お嬢様とお姉様

 バチバチッ!と走る黒い稲妻に気付いたのは、ミリカが少女を抱きしめ、少し冷静になった時だった。

「……お姉様、おぐしが⁉ いつの間に……」

 ミリカが抱きしめるのをやめ、少し間を取ると、髪を漆黒に染めた少女が剣を振るった。

「ぐっ……!」

 恐ろしく早い逆袈裟だったが、何とか手にしていた棒で防いだ。ミリカでなければ直撃していただろう。

 また、防いだのは丈夫なゼルコヴァの棒のはずだったが、一撃だけ防ぐと断滅して砕け散った。

「⁉ ……お姉様は立っているのが不思議なくらいの怪我を負っているはずなのに……いや、そもそも先ほど、確実に気絶いたしましたわ!」

 少女が間髪入れずに突きを繰り出したところを、ミリカは回避して少女の右手を掴み、勢いをそのまま利用して投げ飛ばした。

 少女は、投げ飛ばされ壁に激突──するかと思いきや、途中で姿がかき消えた。

「なっ⁉」

 かき消えたのと、ほぼ同時に現れたのは、ミリカの頭上だった。

 ミリカは瞬時に察すると、首を狙って空中から打ち落としを仕掛けてくる少女に応じず、飛び退いて距離を取る。

「何ですの、今の……そして、誰……ですの?」

 ゆらゆらと、時折蜃気楼のようにぶれる少女に問いかけるが、返事は無い。あるのは明確な殺意のみだ。

「今の挙動は、以前相手にした魔族と似て……? とにかく、再度気絶させるしか……ないようですわね!」

 ミリカは手近に転がっていた、賞金稼ぎの持ち物である鋼鉄製の槍を蹴り上げて持つと、回して構えた。次の瞬間、前触れも無く少女が目の前に現れると、壮絶な攻防が始まった。

 両者ともに、小枝を振るような速度で得物を交差させた。その度にギィン!と、やはり鉄だったのだと思い出させる、重い金属音が鳴った。

(並大抵じゃありませんわ……)

 防御に終始していたのは、ミリカだった。大人になってから、ここまで苦戦を強いられたのは初めてだった。少女の攻撃には隙というものが見つからなかった。

 というか、もはや人智を越えていた。攻撃を受けたと思ったら、他の方向から攻撃が来ている。まるで2人にも3人にも分身して、影が追従して攻撃してくるようだった。

「賞金稼ぎ……倒しておいて、役に立ちましたわね!」

 数回の斬撃を槍で受けると、得物はすぐに摩耗して破断した。それを見越して、足元に転がる槍や斧を蹴り上げて持ち替える。それを繰り返して防ぎきっているミリカも、同じく人智を越えていた。

 攻防がしばらく続くと、ミリカは、あることに気付いた。

(あら? 髪の毛が元に……?)

 少女の頭頂部の髪色が漆黒から白銀に戻りつつあった。それに伴って、心なしか斬撃の幕も弱まってきているようだった。全く根拠は無かったが、髪の色が元に戻るまで待てば、この状況も終わるのではないかと少しだけ考えた。

「でも、ごめんなさい! わたくしも、もう腕に限界が来てますのッ!!」

「今ッ‼ 六華りっか‼」

 弱まった斬撃の、刹那の隙をついて、不可避の6連撃を放つ。

 少女は、不可避だったから、姿をかき消して回避した。次に現れるのは──

「そこですわぁ~~~♡ 月天げってん‼」

 得物と共に回転して巻き上げる、頭上に判定の強い対空技だ。

 ミリカは、少女が現れる前に、動作を開始していた。きっと次に消えた時に現れるのは、隙の多い背後か頭上だと踏んでいたから、どちらでも対応できる手を打った。

 そうして、ミリカの扱う槍の柄が、頭上に現れた少女の顔面にめり込んで弾き飛ばすと、今度こそ少女は白銀の髪色に戻って動かなくなった。

「ふぅっ、ちょっぴりだけ危なかったですわ……このお姉様、一体……?」

「いえ、それより何とかしないと、このままでは死んでしまいますわ‼」

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