三日目。『カス鈍協の終焉』

 遠くから聞こえた、聞き覚えのある炸裂音で目が覚めた。

「んん……今の音は……? わははっ! 馬鹿野郎、やりやがったか!」

 レネィは身なりを手早く整えると、音の元である、カストラーダ鈍器協会へ向かった。


 協会からは、もくもくと黒煙が上がっており、武器コンクールの品評をしていたであろう、トオルや協会員達が煤まみれで焼け出されて茫然としていた。その惨状を見るや否や、レネィはしたり顔で高らかに宣言した。

「見たか見たか! 分かっただろうが、これが俺の造ったセイレーンの力だぜ‼」

「げほっ……お前の造った武器の仕業ってことでいいんだよな」

 真っ黒になって、目玉だけ白く目立っているトオルが聞いた。

「そりゃそうだろ、どうだこの破壊力! 優勝間違いねーだろうが!」

 自信満々で言った、協会が完全に崩壊しているんだから、それはもう確実に優勝だと思った。

「あぁ、優勝だな……後でお前のうちに請求書送るから」

 レネィは喜びのあまりに走り出した。認められた気がして、純粋に嬉しかった。

「やったぜぇ~~‼ ん? 今、請求書って言ったか? 言い間違いか? ボケやがってよ」

 優勝賞金が確定したことで金銭面の心配は無くなったから、家に帰ってゆっくりと風呂にでも入ることにした。




 カストラーダは溶岩地帯、良質な温泉が多く湧いている土地で、大陸では珍しい入浴の文化がある。殆どの家に直接温泉を引いてあり、公衆浴場なるものも設置されている程だ。

 レネィも例に漏れず入浴が好きで、特に疲れた時に、熱いお湯に浸かるのを至福としていた。

「くぅ~~~‼ やっぱこれだね!」

 軽く体を洗って流すと、一気に浴槽に飛び込んだ。勢いよく溢れた温泉が、下水溝に吸い込まれると、安堵の声が出た。

「はぁ~、一時はどうなる事かと思ったが、何とかなって良かったぜ……」

 金銭面の重圧からも解放されて、最高のひと時だった。

「おい! レネ! 鈍協から変なもんが届いてるぞ、出てこい」

 急にグィドが戸を開けて言った。

「あん? もう賞金届いたのか? 珍しく仕事はえーな」

 レネィは急いで浴槽から上がって体を軽く拭くと、そのままタオルを巻いて荷物の確認をした。

「セイレーン……と、優勝賞金か。どれどれ、中身は……」

 ウキウキで賞金袋を持つと、いやに軽いのが引っかかったが、中身を確認した。

「紙切れが1枚。何々『請求書』ねぇ」

 予想外のものが入っていて、レネィは訝しんだ。

「拝啓、貴殿益々ご発展慶び申し上げます。さて先日破壊された当協会の損害賠償を下記の通り請求いたしますので、4日後までにお納めくださいますようお願い申し上げます。尚、期限を過ぎた場合、貴殿を溶鉱炉にて融解したのち、ハンマーに致しますのでご容赦ください。けぇぐ!」

 文末に読み進むにつれて、筆跡が荒くなっているのが特徴的な文章だった。

「記 修繕費:235,294チュール 優勝賞金:-29,412チュール 協会保険適用:-150,000チュール 請求計:55,882チュール」

 レネィは目をまんまるにしてたまげて、そのまましばらく動けなかった。

「がはは! まぁ頑張れよ! あと4日もあるじゃねぇか! 元々旅費で4千必要とか言ってたから、計6万か。6万なんて貯めるのに2年はかかるがな! わははははっ!」

 横から請求書の内容を覗いていたグィドの、まるで他人事のような笑い声で、ようやくレネィの時が動き出した。

「ははっ……わははっ! ははははっ!」

 レネィは心がやられてきたから、とりあえず今日は寝ることにした。

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