第23話 サラリーマンエレジー

丁度良い、ウルのステータスが見たいので

俺は唐突に提案した。


「そうだ。ウルポンちょっとパーティ入ってよ」


「なんだパーティとは?」


俺はパーティと承認の説明した。


「お断りだ。人間風情の指揮下になど」


「入れぇ」


「不束者ですが宜しく御願い致します。クゥ」


断ろうとしたウルポンにすかさず

強制力を使用するミカリン。

ナイスだ。

どれどれ

天使で状態が下級天使

レベルは30固定か


「ミカリンも多分レベル30で天使化が開放されると思うぞ」


「今いくつなの」


そうかメニュー見れないんだっけな。

今度から上がる度に教えよう


「今20だ。」


バングなら昼間のやつ一匹

呪いのせいで俺に半分入るから

二匹か。

アルコには悪いがトドメはミカリンに優先させよう。


ウルと俺のステータスを

比べてみると、ほぼ同じ性能だった。

違いは弱点の属性が正反対なトコロぐらいだ。


ただ決定的に差があるのが魔法レベルだ。

先程のスパイクでも分かる通り

こいつ全然鍛えて無い。


「ウルポン、魔法全然鍛えて無いね」


そう言ったのだがウルはちっとも物怖じしない

聞いて見れば本来の姿、大天使の時なら

数段上の魔法を無詠唱で行使できるのだ。

練習などした事無いそうだ。

それもそうか

750ccのバイクに乗れるのに

三輪車の練習などしない

しかし甘い

今はその三輪車しか無いのだ。


ウルに提案して俺と二人で

スパイクの魔法を同時に詠唱した。

比べてみればウルも分かるであろう。

大きさ硬さ太さ

男の子には特に大事な問題だ。

どれも違いは歴然だった。


「同じでレベルで、こうも違うものなのか」


俺の作ったスパイクを触ったり叩いたり

しながら感嘆の声を上げるウル。


「本体のレベルとは別に魔法のレベルがあるのだ」


もの凄いマッチョメンに

使った事の無いヌンチャクを渡せば

最初の獲物は自分の後頭部だろう。


「今後も下級天使で行き来するなら鍛えた方が良いぞ」


これっきりなら意味無いがな。


「ぬぅ、鍛え方がわからぬ」


鍛えたがっている

行き来する予定なのね。

俺はウルに一通りレクチャーした。


教える

これは自らの成長にも大事な事だ。


まずは覚える。

覚えていない事は出来ないのだ。


覚えたらやってみる。

そうして出来る様になるのだが

キチンと理解出来ているかどうかは

実は怪しかったりする。


キチンと理解出来ていないと

他人に上手に教える事が出来ないのだ。


職場でもたまに見かける。

「なんとなく出来るようになる」

「背中を見て覚えろ」

「教えてもらうのでは無く盗むモノだ」

と、言うような教え方をする先輩がいるが

これは本人がキチンと理解で来ていない可能性が高い。


未経験の者に効率的に教えるには

順序を整理し

分かりやすい例えを持ち出したり

例え体感的な事でもだ。

ゴルフのグリップの仕方で

雑巾を絞る様になどは秀逸な変換だ。


そして教えながら

どこまで理解出来ているのかを

推し量ってやらねばならない。


「教えたよね?」

「言ったよね。メモとってたでしょ」


などとイキる輩はコレをしていない。

言っただけで相手が理解出来たか確認していない。

客観的に判断すると教える気が無いのだ

育てる気が無いのだ

なぜするのか

対上司用の既成事実だ。

「私は教えました。あいつが無能なんです」

いざと言う時上司に

そう言う為だけに行っているのだ。


2が理解出来ていないのに

3をさっさと言って、

自分の役目は終わりという寸法だ。


そして教える才能と

プレイする才能は別なのが残念な所だ。

名選手は必ず名コーチになれる。

そうでは無いのだ。

逆もしかりだ。

選手時代はパッっとしなかった名監督や名コーチ

むしろそっちの方が多い位だ。


Mrジャイアンツ

長嶋茂雄は名選手だ。

異論は無いだろう。

だが

いざ教える側に回ってみれば


「ハッと来たボールをパーッと打つ!!

