その拳、弾丸につき



「──爆熱の


 ストライクブリット──」



 張り詰めた熱気を帯びる空気。



 突き出した右手の指を、人差し指、中指、薬指、小指と折りたたんで行き、最後に親指で蓋をするように握りこんで作った拳を引く武僧。



 入れ替えるように手を軽く開いた左腕を突き出して狙いを定め、その親指と人差し指のあいだから飛竜ワイバーンの顔を覗く。



 飛竜ワイバーンの身体からは蒼黒い炎の混じった煙が上がり、その翼を大きく拡げ、自身が健在であることを証明するように唸った。



 構える武僧の後方、囮を買って出るように左手側から迂回して移動し、武僧の様子を伺いながら引き金を引く。



 大型ライフルあいぼうを腰に構え、狙いを定めるでもなく放たれた弾丸は轟音と共に蒼黒い炎をまとって飛竜ワイバーンの右脚部へと突き刺さった。



 2度目の爆煙、態勢を崩すことなく狙撃手へ顔を向けた飛竜ワイバーンは大きく口を開け、冷気の息吹ブレスを吐き出さんと喉を鳴らす。



 そこへ、肘からのジェット噴射を伴い、3度の横回転による遠心力を加えた武僧の拳が、飛竜ワイバーンの左頬を捉え、強烈な金属同士の衝突音が森中へ響き渡った。



 問答無用の一撃は飛竜ワイバーンの左頭部の甲殻を破砕し、頭部全体を白い炎が包む。



 間髪入れずに3発目の弾丸を狙撃手が飛竜ワイバーンの頭部目掛けて叩き込み、蒼黒い炎と白い炎が入り交じって燃え盛った。



 狙撃手のアイコンタクトを視界内で確認した武僧が大きくバックステップを踏むと、その瞬間まで武僧が居た空間を飛竜ワイバーンの巨大な顎が喰らう。



 あと1秒でも遅ければ武僧はそのまま全身の骨を砕かれ、丸呑みにされていたことだろう。



 しかし、駆け出し卒業程度と言えど、武僧は幼い頃から姉と同じく傭兵であった母からの英才教育を受け、日々の鍛錬を欠かさず行ってきた修行僧だ。



 生半可な動きでは彼女の動きを捉えることは困難であり、尚且つ、狙撃手のバックアップを受ければならば造作もない。



 ただ、飛竜ワイバーンという生物はこの数発の攻撃すら、それは二人とも重々承知していること。



 態勢を整えた武僧は狙撃手と相対するように飛竜ワイバーンを正面に右側へ走り出し、右の拳を握る。



 炎と煙を首を振って払った飛竜ワイバーンは大きく拡げていた翼を羽ばたかせ、地面を蹴るとその場に浮かび上がった。



 凄まじい風圧に身構えた二人を認識した飛竜ワイバーンはこれ幸いと首を横へ振るいながら冷気の息吹ブレスを吐き出す。



 冷気の息吹ブレスは二人へ直撃し、瞬く間に体表面が凍り付いて体温を急激に奪われ、二人は苦悶の表情を浮かべた。



 ただ、武僧の方はその逆風を弾き返すかのように、全身に白い炎を灯して凍り付いた体表面を一瞬で溶かし──



 狙撃手はコンバットスーツの表面が凍った程度に留まっていたこともあって、多少動きを鈍らせたものの、大型ライフルあいぼうの銃口は未だ飛竜ワイバーンへと向かっていた。



 そして、煌めく銃撃マズルフラッシュ



 連続して解き放たれた3つの弾丸が少しの狂いもなく飛竜ワイバーンの右脚へと叩き込まれる。



 唸る飛竜ワイバーン、計4つの弾丸が飛竜ワイバーンの右脚へ命中したことでようやく痛みを憶えた程度。



 その頑強さに舌を巻いた狙撃手だったが、その視界の端で、まとっていた白い炎を右拳へと集約させた武僧が、その拳で地面を叩いた。



 噴出する白い炎の勢いで飛竜ワイバーンの頭上へと跳び上がった武僧は宙で一回転し、ワイバーンの背へと乗ると、左手で甲殻を掴んだ。



「もう1発──


 爆熱のぉ!


