第22話 ウルその人
ブスブスと音と煙を上げ力無く横たわる下級天使。
最高位の大天使で四大天使の一人でもある
大地と裁きのウル
その人である。
「やりすぎじゃないか」
俺とミカリンの息ピッタリのコンビ攻撃は
さながらループ・ゴールド・マシーンの様だった。
散々もてあそばれた挙句
足元に転がる哀れなウルの姿を見下ろして俺は言った。
しかしミカリンは情け容赦無く言った。
「起きろ」
おいおい意識無いだろ
そう思ったが、なんとゾンビの様に
気絶しながらもウルは上体を起こした。
「こんな体だけど、権限は有効みたいなだね」
詳しく聞いて見ると
天使は上の位の天使の命令に強制力があり
天使長ともなれば全ての天使を制限可能だそうだ。
俺はふーんと聞き流したが
かなりヤバいんじゃないの今の状況って
その天使長が今奴隷だよ
俺、命令し放題なんだよ。
「ぐ・・・ぅ」
すごい「起きろ」の命令で失った意識すら回復した。
「・・・ミカ?ミカなのか」
「久しぶりー何してるの」
「何では無い!お前を探しに来たんだ」
「えー変だなーそれ」
ミカリンの話によると
2~3百年程度、行方不明などは良くある事だそうで
その程度で四大天使がグレードダウンまで
行って捜索など大袈裟だと言うのだ。
スケールがデカい
2~3百年行方不明がプチ家出程度の認識でOKだ。
「本当の理由は?」
ミカリンの説明に答えず俺を睨むウル。
ミカリンは察して俺に聞いて来た。
「あ、僕の状況をウルに説明してもいい?主様」
こいつは知っていても良いだろう。
ただ、俺自身が前回のウルの仇だ。
俺があの魔神だと知れば
襲い掛かって来ないかと思ったが
呪いを発動させればミカリンにダメージが行く
そうなれば手出しは出来まい
返事の変わりに頷く俺。
「・・・あ主様?だと」
ウルはミカリンの言った「主」に驚いている。
「んーと、ウルが知らないのは」
ミカリンはウル退場後の最終決戦からの下りを説明した。
腕を組み黙って聞いていたウルは話が終わると呻いた。
「ぬぅう。そんな事になっていたとは・・・。」
「そういうワケで今の僕は奴隷なんだ
もう、色々されちゃったしね。」
「「何だと?!」」
同時に驚くウルと俺。
「おい、俺が何したっていうんだ」
あれこれ面倒みてやって大事にしたじゃないか
感謝されこそすれ文句を言われる様な事は無いぞ。
食って掛かる俺にミカリンはあっさり答えた。
「えーとね裸に剥かれて、全身舐めまわされて
唇も奪われたでしょ・・・後は・・・。」
「そんな事!!・・・した」
したわ。
過去振り返ってみれば
色々してるなぁ
ごめんなさい。
「貴様!!許さん殺す!!」
そりゃ怒るわな。
ウルは激昂し立ち上がる。
ボロボロの割には元気だ。
ウルが攻撃態勢に入る前にミカリンが制した。
「アモンへの無礼な振舞いを禁ず。」
「失礼いたしました。」
激昂が嘘の様に一瞬で笑顔に変わり跪くウル。
怒るより怖かった。
天使長権限怖い。
「・・・くっ」
笑顔が引きつっているウル。
強制力に抗っているのだろう。
「人の話聞いてた?アモンへの
ダメージは僕に降りかかって来るんだよ」
普段は発動させていないので
キッチリ俺にダメージが入っているが
絶命するようなダメージの場合は
本人の意識関係無しに強制発動してしまうらしい。
「そうだ。気をつけたまへウルポン」
俺のセリフに反応し、すんごい速度で顔が
ピクピクしている。
もはや顔芸の領域に入り始めたウルの顔。
こいつ煽り耐性が俺より低いんじゃないか
からかうのは程々にしておこう。
「で、話戻すよ。人間界に来た本当の目的は何?答えろ命令ね」
