一日目、朝昼。『肉体奉仕』
「だー!……良く寝た!」
いつの間にか寝ていたレネィは、豪快に飛び起きた。寝起きの良さには自信があった。
水を浴びて、手早く用意を済ませると、計画の実行に移った。
「まずは稼ぎ口を探そうかな、協会に行ってみよう」
闇雲に何かを作って売っても、目標額に届かないだろうと考え、何か良い話は無いか聞きに、カストラーダの職人が加盟する協会へ行くことにした。
「いらっしゃいませ! カス鈍協へようこそ! ……なーんだ、レネ坊かよ」
カストラーダでは一般的な、むくつけき男が笑顔で出迎えて、何か勝手に落胆した。
「なんだとはなんだよ、トオルの親父。気色わりいから止めたほうがいいぞ、その笑顔。タバコでも吸っててくれた方がマシだわ」
カストラーダ鈍器協会に所属するトオルは、今季の標語である「あいさつは、笑顔で明るく、楽しい職場」に基づいて、真面目に職務を履行していた。
「なぁ親父、金稼ぎたいんだけどよ、なんかねぇの? 即日で、8百以上儲かる奴が良い」
机の上に手を載せて、前傾になって無茶を言った。
「わははっ! バカかテメーは! そんな仕事あったら俺がやってるわ!」
「ははっ! そりゃそーか!」
豪快に笑い合ったが、トオルは何か思い出して、ピタリと笑いを止めた。レネィは、急に笑いを止められてびっくりした。
「ははえっ⁉ なんだよ……」
トオルは、自身の座っているカウンターに前傾となったレネィの身体を、上から下まで嘗め回すように見ると不気味に舌なめずりをして、言った。
「ヒヒッ、そういやぁお前にピッタリの仕事があったぜ……」
「ふっ……うっ……」
レネィはランプ1つしかない薄暗い場所で、リズミカルに吐息を漏らした。その褐色の肢体は、ほんのり熱気を帯びて、艶めかしく汗に濡れていた。
「くっ……ふぅっ……確かにオレにピッタリだぜ!」
手に持ったツルハシで、鉱石を叩く、叩く。
現在、レネィの居るシュライバー洞では、空前のゴールドラッシュに沸いていた。
レネィは、その体格と細腕に似つかわしくない怪力で有名だった。トオルは、ふとそれを思い出して、炭鉱員として紹介したのだった。
「トオルの紹介! 確かになかなか割の良い仕事だ! トヴァ鉱石たった1袋で2百チュール! しかも! 勝手に持ち帰っても良いって訳だ! うちが昔から協会に入ってて良かったぜ!」
無言でやるのも寂しいから、独り言を言いながら、叩きに叩いた。誰よりも早く、強く、飽きずに丁寧で、レネィは炭鉱員としても最高の素質があった。
「よし! これ稼げねぇ! もう沢山だ、撤収しよう!」
レネィの放り投げたツルハシは、地面とぶつかって、派手に金属音を鳴らした。
半日、一生懸命に掘り続けて理解した。思っていたより採れず、その成果は1袋と半分だった。丸7日休みなく掘れば目標額に届くかも知れないものの、達成するには手足、腰、それと精神が犠牲になるだろう。その後の日程を考えると御免だった。
しかし、稼げない、というのには語弊があった。レネィは鉱石がこれだけあれば十分だと考えた。これを精錬して物を作ることで、価値は何倍にもなると、自分の腕を信じていたからだ。
「さて、これで何作るか……悩むことばっかだな~」
愚痴りながらも楽しそうなレネィは、その辺りに転がっていた猫車に鉱石を載せ、とりあえず工房へ戻ることにした。
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