いい?ハッと来たボールをパーッと打つ!!」


分かるかっての

これだからB型は困るのだ。


「やれば出来るモノなのだな」


しばらくウルのコーチをして最初とは

格段に進歩したスパイクが出来る様になっていた。

いやいや

ウルポン、筋がいいぞ。

まぁ俺と同じ土属性だしな。


「礼を言おう。しかし何故、俺を強化するのだ」


教えるスキルそれをアップさせる

自分の為だけです

丁度良い実験台です。

とは、流石に言えない。

何て言おうか

迷っていると

ニヤリと笑みを浮かべるウルは

こう言った。


「まぁ貴様の事だ。いずれこの意味も分かるのだろう。」


なんか勝手に納得してくれたので

取り合えず俺もニヤリとだけしておいた。

魔法の訓練が終了したのを

見計らってミカリンが言って来た。


「そうだ。ウルはバングって知っている」


「・・・バングとは何だ」


俺は知り得る限りの情報を話したが

ウルは首を傾げるばかりだ。


「南の方に多く居るならば今回のラハが何か掴むかも知れん」


場所を分けて捜索と言っていた。

ドルワルド方面はラハが受け持ったのだ。


「人間界では異常といえる事態だ。

これが界記録の異常と関係するかは分からないけど」


俺はウルにそう言っておいた。

今はともかく

将来的に天界もバングを放置出来なくなる

俺はなんとなくそう予感しているのだ。


「ふむ、いずれにしろ貴重な情報だ。」


なんとなく帰る流れになっている様な気がしたので

そうなる前に俺はウルに尋ねた。


「ヴィータはどうなったか知っているか

罰とかヒドイ目に遭わされてはいないか」


いかん

さり気無くクールに聞くつもりだったが

ちょっと熱が入った感じになった。

気にし過ぎかな。


ウルはなんとも言えない表情で黙り

しばらく沈黙していたが

ようやく口を開いた。


「ミカ。強制しないのか」


俺への答えでは無く答えないウルになぜ強制力を

ミカリンが発動しないのか、その問いだった。


「主様の望みだからね。答えないようなら

もちろん使うよ。けど、僕もウルの反応が見たいな。」


ミカリンはそう言った。

ウルはフッと笑う。


「結果は同じなら言ってしまおう」


なんの様式美なのかは理解しかねるが

ウル的には協力者の立場になれない、

なりたくない理由があるのだろうか。


「その前に聞かせろ。なぜお前が

ヴィータ様の無事を心配するのだ

恨みなら逆に罰を期待するだろうに」


ウルの解釈では、あくまで俺は

聖刻によって強制的に支配されていたようだ。


「あいつはイイ奴だよ。

イイ奴が理不尽な酷い目に

遭わされてやしないか。

単純に心配だ。

今は何も助けてやれないが

今後の行動方針に関わる事だ。」


一瞬嬉しそうな表情になったウルだが

それが見間違いかと思える程

今度は暗く沈む。

おいおい

やめてくれ

まさか


「ふむ、今回の降臨でヴィータ様は

なんら罰を科されてはいない。」


それは良かったがウルの暗い表情は別に

理由があるハズだ。

俺は続く言葉を待つ

心臓がうるさい

受肉は不便だな。


「健康状態にも異常は無い

そういう意味では無事と言える」


まだ暗い表情だ。

罰無し

健康

これはOK

何がマズいんだ。


「お前が降臨の際、ヴィータ様と

どんなやり取りをしたのか

俺は知らないが・・・・・

ここからはちょっと覚悟して

聞いてくれ」


そんな関白宣言みたいな

前フリいいから

早く言ってよウルポン。

俺は返事の変わりに頷く。


「ヴィータ様は降臨の際の

出来事を全て覚えておられない」


重力系の魔法か

足元が揺らぐ

違う

眩暈ってやつか


「アモン!」


すかさずミカリンが俺を支える。

そんな大げさなと思ったが

