お嬢様、屋敷へ行く

「ん……んん」

「……! 良かった! ノワールお姉様がお目覚めになりましたわ!」

 銀髪の少女、黒フードのチビこと、ノワールが目を覚ましたのは、グラス屋敷の一室だった。

「お姉様って……ぼくのお姉ちゃんなんだから! ミリカのお姉ちゃんじゃないもん!」

 ノノアは恐る恐る、頬を膨らまして抗議した。

「黙らっしゃい、ガキ。ぶっ殺しますわよ。ノワールお姉様はわたくしのお姉ちゃんでもあるのですわ」

 ぶっ殺しますわよ。の冷たい響きだけで、ノノアは縮み上がった。この人には逆らわないようにしようと、心に誓った。

「お姉様……? どうなったんだっけ……? あ、ミリカさん、ノノア、おはよう。」

「モカちゃんが助けてくれたんだよ! 良かったー、このまま目が覚めないのかと思ったよ……」

 偶然にも通りかかった、機関の一員であるモカフィが、救急の手配をして、ミリカと共に屋敷まで連れてきたという。

(覚えていないようですわ……ノワールお姉様の、あの変化については……言わない方がいいですわね)

 ミリカは、ノワールの気絶後に起こった戦闘のことは黙っていた。2回殴り飛ばしたことを悟られたくなかったからだ。

「(モカちゃん、絶対見殺しにしてたな)目覚めないって、そんな大げさな……」

 ノワールとノノアは、ミリカの一撃により全身を強く打ち、重体とされた。身動きのできないように包帯をぐるぐる巻きにして固定され、絶対安静の権化となっていた。

「なにそれ⁉ ノノア、大怪我してるじゃない!」

「お姉ちゃんもだよ……」

「でへへぇー⁉ なにこれ! いててて‼」

 気付かない方が幸せだった痛みに気付いて、悶絶するノワール。

「……全てわたくしの勘違いで、お二人の全身の骨をバキバキにお割り差し上げてしまいました……本当に、なんとお詫び申し上げれば良いか……」

 口調は丁寧だったが、物騒なことを口にして謝罪した。

「ううん、気にしないで! それよりミリカさん本当に強いんだね! ピアニさんの『時の病気』は私たちがきっと力になれるから、一緒に戦ってよ!」

 ミリカは、酒場の下種情報屋でも知り得なかった、姉の病気を知っているノワール、及び組織に感嘆した。

「まぁ! なんて心の広い……モカちゃんにも話を聞いた所、どこよりも優れた情報網を持っているみたいですから、信じて良さそうですわ!」

 心の中で、気持ちは固まっていたが、言葉に出してノワールに伝えた。ミリカはこの時、ノワールに対して、恋心に近い好意を抱いていた。

「わたくしも闇雲に動き回るのは懲りましたから……遠慮なく頼らせていただきますわ!」


 こうして富豪のお嬢様、ミリカ・グレイスは、ノワールに連れられ組織へ入ることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る