 ストライクブリットぉッ!」



 未だ炎をまとったままの右拳を起点に右前腕が炎に覆われ、肘から炎をジェット噴射させて飛竜ワイバーンの背にその拳を再び叩き下ろした。



 嗚咽、と呼べるか判別は不能だが、背の甲殻を一部破壊したことによってか飛竜ワイバーンはまたも唸り、背に乗った武僧を振り払わんとして翼を大きく羽ばたかせて暴れ始めたのだ。



 叩き付けた拳を開き、手頃な甲殻掴んだ武僧は歯を食いしばり、暴れる飛竜ワイバーンの背にがっちりと張り付き、狙撃手へアイコンタクトを送る。



 その視線の先、狙撃手は大型ライフルあいぼうの構えを解いており、真っ直ぐに武僧と飛竜ワイバーンへ視線を注ぎながら、深呼吸し、吼えるように発声する。



機動鎧装チェンジ・アームズ


 限定解除コール・アンリミテッド!」



 彼女の発声を合図に、彼女が背負っていた箱の上部が開き、鎧のパーツが上空へ向けて射出され、大型ライフルあいぼうを背の方へと持ち上げると、箱からウェポンマウント用アームが伸びて大型ライフルあいぼうをしっかり掴んだ。



 大型ライフルあいぼうを背負った箱の右横に収納すると、森林迷彩が施された鎧のパーツと1パース程の大盾、小型のライフルが次々に狙撃手の周囲を回転した。



 狙撃手が最初に両腕を真横へ伸ばすと、装甲のみで構成された腕部パーツが前腕を挟み込むようにして装着される。



 次に、スラスター付きの装甲が特徴の脚部パーツ、前掛け型の腰部パーツ、肩部アーマーパーツが装着される。



 その後、胸部装甲パーツが装着され、それぞれの装甲が装着されると、剥き出しのバトルスーツを覆うように、各装甲パーツから黒い膜が伸び、バトルスーツを保護した。



 最後に背部の箱が大型ライフルあいぼうを懸架したままランドセル型のスラスターへと縮小するように変形し、1パース程の大盾が左手側、小型ライフルが右手側で停止して、狙撃手がそれらを手にする。



 変身とも言える装備換装を終えた狙撃手は、背部と脚部装甲に備え付けられているスラスターを吹かしながら、飛竜ワイバーンの頭上を目掛けて跳躍した。



「離れろメルミー!」



 狙撃手の声を聞いた武僧は頭上の姉の姿を確認すると、再び飛竜ワイバーンの背を炎をまとわせた拳で殴り付け、同時に拳から小さな爆発を起こし、その反動で飛竜ワイバーンの背から離脱する。



 武僧の離脱を確認した狙撃手は、空中で脚を肩幅に開いた状態で、全身の装甲に備えられた姿勢制御用の小型バーニアを使ってバランスを取り、盾とライフルを構えた。



 自由落下を行いながら、照準を合わせるでもなく小型ライフルを構えると、銃口からマゼンタ色の光が3度放たれ、飛竜の翼膜へ着弾する。



 ──この小型ライフルはエナジーバレットガン、即ち《ビーム・ライフル》に属するライフルだ。



 全長0.7パース、歩兵用の自動小銃としてはごく一般的な形状をしているが、口径は実弾に比べるとやや大きく、彼女の大型ライフルあいぼうと同じくトリガーガードから左右に展開出来るフォアグリップが備え付けられている。



 最も特徴的なのが、このライフルから撃ち出される弾丸の方だ。



 マゼンタの光を帯びるエネルギー弾は、弾薬にミスリル銀が多く含有されている証拠で、より高出力のエネルギー弾を発射出来、破壊力も剣士の扱うビーム・ライフルより数段上と言える──



 翼膜を撃ち抜かれた飛竜ワイバーンは激しい痛みに加え、翼膜の破損によって気流を掴むことが困難になったせいか、少しばかりふらつきながら着地した。



 それでも戦意は健在であり、自身の着地とほぼ同時に付近へと着地した武僧の足音を聞いて、直ぐ様彼女の方へ尾を鋭く振るう。



 武僧の口から漏れる嗚咽の声と胃の内容物、飛竜ワイバーンの尾による一撃は武僧の腹部へ直撃し、このキャンプ跡地の端まで弾き飛ばされた。



 その光景が視界の端に映った狙撃手だったが、同様と共に彼女もまた着地の準備をしつつ、飛竜ワイバーンへライフルと盾を向け、再び3度の射撃を行う。



 着弾したのは翼の付け根であったが、柔軟に動く部位でありながら堅牢な甲殻を重ね合わせたような構造の影響もあり、弾丸が全て弾かれてしまった。



「ミスリルなんだぞ!


 対人用の限界か!