それでも二人してオラオラ状態だ。

マジ倒れる寸前だったのか俺。


「ひとまず、座ろう」


「そだね。アモンほら」


ウルとミカリンに助けられながら

俺は岩に腰掛けさせられた。


「大袈裟だよ」


俺はそう言ったつもりだったんだが

声になっていなかった。


「・・・アモン」


ミカリンが本気で心配している。

今の俺はそんなにダメなのか


『大丈夫ですわ』


幻聴のババァルまで心配している。

久しぶりに聞こえた。

やっぱりヤバいですね俺。


俺はストレージから竹筒を

3つ取り出して目の前に置くと

1つを一気に飲み干す。


「ふーっ」


肺の中で引きこもりになっていた

空気を一気に外に出す。

横隔膜その他の呼吸・発声系

仕事しろ


「飲み物・・・という奴か」


既に1つはミカリンが飲み始め

残った1つを手に取り観察するウルはそう言った。

上位天使だった太郎ことカルエルは食事は

不要だが可能であった。

味が分かるかどうかしらんが

下級天使も飲める・・・と思う。


ちょっとおっかなびっくりな様子で

ウルは竹筒に口を当て

ゆっくりと飲み始めた。


「受肉ならば、喜びに感じるのだろうな」


全く感動無しだ。


「記憶が無い理由は分かるか」


俺は続きを聞いた。

ウルは安心した様子で返事をした。


「落ち着いたようだな。では」


ウルの話は少し長かった。

記憶を無くす理由が今、天界でいくつもの

派閥の抗争と無関係では無かったせいだ。


「降臨でヴィータ様は自らの命令では

無かったが結果的に大量の死者が

出る事になってしまった」


俺が反論を言うタイミングに

合わせて人差し指を唇に縦に当てるウル。

まぁ聞け

という意味だ。

俺は文句を飲み込む。


「これは豊穣を冠に抱く神にとって

致命的なダメージになる。」


そりゃ・・・そうだ。

豊穣って言いながら大虐殺した。

俺は血の気が引いて行くのが分かった。

座っていて良かった。


「神格そのものが破壊消失しても

おかしくない、これはユノ様の弁だ。

記憶を全て放棄することで崩壊を

免れた。これはイクスファス様の見立てだ」


「お医者様の神ね」


ミカリンが横から補足してくれた。


「体は無事・・・精神異常とかは起こしていないか」


「あくまでイクスファス様の見解だが

記憶が無い以外に異常は見受けられないそうだ。」


思わずため息が出る。

焦らせんなよ

最初に無事って言えや

・・・言ってたかゴメン。


「そうか。それなら良かった」


良かった。


「そんな理由で記憶を戻す方法

それ自体、考察するのも禁忌だ。」


どことなく申し訳なさそうなウルはそう言った。

俺が記憶を戻す事を要求してくるかもと予想したのだろう。


そんな事はイイ


「せっかく無事なんだ。

休養させてやってくれないか」


「言われるまでも無い

連日ユノ様とお茶会を楽しんでおられる」


そこで顎に手を当て

厳しい表情に変わるウル。


「ここからはミカに話す内容だ」


頷くミカ。


「神々が派閥に分かれて抗争中だ」


今回の降臨大虐殺

エグサスを代表とする肯定派

ユノを代表とする否定派

戦略神ミネバを代表とする

作戦自体は良いが豊穣神にやらせたのは悪手派

イクスファスを代表とする

終わった事より界記録異常に注力してくれ派


「滅茶苦茶だね」


ガックリ頷くウル。

これが宮仕えの苦労という奴だろうか


「誰の言う事が最優先なのか

ハッキリしてほしいものだ」


天使も愚痴るんだな。

サラリーマン川柳が頭に浮かぶ。


「早くしろ、そう言う事は 早く言え」


「それだ」

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