一日目、夕。『野鍛冶』
「あっ! バインバインのネーちゃんだ!」
「どこ行ってたの? その袋、何?」
「おっ、クソガキどもじゃねーか、元気か? まぁ元気か、見りゃわかるわ。この袋はコルディエライト遺跡で採れた鉱石だぜ、すげーだろ!」
子供たちにたかられて、鉱石を見せると、『すげー!』と喜んで、キラキラ眼を輝かせた。
レネィは人気者だったから、帰る途中、様々な住民に話しかけられたし、自分からも話しかけた。
「ペレットおばちゃん、なんか困ってることねーか? 何でもやるぜ」
「丁度良かった、レネィちゃん。今度、地上で新しく作物を育ててみようと思うんだけど、こういう道具を作れないかしら」
話しかけた数人の中から1人のおばさんが、土を掘り返す道具の設計図を見せて言った。
「ん? これで土を掘り返すのか? だったら角度つけたほうが良いだろ」
改良の案を返すと「形とかはレネィちゃんに任せるから、頼むわね」と紙を残して去って行った。
「この辺で土をいじって、形になるのかね……」
カストラーダは、鉱石は不断に取れたものの、土地自体は不毛だ。乾いた土の荒れ地が地平線まで続いている。
「ま、だからこそやってみる価値があるのかもな。どれ、俺も良い道具で応援してやるか」
レネィは設計図を持って工房へと戻った。
工房に着く頃、すでに日は完全に落ちていた。
「さて、炉も使えそうだし、頼まれた物を造ってみるか」
レネィは採掘した鉱石を作業場にぶち撒けると、溶鉱炉に投げ入れ、金打ち始めた。
「三叉の槍みたいに……いや、それだと力が余分に必要になるから……先を直角に近くすれば……」
あれこれ考えて、集中し始めた。
「やべーな、もう朝か……」
夢中で『土を掘り起こす道具』の意匠に拘っていたら、夜が明けていた。この様な現象は、ままあった。
レネィは、粗暴な言行とは裏腹に、凝り性だった。いや、職人とは得てして、そういうものかもしれない。
「とりあえず、これをおばちゃんに提出しよう……あーねみー」
眠い眠いと言いながらも、会心の作品が出来たという自負があり、精神は興奮状態にあった。
レネィは目を擦りながら、ペレットの元へ商品を届けに向かったが、どうやら地上に出ているらしかったから、わざわざそこまで送り届けた。
「ほら、出来たぞ、これでどうだろ」
レネィが朝の光を眩しがりながら依頼品を渡すと、依頼人は早速、地面を掘って言った。
「……やっぱりレネィちゃんに頼んで良かった。仕事が早いし、本当に良いものを造るわね! 軽くて丈夫で、枯れた根っこも切りながら、良く掘れるわ!」
「だろ? この角度があると疲れねぇはずなんだ。鉄からして俺の手掘りだからよ、希少価値があるぜ」
自分の造った道具を、喜んで使ってくれるのは職人冥利に尽きた。
「じゃあこれ、多めに3百でいいかしら、支払うわ! ありがとう!」
「おう、そんなに貰っていいのか? こちらこそありがとな! また何か作る時は言ってくれよ」
レネィは金銭を受け取ると、へとへとだったので工房へ帰って寝た。
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