四日目、夕。『死の行進曲』

 レネィは短時間で3袋の鉱石を手に入れ、工房まで戻ってきていた。

 以前と比較しても恐ろしい速度だが、種は単純でセイレーンを使って粉砕しただけだ。爆破して拾うだけだから、楽だった。

 炭鉱員には余った鉱石を握らせて黙らせたから、なんの問題も無いだろう。

「良い調子だぜ、次は金型だ。まずそれぞれの完成品を1個、造らなきゃな」

 造ったことのある『土掘器』は、簡単に複製できたが、他の2種は、また苦労することになった。

 3種が完成したら、そこから一息もつかずに金型造りに取り掛かる。既に疲労は頂点に達していたが、工程はまだまだ先が見えないから、気力を振り絞った。

 金型が3種類揃ったのは……見事、予定通り5日目の昼だった。


「おーい、もう昼だぜ」

 父のグィドが声を掛けた。

「もう昼だったか……すまねぇ親父、ちょっと2日程、鍛冶場を貸し切れねぇかな。この通りだ!」

 レネィは、ちょこっとだけ頭を下げて頼み込んだ。

「ぶははっ! 『この通り』っつって人にモノを頼むときは、もっと、こうすんだよ!」

「いてぇよ、意識が朦朧としてんだ、やめろ!」

 父は言ってレネィの頭を掴むと上下に揺らした。娘は何だか分からないが顔が赤くなって、背けた。

「鍛冶場は使っていいぜ、実はこの間ので、作業はしばらく来ねぇしな。」

 レネィは「じゃあ何で昼使うの禁止してやがったんだよ」と思ったが、どうせ使ってなかったから言わなかった。

「しかし、お前が仮にも頭を下げるなんてな……大人になったじゃねぇか」

 そう言われると、珍しく、本当に珍しく、レネィは少しだけはにかんだ様子を見せた。

「とりあえず寝てこい、とてもじゃねぇがあと2日なんて持たねぇぞ」

 ありがたい提案だったが、受け入れることはできなかった。

「寝れるなら寝てぇけどよ、寝たら絶対に間に合わなくなるんべよッ!」

 言い終わる前に、父からの平手打ちが飛んできた。再三になるが、カストラーダの平均的な親子の対話だ。虐待だとか、体罰だとかじゃあ、一切無い。

「この馬鹿野郎! 屑が! そんな状態に陥った段階で、寝ても寝なくても職人として詰んでんだよ! 寝ずにゴミ量産するくらいだったら、少なくても寝て品質を上げやがれ! その方が客も納得するかも知れねぇぞ⁉」

 確かに、説得力があった。品質の低い物を大量に売るより、少なくても上質な物を売って、職人として死のう。そう思えた。

「分かった、寝てくるわ……」

 レネィは、ゆっくり風呂に浸かってから、思いきりよく寝た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る