第21話 天使と初遭遇
「下級悪魔(レッサーデーモン)だ。ダッセー」
俺を指さして笑うミカリン。
俺はステータスの状態を
確認すると確かに下級悪魔になっている。
すかさずフリックして項目を動かすと人間状態に戻った。
感覚を掴めば魔法と同じように
メニューを開かず実行出来そうだ。
とにかく今は人に見られるのを避けたい。
俺は振り向いて、背後の丸太小屋から
アルコとボーシスが目撃していないか確認した。
家政婦でも無い限り
そうそう都合良く見られはしないと思うが・・・・
念の為に小走りで小屋に戻り中を覗くと
二人は俺達が出た時と同じ姿勢で寝息を立てていた。
「何?内緒なの」
一連の俺の行動を見たミカリンが首を傾げて言った。
「説明が面倒だ。喜ばしい事じゃないしな
内緒にしておけ」
「もしかして僕も?」
「そうだ。これは命令だ」
「はーい、ていうか僕は変身まだ?」
それも含めてちょっと実験だ。
俺達は少し離れて小屋からは死角になる場所まで移動した。
ミカリンの項目はフリックしても変化しなかった。
レベルは20だ。
俺と同程度だとすると今から30までの間で
開放されると思われる。
そうミカリンに説明した。
「今度バング出たら僕にやらせてね」
「出来るのか?ワナワナ震えていたクセに」
頬を膨らませて怒るミカリン。
ちょっと可愛い。
「つ・・・次は大丈夫だよ!!」
「そうか、ただ期待するなよ」
ベアーマンとブンドンの村の話から
想定するに遭遇率はかなり低い
そのせいでブンドンは情報に飢えている。
いたずらに吹聴してパニックを起こすのも
本意では無いのだろう。
情報が欲しいが大っぴらに動けない
そんなもどかしさを感じた。
さて
性能チェックだ。
俺はわくわくして
久しぶりの悪魔ボディを確かめよう。
・・・・ワクワクを返せ。
性能は残念の一言だ。
まぁ前回の俺はハイエンド悪魔だったのだ。
それに比べるのもおこがましい性能なのは察して知るべしで
現にそう思ってはいたのだが、ここまで頼り無いとは
ガッカリだ。
思えばヨハンに集団で襲い掛かって
全て返り討ちにされていたっけなぁ。
流石レッサー
名前からして下等なのだ・・・。
それはもう冴えなくてもしょうがない
かとうだけに。
まず肉体の強度だが
陶器程度かなぁ
転んで擦り剥きはしないが
アルコの正拳で粉砕されるレベルだ。
防具装備できるならした方が良い。
魔法は神由来の僧侶系は一切使えない。
使われれば逆にダメージが入りそうだ。
精霊由来と魔界由来は使用が可能で
魔界由来、いわゆる暗黒魔法・黒魔法は
人間より効果が高かった。
武器装備による恩恵は同様
ただ僧侶専用の杖などは手に持てるが
装備した事にならず、当然補正効果も入らなかった。
まぁ唱えられないので持つ事は無いのだが色々試さないとな。
感知能力に関しては
お待ちかねのデビルアイと膝カックン耐性が
獲得出来たが、これもレッサーなので
頼り無い事この上ない。
結論として敢えて変身するメリットはほとんど無い。
攻撃においては
人間状態の魔法使いの方が馴れもあるが強いだろう。
防御に関しては
一部の毒・麻痺などは無効化出来るし
肉体も頑丈だ。出血死も無い
血が無いからな。
誰も見ていなければ悪魔で
攻撃を受けるのは有りだ。
ただ
唯一にして最大の効果は戦闘以外だ。
飛べる。
別に、この星の一等賞になる気は無いが
アイ・キャン・フライだ。
性能はヒドイもんだが飛べる事は大きい。
高度限界は100m以下だ。
最大速度は馬程度かな
腕の立つアーチャーなら
簡単に撃ち落とせるレベルだ。
一連のテストを付き合ってくれた
ミカリンはバッサリ言って来た。
「弱いよね。」
「うん」
言うな
分かってる。
収穫には違いないが結構ガッカリだ。
しかーし
ここからだ。
前回もそうだったが
人の外見を維持しながら
悪魔の能力をどこまで再現出来るか。
前回の感触を知っている俺ならば
開発が可能だと信じていた。
「僕も早く天使になりたいな」
そう言いながら月明かりの下で
クルクル踊るミカリン。
なんのギャルゲーのキャッチフレーズだ
中々絵になってるのがムカつく
美形ってやっぱりズルい
それだけで価値が存在する。
その月とミカリンの間を、ほのかな光の
粒を引きながら飛翔するモノがあった。
ミカリンが踊っていなければ
それを鑑賞していなければ
気が付かないレベルの光の小ささだ。
俺は悪魔化して廉価デビルアイで注視した。
その飛翔体は
人型で背中からカワイイ翼が一対二枚。
頭の上には光る輪っかが見えた。
「あれ・・・天使じゃね」
俺はその物体が飛んでいる辺りを
指差しミカリンにも確認を求めた。
ミカリンは慌てるワケでもなく
普通に見上げて普通に言った。
「うん。そうだね」
天使は空中で停止し
何やら辺りを探っている様子だ。
「もしかして俺を探してるとか」
今、俺は下級悪魔だ。
天使の仕事の一環に
悪魔退治がデフォルトなんじゃないのか。
「うん。そうじゃないかな」
