クオリスと少女

(10年前の「厄災」で、突然暴れ始めた動物達を鎮めるため戦った、両親がクオリアに還りました)

(あの厄災以降、何かが変なんです。何か、違和感が……外へ確かめに行かねばならない……気がするんです)

 リザリィの特技はキノコ採りで、万年雪によって、見つけにくいキノコを、首尾よく発見し収穫していた。

「それなのに……」プチッ。

「まったくもう!」ブチッ。

「まったく!」ブチッ!

「もう!」ブチブチィッ!

 喚きながら、キノコを一心不乱に採取し続ける。

「このままじゃこの村は……ううん、下手したら、世界が危ないのに……」

 なんの根拠もない事を思った。その時だった。

「ん? え? え⁉ あれは、雪割キノコでは⁉」

 余程の稀少キノコなのか、にわかに色めき立つリザリィ。走り寄り、周りの雪をそっと慎重にかき分けると……

「へぇっ⁉」

 雪割キノコの横に埋まった人間を発見した。

 歓喜の表情から一転、一気に血の気が引いた。

「い、生きてる……?……冷たっ! ほとんど死んでるっ!」

 とにかく急いで雪から掘り出してみると、年はリザリィと同じくらいだろうか、銀色の髪と猫耳を持つ、ひらひらの飾りが沢山あしらわれた服を着た少女だった。

「可愛い格好……きれいな髪……それに、猫の耳……?」

 初めて見た外界の人間に、一瞬だけ感嘆するが、それどころではないと首を振り、様子を伺った。

 生命反応が薄く、肌も特有の気持ち悪い色に変色していた。所見は、やはり死にかけだった。

「とりあえず運ばなきゃ!」

 運ぶために持ち上げようとした瞬間。

「え……何……この、人? のクオリア……」

 ズクン、とした違和感を感じ、一瞬動きが止まった。触れたもののクオリアが分かるのは、ノースポールの民ならば当然だ。

「……いや、今はとにかく暖かい所へ!」

 リザリィは「外の人間のクオリアは皆こうである」と気を取り直し、倒れていた少女を肩で担いで、村へと運び出したのだった。


 リザリィが息を切らして村へ到着すると、酋長の家(自宅のこと)へと少女を安置した。

「あわわ……どうしましょう、とりあえず……どうしましょう!」

「リザリィ!なんだそれは!」

 少女に手をかざしたり、その辺を歩きだしたり、分かり易く動揺していると、どこからともなく現れた長に言われるリザリィ。

「倒れてたんです!ほぼ死にかけているんです!助けなきゃ!」

 「こんなとんちんかんな恰好の……大体ノースポールに外の者が訪れるなど尋常じゃないぞ、悪い者かもしれん、関わるんじゃない。」

 確かに、クオリアを操る術も無しに、良くこんな寒い恰好で来たものだと思ったが、論点はそこではなかった。

「助けなくていい命なんてあるんですか⁉ ないでしょう! それと、彼女のクオリアを見てください! 全く悪のクオリアを感じませんから!」

 助けるに値する人物だと、全身を使って主張するリザリィ。

「私たちの力は……人を救うための、力じゃないんですか⁉」

 泣きながら、なお力説するリザリィに負けた長は、しぶしぶ少女に触れ、クオリアを探る。

 「……⁉(悪のクオリアが"全く"存在しない⁉ それにこれは……?)」

触った瞬間、バチっとした妙な感覚があったが、それ以上に、少女のクオリアは異様だった。

「……分かった、勝手にしなさい」

 長は言って部屋の奥へと引っ込んだ。普段だったら、何が何でも許さないだろう長だったが、不思議と、そんな気分になっていた。

「勝手にさせていただきます!」

 リザリィはそう言いながらも「祖父にも人の心があったのか」と思い、安心した。

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