二日目、昼。『カス鈍協武器コン』

「え? 昨日の儲けって3百だけ?」

 朝寝て昼に起きたレネィは改めて驚愕した。時給30チュールの店番で、休まずに10時間働いたのと同等だ。

 徹夜した上に目標の半分以下しか稼げなかった。実際はオーダーメイドの金物を1から作ったのだから、もっと請求しても良かった。でもレネィは気風が良かったから、苦労の対価を貰うということをしなかった。とにかく喜んでもらうことが第一の信条だった。

「済んだことを悔いても仕方ねぇ。てかまぁ、何とかなるだろ」

 さて動き始めよう、という時に、グィドが1枚の紙切れを差し出しつつ声をかけた。

「おい、レネ。そういやだいぶ前に、これが投函されてたんだった、まだ金が必要ならやってみたらどうだ?」

「ん?何々『武器コンクール』何だこのアホみたいな題名のコンクール。何だこのアホみたいな賞金額! 29,412チュールだって! 半端だなオイ! でもすげぇな、優勝すれば1発で目標額クリアだぜ!」

 高額な優勝賞金に驚くが、受付締切に驚いた。

「締め切りは……今日の昼な。今日の昼って今じゃねーか! 何も作れねーよ」

「だいぶ前に来てたって言っただろうが」

 せっかくチャンスが舞い込んできたのに、期限が目前で、頭を抱えた。

「あ、そうだ、良いのがあるじゃねーか!」

 そういうと、自室から1つの包みを持ち出し、走って協会へと向かうのだった。


「トオルの親父! まだ武器コンクールってやつの受付やってるか⁉ 見てくれ、こいつセイレーンなら優勝間違い無しだぜ!」

 肩を上下させて到着したレネィは、焦りながら、持ってきた包みを机に置いて言った。

「受付はまだ間に合うけどよ、何だこれ? 鈍器か?」

 トオルは長いこと鍛冶協会の一員として、様々な武器を見てきたが、レネィの持ってきたものの正体が掴めなかった。

 手に持って、くるくると回したり、動かせる部品を動かしたりして観察するが、『筒状の鉄に取っ手や細かい装飾や機構が付いたもの』としか認識できなかった。

「ふふん驚けよ、それはな、俺が開発した『手に持てる大砲』だぜ」

 レネィが趣味で作った自信作だったから、得意になって言ったが、帰ってきた反応は冷たかった。

「ぶはは! これが大砲か! 笑わせるんじゃねぇよ! 大砲って見たことあんのか? 手に持てる訳ねぇし、大体すげぇ破壊力だぞ、あれは!」

「何だぁ、この老害野郎。じゃあここでやってみるか? まずその弾を詰めて……」

 レネィは頭に血が上って、眉間にしわを寄せながら無茶を言った。元々短気だが、こと鍛冶や作成品については尚更だった。

「まぁいいわ! これ、エントリーしとくぜ、装飾はお前らしく繊細で綺麗だし、いいとこまで行くんじゃねぇか?」

「けっ、武器としての素晴らしさが分からねーと優勝できねーだろうが。頭に来る野郎だぜ!」

 レネィはもう半ば諦めて、セイレーンを置いて退出した。

「今日か明日に審査して、近いうちに結果が出るから適当に顔出せよー!」

 大声が協会の内部から聞こえる。

「曖昧かよ、テキトーな協会だな、全く」

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