ノノアとヤバげな裏クエスト

「ええっ、一体どんなとこで寝ていやがるんです?」

 小柄な体躯に、肩口で揃えた鮮やかなピンク色の癖毛と尖り耳、無表情な瞳を隠す赤ぶちメガネの特徴的なメイド少女が、廊下で倒れているノノアをのぞき込んで言った。

「うーん……モカちゃん……? ノノアどうなったの」

 モカちゃんと呼ばれたのは、本名をモカフィという、組織の諜報員だ。

「うーん、モカちゃんですよ、こんなところで寝てないで起きなさい」

 ノノアは状況を理解して起き上がると、藁にもすがりたかったから、モカちゃんに事情を話した。

「ふんふん、なるほど。手っ取り早く強くなりたいんですね。はぁ、へそで茶が沸きますよね、片腹痛いっていうか」

 散々な言われようだったが、モカはいつも困った時に現れては、結果的に解決する。そんな人だった。

「経験値の高い相手を、なんとか倒すことですよね。そういえば今、丁度『リモラ丘陵』の方で、そこそこ強大な魔獣が暴れているらしいんですが……あっ」

 モカはしまった、といった様子で手で口を覆った。

「危ないから絶対に行っちゃダメですよ、これは絶対ですよ。振りとか煽りとかじゃなく、本当の本当に絶対ですから」

「はは~んなるほど! その魔獣を倒して、経験を積んで来いってことだよね!」

「いや、だから絶対行くなっつってんだろうが、アホかこいつ」

「はいはい(笑)、行ってきます!」

 ノノアが笑顔で走り去ると、モカは表情1つ変えず、器用に青ざめた。

「う、嘘だろ。や、やばい。また私、何かやっちゃいましたよ……」

 ノノアに続いて、モカも「こうしちゃいられない」と何処かへと急いだ。徒歩で。そう、諜報員モカは、トラブルメイカーとして有名でもあった。


 ノノアがリモラ丘陵を目指し、途中のミントグラスへ着く頃には、日は頂点より少し傾いてきていた。

「強大な魔物って言ってたけど……どのくらい強いんだろう、お姉ちゃんくらい強かったらやだなぁ。ミリカ姉くらい強かったら……すぐ逃げよ。いや、気付いたらもう手遅れかな……」

 そんな算段を立てていると、ノノアを追いかけてきた二人組に声をかけられた。

「ノノ! 心配だから着いてってやるよ。どうせお前一人じゃ、すぐにやられちまうからな!」

「また意地悪言って、素直じゃないんだから……」

 最初に声をかけてきたのは、エルという少年で、次に話したのはシノという少女。二人はエリクの孫で、双子だ。両方ともノノアと同じくらいの背格好で、白い絹のシャツと、七分丈の黒いズボンを着用しており、細剣を携行している。姿形や声は今のところ瓜二つだったが、もうじき違いが出てくるだろう年齢に差し掛かっていた。

 二人はノノアと同じ年だし、生まれた時から、ずっと一緒だったので仲が良かった。

「うん、ありがと! そっちの方が楽しいし、皆で行こう!」

 ノノアが屈託のない、満面の笑みで返すと、意地悪を言ったエルは真っ赤になって目を逸らした。

「べ、別にお前と楽しみに来たわけじゃ……」

「はぇ~、わかりやすっ。エルに比べてノノちゃんの素直さ、本当に可愛いな~」

 3人はミントグラスのパン屋さんでカリモチの美味しいパンを1つずつ買うと、リモラ丘陵へ続く山道へと賑やかに入っていった。

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