ノノアとリモラ丘陵の高EXPモンスター

 ミントグラス付近の魔物は見慣れたものだったが、リモラ丘陵まで来ると、いつもの魔物とは少し毛色が違うようだった。人の通りが殆ど無い分、魔物の数が多かった。それに個々が強いし、素早いし、耐久力も高かった。

「エル、シノ、すごいね! ノノアが思ってたより断然強い!」

 エルとシノは、双子ならではの息が合った連携を見せていた。攻防ともに優れた陣形を取り、魔物を寄せ付けなかった。

「俺たちも、爺ちゃんに剣術を教わってるんだ! ノノも、思ったより強いな!」

 エルは来てよかったと思った。ノノア一人ではやられてしまっていたかもしれないからだ。

(これは……私達、来ない方が良かったかも)

 シノは全く逆の考えだった。ノノア一人なら危険と判断したら、容易に逃げてこれるだろうと思ったからだ。

「ノノちゃん、危なくなったら走って逃げ──」

 シノが言おうとしたが、ノノアの声に遮られた。

「あー! 多分あいつだ! 見るからに強そう!」

 歩く度に地鳴りをさせて、現れたのは、体高がノノアの倍はあろうかという巨体の獣だ。口元から生えた2対の鋭い牙が見るも恐ろしい。体の至る所にある苔が、如何に長い間、この魔獣が退治されずに生き残って来たかを示していた。

「ま、魔イノシシだ……私達じゃ……っノノちゃん!」

 シノは忠告しようとしたが、ノノアは既に魔獣の前へと飛び出し、仕掛けていた。先手必勝とばかりに、高速の突きを何度も繰り出した。

「……全く手応えが無い! 同じ大きさの岩を殴ってるみたい!」

 魔獣は微動だにせず、お返しに、とばかりに牙でノノアを突き飛ばした。

「……ノノっ! 大丈夫か⁉」

 物凄い勢いで吹き飛んだノノアを、エルが全身で受け止める。ノノアは青ざめていた。

「あ、あぶな……もし後ろに飛んでなかったら、直撃してたら……いや、でも……」

「ミリカ姉の圧に比べたら大したことないし、威力も弱い! ……いける! 二人とも、ノノアがあいつの注意を引き付けるから、その剣で目を狙って!」

「お前、あの優しいミリカお姉さんに、どんな扱い受けてんだ……?」

「え、えぇ……? 大丈夫かな……?」

 シノは不安だったけど、一人だけ逃げる訳にもいかないから、応じることにした。

「くらえっ、このぉ! 螺旋槍らせんそう‼」

 先ほどの連打とは違い、一撃に全身の軸捻転を使い、全力を込めて拳を放った。が、やはり魔獣は微動だにしなかった。それでも、挑発するには事足りたようで、一度吠えると、荒れ狂ってノノアに突進し始めた。

 ノノアはこれを引き付けて回避すると、魔獣に追いかけられる形となった。

「エル! シノ! 頼むー!」

 牙の突進と噛みつきを2度、3度と回避し続け、ノノアが叫ぶ。

『1、2の、ランジ‼』

 左右に展開していた双子の剣が、タイミングを合わせて同時に魔獣を刺した。

 エルの剣は魔獣の目を捉え、確実なダメージを蓄積させた。対してシノの剣は狙いから外れ、魔獣の堅い背中の皮膚に突き刺さった。

「あっ、あ……持ってかれちゃった!」

 猛スピードで動いている魔獣に、シノの握力が負けて、得物がすっぽ抜けてしまった。大小の傷を負って、更に狂暴化した魔獣は、がむしゃらに手近なノノアを追いまわした。

「わ、わっ! 剣……これだッ! ここっ、貫けぇッ!」

 ノノアは一撃で致命傷となり得る、全ての攻撃を紙一重で回避しつつ、反撃の機会を見逃さなかった。まわりの木を利用し、三角蹴りを放つと、魔獣の体に残った剣を深く突き刺した。

 魔獣は、叫んで崩れると、絶命したかに見えた。

「やったー! ノノアたちだけでやっつけたよ!」

『……ノノッ、危ないッ!』

 双子が同時に叫んだ。倒れた魔獣を背後に、満面の笑みを浮かべて双子の方を見ていたノノアだったが、魔獣は生きていた、起き上がっていた。

 お互いに目が合うと、魔獣は再度、暴れ始めた。ノノアは咄嗟に横へ回避するが体勢を崩し、次の一手が遅れてしまった。

「……っぐ!」

 魔獣は牙でノノアを捉えると、しゃくりあげた。

 衝撃と共に空中に放り出されたノノアの行先は、崖下だった。

「……あれ? ノノ、ちゃん……?」

 双子は一瞬、時が止まったように感じた。一瞬だけど、永く感じた。シノが茫然として崖下を見に、ふらふらと魔獣の方へ近付こうとするが、エルが掴んで止めた。

「なんで止めるのよ! 私はノノちゃんの所に行くんだから!」

「あいつは、ノノは俺たちが逝った所で喜ぶ奴じゃない。二人で仇を討つんだ、生きるんだ」

 エルが泣きながら言っていたから、シノは「自分もしっかりしなければ」と、正気を取り戻した。

「エルごめん、そうだよね……でも、私の剣も無いし──」

 魔獣は怒りに狂った眼差しで双子を睨みつけると、次はシノに狙いを定めたらしく、地面を蹴り始めた。シノは覚悟を決めて目を瞑った。

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