚入っていた。


 色は金色。

 片側には『10000』という数字が刻まれている。

 もう片側には『アカヂィ』と刻まれている。


 なんだこれは?

 これがお金なのか?


 こんなお金、見たことないぞ。


 俺は今どこにいるんだ?


 まさか異世界?

 俺は異世界に転生したのか?


 うーむ、その可能性もありそうだな。



 このアカヂィというのが通貨の単位なのかな?


 お金をいくらめても、赤字になるのか。


 妙な名前だなぁ。

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