第18話 遭遇

「本当に先程は大変失礼を致しました」


もう何度目の謝罪だか数えておらん

ボーシスはまた頭を下げた。


「いえいえお気になさらず

何も聞かされていなければ

アルコが責任者に見えるのは

当たり前ですよ。」


この返事をまた繰り返す俺。


俺達は馬車に揺られている。

行ける所まではこれで移動だ。

もちろんブンドンの村の馬車だ。


ボーシスは書簡を預かっていた。

支部長からエルフの里長であるプラプリ宛てだ。


俺達が向かうなら是非一緒にという流れだ。

断る理由は無い。

戦力が多いに越した事は無い

本音を言えばクロードに来て欲しかった

トコロだがバング待機であまり村から

離れる事は出来ないそうだ。

俺が指揮官で構わないとの事だったので

ボーシスにはパーティに入る事を了承をしてもらった。


どれどれ

俺はメニューを開く


名前 :ボーシス・ドール

種族 :人間ヒューマン

性別 :♀

LV :30

クラス:ファイター

ジョブ:ランサー


俺らより上のレベルだが身体能力はアルコより劣った

これは種族的な差だろう、ただ槍術のスキルレベルが

30なので戦闘力はレベル通り

一番のアタッカーになってくれるだろう。

あの村でクロードに次ぐ実力者という

触れ込みは本当の様だ。


「その・・・動作には意味があるのですか」


メニュー画面を弄りまわしている俺の姿は傍目には

何も無い場所にひたすら指を動かしているだけに写る。

意味不明だろうな


「魔法の練習です。」


説明が面倒だし必要は無いので

そう言って誤魔化した。


「すいません。邪魔してしまいましたね」


「いえ邪魔では無いですよ」


能力は大体把握したので俺はメニューを閉じた。

向かい合わせで座っている

俺の正面のボーシスを改めて注視した。


身長は150cm位で

今の俺よりちょい高い位だ。

冒険者はもちろん一般の女性でも低い部類に入ってしまう。

そして低いだけでなく

細い、ちょっと心配になる位細い。

ステータスの数値を疑う

こんな細い腕であの戦力だせるのか


髪はショートボブで戦闘を

重視している事が窺える。

色はブラウン、瞳も同様だ。

目がちょい吊り目で

性格がキツそうに見えたが。

話してみると普通だった。

そして大事なスリーサイズだが

鎧で分かりません

早くデビルアイが使える様になりたい。


その時、脳内アラームが鳴った。

まだ、遠いな。


「ボーシスさん馬車を止める様に言って」


「え?!」


突然過ぎたか

固まってしまうボーシス。


「敵です。戦闘準備」


「えー鎧着た方がイイ?」


すっかりくつろいで全装備を外し部屋着に

なっていたミカリンが俺の掛け声で慌てる。

アルコは特別、装備は無いので

そのままだ。

・・・今度、何か着せよう


「間に合う。用心の為にも着てくれ」


ボーシスは固まったまま動こうとしないので

俺は御者席に移動しようとすると

それに気が付き

そこで慌ててボーシスは動いた。


「はい。言います言います。」


揺れる馬車の中で上手く鎧が装着出来ない

ミカリンはすったもんだしている。


「止まってから着ようか」


「そだねー」


さて、俺はどうするか

前衛3人だもんな、いつも通り魔法使いでいいか

俺はメニューから登録装備で一瞬で

魔法使いセットを装備した。


「いいなぁソレ」


羨ましがるミカリン。

ミカリンの操作も出来なくないのだが

ストレージに入ってしまうので俺が

居ないと現物すら出せなくなってしまうので

それは問題だ。

余裕が出来たら予備の装備で

登録してやるか。


馬車はゆっくりと減速していき

やがて停車した。


停車と同時にアルコは外に飛び出し

地面に耳を当てる様に這いつくばった。


馬車の揺れと騒音では

当然の事ながら感知が鈍る。


索敵はアルコに任せて

俺はミカリンの装備を手伝う

ボーシスも手伝ってくれた。


準備が終わり、俺達は外に出た。

アルコは道の先を見通す様に目を凝らしていた。


「マスター。何かこっち向かって・・・歩いて来てます」


ベアーマン

目が良いんだな

全く見えない

歩く

足の生えてる敵なんだな。

良かった土系魔法が通用しそうだ。

と言うか

その近づいてきている何かが

脳内センサー

危機感知の原因と決まったワケでは無いのだ。

俺は周囲の注意もする様に言った。


「他には・・・居ないね」


ミカリンがそう言った。


「念の為だよ。俺達の感知をすり抜ける

達人が潜んでいないとも限らない。」


こいつの感知能力は俺より上だ

ミカリンがそう言うなら間違いないのだが

威厳を保つ

それだけの為に俺はそう言った。


【俺達】と、さり気無く

俺も混ぜて置く事も忘れない。

あーもう膝カックン耐性も

早く使える様になりてー


やがて、そいつは俺にも視認出来る程に近づいて来た。


「な・・・なんですかアレは」


アルコが困惑していた。


そいつは