 これが!」



 武僧から遅れて着地した狙撃手を、待っていたように大きく翼を拡げた飛竜ワイバーンが狙撃手へ向けてそれを羽ばたかせる。



 そのまま地面を蹴りながら冷気の息吹ブレスを吐き出し、同時に流れるようなバックジャンプを決め、翼膜に開いた穴をものともせず、再び宙へと舞い上がった。



 氷点下の息吹ブレスは狙撃手への直撃コース、彼女も一瞬の判断で盾を前方の飛竜ワイバーンへ向けて突き出しながら、肩部アーマーのスラスターを最大出力で吹かしてバックステップを踏む。



 宙で盾を構えて息吹ブレスを受け止めつつ、ライフルを構え、腹部目掛けて弾丸を3つ撃ち込むが、飛竜ワイバーンは脚部の鋭い爪を盾にして弾丸の直撃を防いだ



「メルミー!


 意識はあるか?」



 滑るような着地と同時に妹へ声を掛けた狙撃手は、飛竜ワイバーンの動きを牽制するべく再び腹部目掛けて3発の弾丸を撃ち込むが、今度は振り回した尾の甲殻で防がれる。



「無事です!」



 狙撃手の言葉に跳ねるように起き上がった武僧は、舞うが如く宙で羽ばたく飛竜ワイバーンを目掛けて駆け出した。



 その行動にタイミングを合わせ、どっしりと盾を構え、ライフルを降ろした狙撃手が吼える。



「よぉし!


 コイツで隙を作る!


 対物誘導光弾エナジーミサイル斉射!」



 狙撃手の発声に合わせ、背部のランドセルの上方が開き、計6発の弾丸のような形状の光によって構成された小型ミサイルが1発ずつ順番かつ垂直に発射された。



 小型ミサイルは10パース程の高さまで上昇すると、飛竜ワイバーンの後方から前方に掛けて降り注ぐ。



 無論、飛竜ワイバーンがただ見ている訳もなく、降り注いだ小型ミサイルの爆風を利用して加速し、滑り込むように滑空──



「冗談じゃ──」



 ──瞬く間に狙撃手の目の前に躍り出た飛竜ワイバーンは翼を大きく広げて急制動して、脚部を突き出すと、彼女の盾を文字通り強靭な鉤爪で鷲掴みにして、狙撃手を後方へ押し込んだ。



「ぐぉっ!?」



 虚しく大地を砕く小型ミサイルの爆炎を他所に、飛竜ワイバーンの全力の蹴りを踏ん張って堪えられる訳もなく、押し倒された狙撃手の身体に飛竜ワイバーンの全体重がのしかかる。



 幸い、鋭い爪が直接身体に突き刺さることはなかったが、飛竜ワイバーンは続けざまに狙撃手の盾を掴んだまま僅かに飛び上がり、盾ごと地面へ狙撃手を叩き付けた。



 鈍い音が響き渡り、飛竜ワイバーンの側へと駆け寄る武僧の顔が青ざめる。



 歯を食いしばり、流れた涙を拭った武僧が再び拳を地面へ叩き付けて飛竜ワイバーンの頭上を目掛けて跳び上がった。



「──3発目ぇッ!


 爆熱の、ストライクブリット──」



 地面を叩いた音に反応した飛竜ワイバーンがぐるりと首を曲げ、顔を武僧へ向けると、間髪入れずに冷気の息吹ブレスを吐き出す。



「そんなことで!


 行く道引いてられっかァッ!」



 右腕の肘から発せられる白い炎のジェット噴射で横一回転、拳は遠心力と燃え盛る白い炎を伴って息吹ブレスの液塊の芯を捉え、轟音と共に白煙をあげて爆裂した。



 そして、その爆発もものともせず、最短距離の真っ直ぐ、武僧の拳が飛竜ワイバーンの額を捉える。



 着弾。



 そう表現するに等しい衝撃と金属同士がぶつかり合ったような衝突音、殴り抜けた武僧が飛竜ワイバーンの足元に着地すると、直ぐ様姉の安否を確認するため、飛竜ワイバーンの脚へ視線を注いだ。



「お姉ちゃん!」



「無事だ!