慌てて人間状態に戻る俺。
まだこの体を使いこなせる程、慣らしていない。
悪魔の反応が消失した事に驚いているのか
天使はやたらキョロキョロしている。
素早く動くと目立つので
俺達は座っていた岩をの陰に
そーっと隠れた。
「それにしても・・・」
「何?」
「あいつウルポンに似てね」
ウルは最上位の四大天使だ。
翼も12枚もあるはずなので
見間違えるハズが無い
しかし
空中の下級天使はウルに酷似している。
「量産型の顔なのか」
言っちゃあ悪いがウルは悪人ヅラだ。
裁きも司っているので
甘い顔は出来ないのだろうが
それにしても人相が悪い方だ。
俺の問いかけに答えるべく
ミカリンは天使を注視していた。
「・・・似てるも何もウルじゃないかな」
「・・・下級天使だぞ」
「自分だって今下級じゃない」
はい
野菜の星の王子に「下級戦士が」と罵られるレベルです。
「グレードダウン出来るのか」
「でないとゲートを通過出来ないよ」
所持している力が強大ゆえ降臨などの
特別な時でないと、こちら側に来ることが出来ないのだ。
「確認してみようか」
おいおい怖い事言うな
折角、隠れているのに
「いや、今の俺じゃ勝てないかも」
「僕が居れば大丈夫だよ。でも念のため
弱らせようかな・・・杖貸して」
杖
簡錫の事だよな。
俺は言われるがままにミカリンに杖を手渡す。
ミカリンは構えファイアーボールの呪文を詠唱した。
ミカリンのレベルも上がっている。
とびきりデカい火球が一直線に天使に向かって飛んでいく。
「どぉおうはっ!!」
火球の直撃を食らった天使は
さながらハンターに撃たれたカモの様に落下した。
それも燃えながら
「のおぉぉぉううがっがっ」
墜落した場所で引火した炎を消すべく
天使は転げまわっている。
バカだねー
そんなことしても消えないよ。
ファイアボールの呪文習得時に実験済みなのだ。
魔法の炎は定めた目標以外に引火しない。
そして命中すれば物理的手段では消えないのだ。
燃焼の為の酸素も大気由来では無い様だ。
水中でも発動する。
海底都市イベントがあっても使用可能なのだ。
この事が確認出来て
やっと安心して使える呪文だ。
もし引火するようなら
戦闘の度に山火事を引き起こしかねないし
洞窟系のダンジョンなどでは酸欠を
心配しなければならない。
自然現象の炎とは全く別なのだ。
なので転げまわっても消えない。
「ぉおぉぅう」
まだ転げまわっている。
効果切れで炎が消えそうだ。
時間的に余裕がありそうなので
俺はデスラーホールを唱えた。
「ふぅ・・・ふぉわぁあぁぁ・・・」
火が消えてホっとした瞬間に落下だ。
良いリアクションだ。
最近のお笑い芸人に足りない
体を張った笑いだ。
飛べばイイのに
咄嗟だとダメなのかも知れない。
「さーん・・・にー・・・」
ミカリンがタイミングを計っていた。
ふと見ると二発目のファイアーボールを準備していた。
まさか射出の瞬間に当てるつもりか
そんな事が狙って出来るのか
「ファイアー!!」
「ぉおっへっぶうううぅうぅぅ・・・」
すげぇ当てた
こいつニュータイプか
上昇する垂直のベクトルと
水平方向のファイアボールのベクトルが
合わさり斜めに飛んでいく天使。
また燃えながら落下した。
「調子イイなぁ」
三発目の準備に入るミカリン。
「話さなくてイイのか・・・。」
死んじゃうんじゃね
「そっか・・・普段のウルなら
こんなの蚊が差した程にもならないんだけど
あのね、昔ね
レイバーン当てた時はすんごい怒ったよ」
誰だって怒るわ
つかアレ食らって消し炭にならないのか
流石タンク役だ。
「今は下級なんだろ」
まぁ仮に死んでも強制的に天界に戻るだけか。
ん
じゃあ当てまくって経験値になってもらうのが一番じゃね。
俺はメニューを開いてみた。
おお
美味しいぞ。
ヒットだけでも結構な数字だ。
討伐したらどうなるんだろう。
ぶっ殺そう。
そう言いかけたが
ミカリンはコンタクトを取るべく
もう走って近寄って行ってしまった。
「おのれぇ!!」
立ち上がった天使は
俺達目掛け反撃の呪文を唱え始めた。
ん
この呪文・・・スパイクじゃないか。
「ミカリン。スパイクだ。光ったら退避」
走るミカリンのすぐ後ろの地面に
光る魔法陣が浮かび上がる。
だせぇ
タイミングちゃんと計れよ。
出来上がったスパイクは膝まで行かない。
しょぼい
俺は試しに蹴ってみたら
ボロボロに砕けた。
強度も最低だ。
なんてお粗末なんだ。
「おのれ避けるか」
驚いている天使。
いや避けるまでも無いだろ。
ピョンピョンとあっという間に距離を詰めるミカリン。
「ウルーおいっす」
「・・・誰だ?!」
やはりウルなのか
ミカリンに名を呼ばれて戸惑う様子を見せる天使。
「ファイアー」
そんな戦意を無くした相手に
無情の三発目を叩き込むミカリン。
しょうがない
俺はデスラホールの準備に入った。
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