空腹は、お嬢様を殺すか
数日後、レモンライムの街道に、ミリカの姿はあった。
ブーケガルニで、病気の手がかりを得られなかったから、更なる大都市であるアエスヴェルムに向かおうとしている途中で、ミリカは危機的な状況に陥っていた。
人気の掃けた夕闇の中、どう見ても堅気でない男たち十数人に囲まれながら、ミリカは思った。
(完全に見誤っていた……多少は覚悟していたが……野良がこんなにも大変だなんて……あー、おなかが空いたわ……)
「なぁ、お前ら、この姉ちゃんの賞金、確かよぉ……条件は、生け捕りだったよなぁ?」
ごろつきの一人が、舌なめずりをして、次にミリカの身体を舐め回すように見て言った。
「それって、生きてりゃよぉ! 何しても良いってことだよなぁ!」
脅すように、更にいやらしい目つきで見て言うと、周囲からの下卑た笑いがハーモニーを奏でた。
「あぁもう‼ 鬱陶しい‼ 見苦しい!」
ミリカが渾身の力を込めて、手に持っていた棒を振るうと、旋風が巻き起こるほどだった。
1振り、2振り、3振りと振るうと、それに合わせて数人が吹き飛んでいく。下衆笑いのハーモニーは、間髪入れずに悲鳴の嵐に変わった。
直撃したら、と想像したくない破壊力だった。もちろん直撃してる奴も居たが。
「ぐぇー⁉ ……つ、強すぎる……♡」
「しょ、賞金一桁間違ってるだろ……」
自慢だったワインレッドの巻き毛もぼさぼさに乱れ、煌びやかだったドレスは、残っている面積の方が少ないような有様だった。
そうして自身もごろつきと大差ない格好になったミリカは、ごろつきたちを一蹴し、嘆息した。
「はぁ、もう、うんざりだわ、どうせ何人で来たって私に敵うわけがないのに……」
一蹴した男達の荷物から、一枚の紙切れを奪い、愚痴った。
「それにしても……普通、実の娘に、こんな多額の賞金なんて懸ける⁉」
ミリカは、こんなにも自分に賞金を懸けるのは、あの父親しか居ないと踏んでいた。
その、あまり似ていない300万チュールの女が描かれた手配書を破いて、ごろつきの一人に問うた。
「おい、貴様! この辺で情報の売り買いをしてる奴は居ないか!」
「あと、このまま無事で帰りたいならば、食べ物をよこしなさい!」
「あ、あへぇ……も、もう無事じゃないよぉ……」
先ほど、ミリカが繰り出した打撃に直撃したらしく、手足があらぬ方向に曲がってしまっている男が言った。
「……チッ、ないよりはマシか」
先程の戦利品である、カチカチに湿気って固まった灰色のパンをかじり、吐き気と一緒に飲み込んだ。こんなに不味いものは、先日食べた雑草以来だった。
「ぐっぅ、アエスヴェルム外れの酒場に居る情報屋……まで持つかしら……」
涙目になりながらも、新たに得た手がかりを目指すミリカだった。
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