【D.C.1824】辺境の巫女

 雪深い極寒の地。地図に載らない村、ノースポール──

 村のしきたりを己の運命とされ縛られる巫女と、運命に抗い、戦い続ける少女の出会いの話。


 万年雪に覆われ、雪の降らない日の方が少ないノースポールだが、その日はやはり荒れ模様で、暴風雪に見舞われていた。

 この村に記録は無いが、太古の昔から外界との接触を一切拒み続けているという。そもそも、人が住めるような、往来できるような環境ではないため、自然とそうなっていた。

 隔絶された環境の中でも、ノースポールの住民は明るく元気だった。村民全員が家族のように暮らしていた。これは比喩ではなく実際に、全員が近親者であった。

 村の住居は、過剰な積雪を避けるため、屋根が急勾配になっており、丈夫な造りだ。

 そんなまわりの家々よりも、少しだけ大きくて、少しだけ頑丈な作りになっているのが長の家で、珍しく何やら騒ぎが起こっていた。

「──……ですから長! 何らかの異変が起こっているのは確かです! ノースポールの民として放っておけません!」

 騒いでいたのは、15~6歳程と見える、前髪を揃えた栗色の長い髪の毛と、碧色の目を持った少女だった。

 白と青の独特な幾何学模様、村特有の柄があしらわれた民族衣装を着たその少女が、顔を真っ赤にして前に座る老人に食って掛かった。

 同じく白青の衣装を着た、長と呼ばれた白髪の老人は、難しい顔をして聞いていた。

「……大気のクオリアも乱れてますし、暴れだした動物達も、動きがどんどん活発になっています……」

 人間の生物的限界である低温を涼しい顔で耐えるノースポールの民には、ある特性があった。

 人によって能力の差はあるが『クオリア』と呼ばれる『存在の感じ』を感知し、大雑把に言えば使役できる。

 彼らは古くから、クオリアを扱う者「クオリス」と自称していた。


「……孫よ、リザリィよ……お前は、じきにこのノースポールの酋長じゃ……里の掟に従いなさい、外の世界のことなど見に行く必要はない」

 長がリザリィと呼んだ娘は、地団駄を踏んで言った。

「……掟、掟ってなんなんです! 将来の長ならなおさらじゃないですか! 今のうちに世界を見て見聞を広めることは大切でしょう!」

 リザリィは村のしきたりを知らないではなかったが、何故そんなにも外へ出てはならないのか、根拠もないし、具体例も無いから分からなかった。

「お前は何故こう……外界なんぞに行きたがるのか、分からん奴め! クオリスでありながら、外界に出たいなどと言うのはお前だけじゃぞ!」

 これまでに外に出たいと申し出たのは、一度きりではなかったが、議論は毎回、同じ道を辿った。

「私だけだからなんだって言うんですか! もう! ばか! おじいちゃんなんか知りませんっ!」

 考えの違う長に苛立ち、建物から飛び出すリザリィ。

「森の方に行って、キノコ採ってきますから!」

 いったん戻ってきて、行先を伝えると、今度は本当に走り去った。


「……リザリィよ、古の昔より、クオリスは外界に干渉しない掟……例え世界が滅びようとも、それが運命なのだ……」

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