ミカリンが改めてウルを問いただす。
「本当に捜索だ。俺はな・・・」
「他に誰が来ているの?」
「ラハとブリも同じように来ている。」
おお
俺は横から会話に割り込む。
「ブリっぺに会いたいな呼べないか」
「・・・・。」
俺の質問にガン無視するウル。
相当嫌われているな、こりゃ
まぁ当然だわな。
「答えなさい」
気を利かせたミカリンが問いただす。
「くぅ、交信の手段が無い、
場所も分かれて捜索している。
会うのは無理だろう」
そうか残念だ。
是非、名付のコツを伝授して欲しかった。
「・・・ラハの奴なら知ってそうだね」
天使長権限の強制力は嘘も不可能なのだろう。
ウルの言った事を信用しているミカリンはそう言った。
「関係あるかは分からんが・・・」
そう言ってウルが話を始めた。
「うん。言って」
「界記録に狂いが生じているようだ」
「なんだって!?」
やたら驚くミカリン。
何をそんなに驚く事があるのだろう
記録が塗り替えられるなんて
当たり前の事だろう
記録
それは、いつも儚い
ひとつの記録は一瞬で破られる運命にあるのだ。
俺は界記録とは何かを聞いた。
ミカリンはちょっと悩んだ後に説明してくれた。
界記録
天界にある石板で天まで届く程巨大だそうだ。
天界なのに更に天とはスゴイね
そしてそれには
この世の初めから終わりまでが記録されている。
予言と違うのは
こうなるかもよって言う「予想」では無く
そういう事があったんだよと言う「記録」だと言う点だ。
石板の正体は
何でも時の神ケイシオンそのものらしい。
俺の元の世界に例えると
鳴らしっぱなしのCDかなCD-Rと違い書き換え不可能だ。
現在がヘッドで今再生している音だ。
先に何が書いてあるのか知る方法が無いらしいので
困っているそうだ。
あんまり意味無いよね。
「どうせ分からない先の事が
どうして狂ったって分かるんだ」
俺は普通に疑問を投げかけた。
「過去の事実に変化が生じたらしい」
らしい、と表現したのは
四大天使でも石板の場所には立ち入り禁止で
極少ない限られた神々だけが出入りしているのだが
その連中の慌てふためきっぷりから
想像するに、それしか無いという予想だ。
既に経過した過去の記録は読める状態だ。
変わるハズの無い過去が変わってしまった。
絶対が揺らいだ。
それはもう大騒ぎだそうだ。
「今回の捜索も、その手掛かり欲しさと言ったトコロだろう」
「ウルにしては考えたね」
普段何も考えないキャラなのか
「だが、どうやら当たりじゃないのか」
そこでウルは俺を睨み強い口調で言った。
「三界以外のナニかが魔神を乗っ取り
大天使を奴隷にして人の姿で
今ここにいる。異常事態だ」
「大変じゃないか」
「何を他人事の様に・・・」
プルプルしているウル。
やだ
激おこなの
「て言われても実感無いんだよな」
そうゲームだ。
本当に遊びに来ただけなのだ。
この世界にしてみれば
ふざけるな
と、言うのは分かるが
いちプレイヤーに言われてもだ。
「周りくどい駆け引きは好まん」
怒りを何とか沈ませてウルは聞いて来た。
「貴様の一体目的は何だ。3つの世界をどうするつもりだ」
んー
完全に俺が首謀者になってるなぁ
違うんだよ。
そこから理解してもらわないと
話が進まないだろう。
俺が
こうどなじょうほうせん
の策略を練っている間に
ミカリンが答え始めてしまった。
「ん?アモンはねー」
ん
ミカリンは元の世界のゲームの
概要なんぞ分かっているハズが無い。
こいつの今知り得る俺の
いや
三半機関の目的って言ったら・・・
マズい!!
