六日目、深夜。『共闘』

「……よし! 良く寝た!」

 充分な休息を取れたレネィは、飛び上がると、そのまま鍛冶場へ向かった。

「親父、何してやがる……」

 鍛冶場では、父が鉄を叩いて圧縮する作業を行っており、出来上がった品物が10セット程、整然と並べられていた。

「おめーが寝てやがるから、手伝ってやろうと思ってよ。金型もバリを最小限に、少し調整したぞ。何しろ作業が無くて暇だったからな」

 レネィが並べられている品を手に取ると、確かに細部で品質の向上が見られた。一人で完遂させる、出来なければ潔く死ぬ。と考えていたレネィだったが、少し安心して肩の力が抜けてしまった。

「寝ろって言ったのは……親父じゃねぇかよ」

 少しだけ目頭が熱くなって(『暇だった』って、俺が寝ていた6時間、通しで作業するもんかよ)と、心の中で微笑んだ。

「よっしゃ! やるぞレネィ! クソ鈍器協会に俺達、親子の力見せてやる‼」

「うおおああ!!!!トオルのクソ野郎!!そもそも俺は何も悪くねぇええ!!」

「うおおおお!!協会加盟金とかいうクソ制度ォォ!!」

 ありったけの、全ての呪詛を力に換えて、叩きに、叩いて、叩いた。親子の共闘は、声がカスカスになって発せられなくなっても続いた。




「……。……?」

「……!」

 最後の金属音が止むと、二人は無言のまま、しきりにアイコンタクトを取っていた。

「…………!!」

 途中で数を数えたりせずに無心で打っていたが、どうやらいつの間にか、目標数を大きく超えていたようだった。

「……」

 グィドが何か言おうとしていたが、レネィは(昼まで寝ろってことだな)と直感で理解して、風呂に入って寝た。グィドも、もう体全体に力がはいらなくて、そのまま鍛冶場で倒れるように寝た。


「す、すごい! レネィちゃん、本当に間に合ったのね!!」

 3日前の約束通り、品物を受け取りに来たペレットが驚愕した。その声で飛び起きたレネィは鍛冶場へと急いだ。

「あぁ、おばちゃん……どうだ、間に合ったぜ……!」

「うん、品質も申し分ないみたい。ここまでくると、まるでおとぎ話に出てくる、魔法ね!レネィちゃんに頼んで良かったわ!」

 レネィは、実際は到底一人で成せなかったことだろうと、床に転がっている父に感謝した。

「いやー、いいものを見させて貰ったわ、はい、お金、多めに置いてくよ! んで、後から従業員に取りに来させるから、品物はちょっと置いといてね」

 近くの机にチュールの束が置かれ、準備があるからと、ペレットは足早に去って行った。

「この金、多すぎるけど……あぁ言ってたし、貰っとくか」

 60セット強しかなかったが、目算で10万チュール程置いていったようだった。

 なにしろ、これにて全てのしがらみが無くなった。さっさと出発しないと、今度は屋敷への納期が差し迫ってくるので、急いで出発することにした。

『親父へ おばちゃんから10万くらい貰ったから、協会に請求書分払っといてくれ。6千は旅費で持ってくけど、残りは親父の手間賃として貰ってくれ。今回はありがとうな。行ってくる。』

 レネィは、そう書置きを残すと、以前用意した荷物を引き、ミントグラスを目指して出発した。

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