 余所見すんな!」



 先の拳による一撃で、僅かに力を緩めた飛竜ワイバーンの隙を突き、背部と脚部のスラスターを全開で吹かし、地面との隙間を作った狙撃手は、盾を手放し、滑るように飛竜ワイバーンの拘束から脱出した。



 狙撃手の脱出を確認した武僧も次の攻撃へ移るために掌を広げながら右腕を天へ突き上げ、左の拳を握りながら左脇を絞める。



 首を震わせたワイバーンは再びバックジャンプを繰り出すと、着地と同時に大きく息を吸い込んだ。



 冷気の息吹ブレスを予見した狙撃手が即座に小型ライフルを構え直し、飛竜ワイバーンの口目掛けて弾丸を1発撃ち込む。



 吐き出された息吹ブレスにマゼンタ色の光が直撃し、爆散してまたも周囲に白煙を撒き散らした。



 それを合図に武僧は天へ突き上げた手のひらの人差し指から小指までを順番に折り畳み、最後に親指で他の指を絞めるようにして拳を握り込むと、拳に白い炎が灯る。



 狙撃手も次の攻撃に移るため、小型ライフルを捨て、背部へと手を伸ばした。



 すると、背部のランドセルから剣の柄のようなものが迫り出し、狙撃手はそれを手に取る。



 振り抜くようにして剣の柄のようなものを構えた狙撃手、天へ突き上げた武僧の拳にまとった炎が螺旋を描いていき、2人の攻勢の準備は整った。



「合わせろよメルミー!」



「もちろん!」



 吼えた飛竜ワイバーンが羽ばたいて白煙を散らしながら、またも大きなバックジャンプを繰り出し、同時に冷気の息吹ブレスを二人へ向けて吐き出す。



 それを予見していたのか、前に出ていた狙撃手が地面に寝ていた盾を蹴り上げて防ぎ、それを手にすると、そのまま全身のスラスターを全開で吹かして飛竜ワイバーンへ向けて突進した。



 真っ直ぐに間合いに入った狙撃手に対し、飛竜ワイバーンは身体を横一回転させ、大木のように太く、しなる尾を彼女へと打ち込んだ。



 ひしゃげる盾、しかし、その感触は人を打ち倒したにしてはやけに軽い。



 不意に背を蹴られた感触に飛竜ワイバーンは空を見上げる。



 太陽を背にし、剣の柄のようなものを振るう狙撃手の姿がそこにあり、剣の柄のようなものからは、光の刃が伸びていた。



「やれるさ、このならなァ!


 その翼ァッ!


 手折たおらせてもらう!」



 落下する狙撃手に狙いを定め、大きく口を開けた飛竜ワイバーンだったが、その頬を火花が擦る。



 思わず視線を火花の方へやった飛竜ワイバーンの視界に螺旋状の炎をまとった拳を天へ突き上げる武僧の姿が映った。



「おぉぉぉぉッ!」



 武僧の拳にまとった螺旋状の炎が回転力を増し、同時にその形状が腕部と拳に変容していくと、腕部にまとう炎が拳にまとっていた炎とは逆回転を始める。



 飛竜ワイバーンと目の合った武僧が吼え、突き上げた拳を大きく後方へ引き、それに合わせて左腕を軽く飛竜ワイバーンへ向けて突き出した武僧が叫んだ。



「──爆轟のォッ!


 スパイラル……マグナムッ!」



 全力で突き出した右拳から、轟音と共に腕部までまとった炎が撃ち放たれ、真っ直ぐに飛竜ワイバーンへと向かう。



 対処の遅れた飛竜ワイバーンの頬に、弾丸の如き炎の剛腕が叩き付けられ、圧縮された炎がその衝撃で解放されて大爆発を引き起こした。



 間髪入れず、爆発によってよろめいた飛竜ワイバーンの翼目掛けて、落下してきた狙撃手の光の刃が彼女の着地と同時に振り下ろされる。



 光の刃は飛竜ワイバーンの右肩部を関節まで焼き切り、その痛みで飛竜ワイバーンが大きく叫んだ。



「うるせぇッ!


 耳元で吼えるなァッ!」



「お姉ちゃん!


 合わせるよ!」



 狙撃手の着地に合わせ、跳び出してきた武僧が、悶える飛竜ワイバーンの頭部の左側へ向け、左のジャブ、右のフック、そして、左脚によるローリングソバットを流れるように叩き込んだ。