止めねば
こんな攻撃型堅物キャラに
そんな愛嬌は通じない
絶対怒る
既に怒っているのに
更にチャージしてしまう。
俺の反応は間に合わずミカリンは言ってのけた。
「ハーレム作るんだって」
終わった。
今、ここで呪いを使用してミカリンと共同で
ウルを倒しても戻ったウルは神界の全軍
連れて来られるだけ連れて来て
俺を滅ぼすに違いない。
かつての俺なら
まだ何とかなったかも知れないが
レベル上げが間に合わない。
ミカリンの呪いを盾にしたところで
それより上位の神から
許可みたいなのが出るだろうな
元々が大天使の力を下から二番目の
神の力で返したモノだから
力順位的には10段階上があるわけだ
その10人のうち一人でも
ウルの申し出に「いいよ」って言ったら
解除が出来そうだな。
ここまでか
速い二週目だったな。
しかし、ウルの返事は予想外だった。
「そうか・・。ふーむ」
心なしか怒りも収まっている。
「「納得した!?」」
ミカリンと同時に驚く。
「疑わしい目的では無い。現にエグザス様など
そのままではないか。」
あーヴィータも言っていたっけな
浮気しては、その度に正妻ユノにお仕置きされてる
あの最高神ね。
「強いて言うなら、ありきたり
普通すぎるのが欠点か」
なんかデジャブ
「いつだったか。エグザス様が降臨した時など酷かったぞ
戦そっちのけで女性の尻ばかり
ホーミング・マイ・ウェイだった。
・・・確かヒリングと言う人属の間に子が
おっと・・・これは秘密だ。」
エッダ・ヒリング
ガバガバ・ヒリング
勇者の家系
道理で人間離れした体力だ。
神の親戚だったのか
どうでもいいところで
どうでもいい秘密が開放された。
ミカリンは瞳孔まで真っ白になっている。
ともかく
ゆ
許された。
そこでハッと気づいたかのようにウルが声を荒げた。
「おい貴様。ブリを呼べと言ったのも」
「あ、それは違う、天使はミカリンだけで」
先程まで真っ白だったミカリンが
今度は真っ赤になっている。
忙しいやつだ。
俺はブリに会う目的を説明した。
「名付・・・か」
「最近、機会が多くて」
「余計に分からん。ブリのセンスは最悪だ」
「いや、俺は評価する」
まぁ個人個人のセンスの相違だ。
意地を通すようなモノでもない。
「・・・そうなのか」
考え込んでいる。
思うにウルは「ウルポン」の呼ばれ方がお気に召さないのか
「じゃあウルポンならミカリンに
なんて、あだ名付ける?」
文句だけなら幼児でも言える。
貴様のセンスを見せて見ろ
「ミカのままで良いだろう
なぜ、あえて異なる呼称を
必要も無いのに新たに設置する」
発想そのものが無い。
ベアーマンパトロールも
湖の妖精キャスタリアも
そうだったが名付に関しては
何か大きな仕組みが隠れている気がした。
キャスタリアで思い出した。
「ミカリン」
「はい!」
なんだ
どうした
「盾返すチャンスじゃないか」
「あっ・・・うん・・そうだよね」
目が泳ぐミカリン。
さてはこいつ盾を気に入ったな。
返したく無くなっているだろう。
元々の剣術は
盾を使わない両手剣の剣術だが
今回は装備が満足に揃っていない事と
受肉による肉体強度の不安から
盾と片手剣による剣術で
ここまで来ているミカリンだ。
アルコの爪を弾いて間合いを詰めるなど
盾の使い方も結構、堂にいっていた。
やってみたら実は楽しかった系の
感じがプンプンしているのだ。
「盾・・・まさかガイアスシールドか?」
ウルポンいちいち大声で驚くのね
他に無いだろう。
「ああ、天界に戻したい物なんだろ」
「それはそうだが・・・困った」
「なにが」
「渡されても今の俺では持って帰れない」
あー今は下級天使でしたね
ガイアスシールド自体が持っている
霊力みたいなのが大きすぎて
神や大天使でないと出し入れ出来ないんだっけ
「今のお前たちは受肉でレベルが上がるのだろう」
返事の変わりに頷く俺。
「ミカが持っているならそれでいい
レベルが上がればいずれゲートも
開くことが出来よう・・・人間に渡すなよ。」
「分かってるって」
返さなくて良い流れにご機嫌なミカリンは
明るく返事をした。
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