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ミスティア

 大陸の北西部に位置する島、『禁足地』ミスティア──

 遥か昔、完全に打ち捨てられた土地であり、わずかばかり残る風化した瓦礫のみが、人の住んでいた形跡として遺されている。

 そんな、誰も知らない、誰も入らない土地に『テルミドール屋敷』は部分的に存在した。


 屋敷の中では、謀らずしも当主となったアンリ・テルミドールが、長い眠りに就いていた。

 アンリは年の頃が20~24歳くらいだろうか、ふわふわした生地の、兎を模した薄桃色の寝間着を着て横たわっていた。長く伸びた黒紫の髪の毛が、小さな部屋に設置された寝台から溢れ、流れ出ている。青みを帯びた真っ白な肌は、なにやら夢を見ているのか、稀にヒクヒクと痙攣していた。


 それは何度目かの、良く見る悪夢だった。

「パパママ! 見て見て! 子猫ちゃん! 可愛いねぇ!」

 幼い頃のアンリが、色とりどりの花が咲く光差す庭で、両親と会話をしている夢だった。

「本当だね、母猫と一緒にお昼寝しているね」

(甘く美しく……愛おしくて、懐かしい)

 アンリは微笑みながら思った。悪夢というのはいつも大抵、幸せな場面から始まる。

 場面の色がどんどん褪せ、最終的には白黒になって、短い砂嵐と共に消えた。


 少しの間をおいて色付いて浮かんだ場面は、アンリが少し大きくなって、学校に通学している頃の夢だ。

「あの子、不気味じゃない?一人だけあんな姿で……」

 1人の生徒がひそひそと話す。アンリに聞こえるように、聞こえてない体で話す。拒絶と排除の意思表示だ。

「『魔女』なんだって、皆言ってるよ……出席もしたりしなかったりだし……」

 アンリは6年生になっても、学校に入学した時と、ほとんど見た目が変わらなかった。その精神は一切正常だったが、病気か、それとも個性とでも言うのだろうか、肉体の成長が見られなかった。

「あ、噂をすれば……」

 堪えがたい不条理を、うつむいてやり過ごすアンリ。

(どうして私だけ……)

 場面は再度減色すると、明滅して、砂嵐と耳障りなノイズと共に消えた。


 次の場面は、小さくて暗い、青い薄明かりの部屋で、寝ている自分の目線だった。

「eNumEratEBitsoFinfoRMAtiOn」

(鳴り続けるノイズと、絶え間なく続く、意味不明な言語の羅列……)

(あれ……? ここは……)

 暑くも寒くも無いが、どちらかというと涼しい。頭が血の巡りと共に激しく痛んで、今までの夢より現実的で、実体感があった。

(……ここは夢じゃない、現実。記憶が……ごちゃごちゃ……)

 ぽつ、ぽつん。

 何処からか滴る水音が響いて、それ以外は全く聞こえない、静寂で、無為な部屋だった。

(……或いは悪夢の続きなのかもね)

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