献身
リザリィは少女の濡れた服を脱がせると、下着姿のまま乾いた毛布で包み込んだ。
「うーん、でかい。……じゃなくて、とりあえず何かから熱のクオリアを抽出しなきゃ! 冷たいままでは、死んじゃいます!」
かといって近くには熱源となりそうなものは無かった。クオリスは普段から熱のクオリアを宿した衣服を身に纏っているため、焚火や暖炉等の文化が存在しなかった。
「しょうがない……これだけはやりたくありませんでしたが……」
リザリィは、自らの装束に宿された熱のクオリアを、少女の毛布へ移し、思い切り走り出した。
「ッすすす~~~! 寒い、です! 考えたく、も、ありませんでし、たが……やっぱり、寒い!」
クオリスが生涯、感じることのない寒さだったから、泣き言も零れ出た。クオリスは寒さに強かったが、あくまで常識的な寒さまでの話で、ノースポールの寒さはその上を行っていた。
「ととととり、熱……ねね熱のの……(とりあえず熱のクオリアを私の服に付与しないと、こっちが死んでしまいますね。皆に頼もうにも、掟のせいで無理でしょうし……)」
もはや言葉を発するのにも難儀し、そもそも独り言を言う意味は無かったから、急ぎ確実な熱源へ、ホニャラ洞の溶岩池を目指すこととなった。
ノースポールを含む北方未踏地域は、その大部分が「ラインホルツ」と呼ばれる、見上げる程の険峻な山々にいだかれ、厳しい寒さと自然に囲まれた、自然の要塞となっている。
凍死寸前の少女を拾った「クルム森林」や、クオリスの里は山麓の方で、リザリィが目指している「ホニャラ洞」は山を少し登ったところにあった。
道中では、大厄災以降に狂暴化した動物たちが襲い掛かってくるが、構っていられなかった。いつもなら可愛がったり、手に負えなくなった獣は対処したりするが、止まったら凍死しそうだったので、走り抜けた。
「はぁっ……はぁ……着きました……! 何だか……夢中で走ってたら、逆に暑いですね……」
息を切らし、汗をかきながら洞窟の入り口に到着すると、そこらの雪から「冷気のクオリア」を抽出して、自分の体に付与し、体温を調節した。
「はぁ~~♡ 気持ちいい……こんなの、生まれて初めての感覚ですねぇ~♡ 癖になりそう……」
リザリィは涼を得て、サッパリした顔で次の仕事に取り掛かる。ホニャラ洞のやや奥へ進むと、目的の溶岩の池があり、陽炎のたつ中空に手をかざした。
「うんうん、いい子です……溶岩さんは流石ですねぇ~」
くるくると手を回し、きらきらとした赤熱色のクオリアが集まった。何度か動作を繰り返し、熱のクオリアを大量に仕入れたリザリィは、懐から小さな特製の箱を取り出すと、その煌めきを大切に仕舞った。
「よし、クオリア箱いっぱいに集まりました。急いで戻りましょう!」
リザリィは少し考え、そわそわしたそぶりを見せると、熱のクオリアを付与せずに、そのまま走り出した。
自殺行為なのは分かっていたが、先ほどの快感が余程だったのか、癖になってしまったようだった。
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