 更に、武僧のローリングソバットにタイミングを合わせるように、飛竜ワイバーン下顎を装甲をまとった左脚で、脚部スラスターを吹かして加速させて蹴り上げる。



 頭部を弾き上げられた飛竜ワイバーンが遂にふらついて数歩後退し、静かに喉を低く鳴らして唸った。



 飛竜ワイバーンの後退に合わせて、狙撃手が後退して距離を取り、武僧は深呼吸して拳を構え直す。



 充分な距離を確保した狙撃手はビーム・サーベルを納刀すると、ランドセルに懸架した大型ライフルあいぼうと交換して、それを構えた。



 拳を構えている武僧へ、飛竜ワイバーンは鎌首をもたげ、左の翼を大きく広げて、それを武僧へ向けて叩き付ける。



 翼による一撃を重心を低くして待ち構えた武僧は、右の拳で衝撃を緩和しつつ、左拳によるカウンターを翼へ放った。



 確かな手応え、砕ける甲殻に、へし折れる骨の音が武僧の拳に伝わる。



 明らかに飛竜ワイバーンの表情が曇り、その動きは鈍っていた。



 武僧は右拳を引くのと同時に身体を左後方へ拗じって回転しながら跳び上がり、右拳による裏拳を飛竜ワイバーンの頭部へ繰り出す。



 それを、飛竜ワイバーンは小さく口を開いて待ち構え、その腕を噛み千切らんとしたが、僅かに開いた口の隙間に狙撃手が放った弾丸が放り込まれたのだ。



 口内で爆発した蒼黒い炎を閉じ込めるように武僧の裏拳が炸裂し、続け様に左のフック、右脚による回し蹴りの連打を叩き込み、飛竜ワイバーンは態勢を崩した。



 間一髪、尾を用いて踏ん張った飛竜ワイバーンは武僧をひと睨みして、宙に舞う武僧へ頭突きを繰り出す。



 直撃。



 足元へ弾き落とされた武僧はなんとか受身を取るも、眼前に強靭な右脚の鉤爪が迫っていた。



 そこへ、3発の弾丸が突き刺さる。



 だ。



 戦闘が始まってすぐに損傷した箇所へ的確に弾丸を叩き込まれ、飛竜ワイバーンの右脚の骨が内部で砕け、傷口から血潮と僅かな肉が噴出した。



 それでも止まらない鉤爪の一撃を迎え撃つように武僧は右拳を構え、そこに白い炎をまとわせる。



「──爆砕の」



 立ち膝の態勢から脚を踏ん張り、腰を捻り、立ち上がりつつ、地面スレスレから右拳を振り抜くアッパーカット。



「スプリッドシェル──」



 散弾のように撃ち出された白い炎は弾け、まるで大波を思わせる炎の奔流が飛竜ワイバーンの身体を包み込んだ。



 爆発音と凄まじい高熱は、著しく体力の衰えた飛竜ワイバーンの意識を刈り取り、飛竜ワイバーンはその場に倒れ伏した。



「やった……?


 倒せたの……?」



 不安感を漏らしながらも構えを解き、立ち上がった武僧。



 警戒を続ける彼女の後方で、狙撃手が大型ライフルあいぼうに針状の弾頭を持つ弾丸を直接装填させると、それを飛竜ワイバーンに近付いて、その喉へと撃ち込んだ。



「これであと丸一日は動けないだろう


 竜種向けの麻酔弾を撃ち込んだ


 少なくともあと18時間は麻酔が効いて意識も取り戻さんだろう」



「じゃあ、これで一段落なんですね!」



「ま、そういうこった」



 ふと、飛竜ワイバーンの喉元に目をやった狙撃手は、そこには鈴付きの首輪が甲殻の隙間に隠すようにして装着されていることに気付いた。



 大きな溜め息を吐いた狙撃手は森の東側へ視線を向けると、眉間に皺を寄せる。



「ティレン、思ったより状況は悪いかも知れねェな」



 独り言のように呟いた狙撃手は、心配そうに飛竜ワイバーンの周りを確かめている武僧の頭を雑に撫でた。



「ティレンさん、無事でしょうか……」



「状況を把握して整えたら東側へ向かおう


 まずは、この飛竜ワイバーンが本当にはぐれモンなのか確かめねぇとな」



 二人は浅く呼吸をする飛竜ワイバーンの姿を眺め、ひとまず危機を乗り越えたことを安堵する。



 少なくとも狙撃手は何者かの意図によって飛竜ワイバーンが差し向けられたであろうと予想を立てはしたが、それ以上に酷く胸騒ぎを感じていた。



 



 疑問も不安も尽きることを知らないが、ただ一つ、狙撃手に出来ることはせいぜい相棒の無事を祈ることくらいだ。



 そんなことを考えている横で、武僧は自分と姉で飛竜ワイバーンに対処出来たことを思い返し、歓びで飛び跳ねている。



 不安そうな表情もすっかり吹き飛んだ武僧の姿を見た狙撃手は、剣士のことはあれど、目先の勝利を喜ぶ妹の姿に安堵していた。








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