ノノアと爆散する屋敷
「そうだ、もっと強い武器! これは手っ取り早いでしょ!」
ノノアの戦闘スタイルはスピードを生かした格闘で、主に拳保護帯や暗器などを装備として使っている。これを殺傷力の高いものに換えられれば、それすなわち強くなったということだ。そう考え、屋敷の庭に建てられた鍛冶室へと向かった。
鍛冶室は、入ると奥に地下への階段が続いており、やはり雑然と置かれた掃除用具等によって秘匿されている。
「うわ暑……姉さーん! レネ姉ー! あれ、居ないのかな」
階段を下りながら、鍛冶室の主を呼ぶが、反応が無かった。しかし、鉄を叩く音は聞こえているから、とりあえず入っていくことにした。
部屋で鉄を打っているのは、カストラーダ出身、元鍛冶職人のレネィ・リィンズだ。元と言っても組織の武器修理、開発担当だから、屋敷に来てからも、ずっと溶鉱炉と共にあった。
暑いからか、メイド服を着崩して、その豊かな胸元を露にしており、汗で濡れた褐色の肌が目に眩しい。ひらひらのスカートも腰に近い所でひとまとめにしており、すらっと伸びた長い脚が臆面も無く晒されていた。
「ん? おー! ノノか!」
「なーんだ、やっぱり居るじゃん。声デカっ」
細く美しい絹糸のようなピンクゴールドのポニーテールを揺らしながらも、その顔には不似合いな鉄仮面を着用し、美人な雰囲気を全て台無しにしている。
「あん? なに言ってんだ? これ、あんま音が聞こえねーんだ! ちょっと待ってろ!」
数分だけ、鉄を良い所まで叩くと、顔をガードする鉄製の仮面を外した。出てきたのは、鍛冶の街であるカストラーダ出身者特有の尖った耳をした、目鼻立ちの良い美人だった。
「すげぇだろ? これ。溶けた鉄が顔に飛んでも平気なんだよ」
無邪気に笑って言うレネィ。ノノアは「顔だけ無事でも、体をそんなに露出してたら意味ないじゃん」と思ったけど、言ったらややこしくなりそうだから言わなかった。
「レネ姉、ノノアに新しい武器作ってほしいんだ」
「あぁん? なんだぁ? ……ノノてめぇ、まさか努力せずに、手っ取り早く強くなりてぇとか思ってるんじゃねぇか?」
レネィが鋭い目で睨んで言った。
「ギクー? そ、そんな訳あるはず⁉ 無いニャンけどぉ……?」
そう言いながら眼球を右上の方向に動かし、顎を持つノノア。図星過ぎて、ニャン語が飛び出した。
「なんだ違うのかよ。武器ってもんは努力せずに強くなるための物だろうが、とびきりのを作ってやろうと思ったのに。っかし努力が好きとは殊勝だねぇー、じゃあ稽古つけてやるよ、来い」
「えー……? えぇー……」
ノノアは半ば無理やりに中庭へと戻されると、レネィと組手を行うことになった。人生の選択肢は難しい、本当にそう思った。
「よーし、準備いいな? その距離から俺に触れることができれば合格だ。他のには当たっても良いけど、セイレーンの弾だけには絶対に当たるなよ、人体なんて簡単に爆散しちまうからな」
セイレーンというのは、対峙するレネィが右手に持つ小型大砲のことで、彼女の考案した武器だった。なんて恐ろしいことを言ってるんだ、と思う間もなく、開始の合図である笛が鳴らされた。
ノノアが「レネ姉に触れるだけか、どうせそんな恐ろしい威力の大砲、ここで撃つ訳は無いし……模擬戦って、なーんかやる気出ないなー」とか思っていると、そんな腑抜けた顔の真横を小型大砲の弾が通り過ぎた。後方で壁にぶち当たると、轟音と共に炸裂し、破壊を招いた。「やばい」ただこれだけを本能で感じ、気を引き締めて取り組むことにした。
距離はそこそこ離れていたが、近づくのは訳が無いと思った。というのもセイレーンは、破壊力こそ凄まじいものの、1回撃つと、再度撃つまでに時間がかかるらしい。次に1発、撃ってきたらそこがチャンスだ、そう考えた。
しばらく鉄の工具やナイフを投げて、けん制していたレネィだったが、とうとうセイレーンを構えて、放った。ノノアはうまく横に躱すと、そのままの勢いでレネィに飛びかかった。
「奥の手が、セイレーンが一丁だけだと思うなよ?」
いつの間にかレネィの左手には2つ目の小型大砲が握られ、銃口はノノアに向けられていた。「直線的すぎて避けられない、死んだ」とノノアは観念して目を瞑った。
「もー何これ! なんなのもう! やだーもう!」
そんな折に、聞こえてきたのは青くなったエリクの叫び声だった。壁や床に空いた大穴を見て卒倒しかかっている。
「やべぇ、俺はバレないうちにずらかるぜ。ノノ、ほぼ合格だ。突進する時は相手の手札に気を付けろよ」
レネィは、目を瞑ったままの、ノノアの頭を手荒に撫でて笑うと、風のように消えた。
「なるほど、逆に突進を誘って対応されてたってワケか……フェイントとか、工夫すればいいのかな」
「あ、血だ。腕から……けっこうザックリ切れてる」
全く気付かなかったが、レネィの投げナイフが腕をかすめていたらしく、地面に小さな血だまりを形成していた。
「どこへ行った、レネェー‼」
(レネ姉、逃げたけどすでにバレてるじゃん)
四つん這いになって号泣し、地面を叩くエリクを遠目に見て、ノノアは治療室へと向かった。
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