黒くて丸い体

首無しで細い手足が生えている。

関節の存在しない動き方だ。

プラプラと繋いでいないロープの様に手を揺らしていた。


俺は昔流行った散歩に連れていける

ヘリウムガスを入れた風船を連想した。


胸の辺りにだけ白くて丸い部分があり

目の様に穴・・・穴だよな。

それが空いている。


「噂をすればって奴だ。あれがバングだろ」


「バ・・ング?!」


アルコのビキニとブーツがすんごい膨れ上がっている。

恐怖に毛が逆立っているのだ。


パトロールに連れていけるレベルではない。

マイザーのセリフを思い出す。


話は聞いていたが遭遇するのは初めてなのだろう。

野生の勘とでも言うか本能的に恐怖を覚えている様だ。


ボーシスを見てみると構えている槍が小刻みに震えていた。

実戦を幾重にも積み、実力者の太鼓判を受け

このなかでレベルが一番高いのに、この有様だ。

まるで冒険初心者の初戦闘のようだ

事実こちらもアルコ同様バングは初見なのだろう。

一番最悪なのがミカリンだった。

これは予想外だ。

ミカリンは本来の自分を知っている。

今の脆弱な状態は仮のモノだと認識しているのだ。

だから

アルコやクロードに遅れを取っても

本気で悔しがったりはしない。

遊びの感覚なのだ。

本来の自分なら負けるワケ無い。

余裕の理由がコレだ。


俺も同じなので良く分かる。

幼稚園児の輪に入って

遊びに付き合っている感覚と

言えば分かりやすいだろうか。

そのミカリンが


「何?アレ何ねぇアモン!!」


俺の後ろに隠れ

しがみ付き

ブルブル震えている。


「だから、バングだろ」


「何なのアレ、おかしいよ

存在がおかしい有っちゃいけない!!

悪魔側だよね。あんなのは

天界人界には存在できないモノだもの

ねぇイジワルしないで教えてよ

何なのアレ!!」


狼狽えっぷりが笑える。

良い恐怖だ。

極上だ。

前回もこんなに美味い恐怖は味わっていない。

最高位天使の恐怖がここまで

美味いとは

ヤバい

あまりにも美味すぎで

恍惚としてしまう。

俺の身だって今ピンチなのに

あまりにもミカリンの

恐怖が美味すぎて

動きたくなくなっている。

この美味しさの前には

俺の表層意識などなんと薄っぺらい事か


「ねぇ!!」


ひと際大きい声になったミカリン。

激しく揺さぶられて自我を取り戻す俺。

どうなっていたんだ。

俺は


視力はこの中で一番下であろう俺でも

詳細が分かる距離までバングは迫って来ていた。


明らかに俺達を目指している。

不思議だがそれが分かる。


「ちょっと通りますよ」と俺達をスルーして

直進は絶対に無い

それが確信できる。

そこが怖い。

意志がある様に見えない。

話合い、その他で意思疎通は出来ないのに

こちらを襲う事は間違い無い

それがダイレクトに伝わって来るのだ。


例えるなら

俺達がホコリで

バングが全自動掃除機か。


そう機械的なのだ。

この中で唯一、恐怖のマントに包まれて

なお自我を失わないのは

俺が機械を知っているからだ。

不思議とそう納得出来た。


そう連想出来たのは

バングの外観にも原因があった。


仮面以外の黒い部分。

その輪郭が不安定なグラフィックの

様に所々モザイクになったりするのだ。

全体でもノイズが走り

垂直同期が取れていないのか

一瞬だけ上半身と下半身が横にズレたりしている。

これはTVゲームを知らないモノには恐怖だろう。


三人がこうなるのも仕方が無い。

さて

そうなると

これは俺が単独でやるしかないか

3人はとても戦闘出来る状態じゃない。


「ボーシス!馬車の向きを変えろ。

最悪の場合はブンドンまでアイツを連れて行く」


「はい!」


戦えと言われなくてホッとしたのか

馬車で逃げれば大丈夫だと分かったのか

動きはスムーズで落ち着きを取り戻したようだ。

ブンドンならクロードを始め

頼りがいのある仲間が大勢いるのだ。

初見の子供二人と獣人だけでは心細かったのだろう。

もしかしたら支部長から俺達を守れなどと

命令されていたのかも知れない。


暴れ始めたミカリンを

きつく抱きしめ、唇を重ねて黙らせた。


「アルコとミカリンはいつでも

馬車に乗れる位置で待機。

俺がやる。

魔法が効かなかったら逃げるぞ」


「はい!」


アルコの逆立った毛が収まる。

こっちもホッとしたようだ。

体を張って俺を守れ

そう言われればする気だったのだろう。

そこまでされる理由が分からないが

アルコにはその覚悟があるようだ。


大人しくなったミカリンの肩に手をのせ

自分でも気持ち悪い位、優しく言った。


「まかせろ」


「・・・うん」


泣いてるよ。

よっぽど怖いんだな。

ミカリンの頭を撫でてやると

俺は迫りくるバングへと

奴と同じようにゆっくりと歩いて進む。


急ぐ事は無い。

相手はこちらを認識しているのに走ってこない。


バングの移動速度は一定のようだ。



これは助かる。

この時間で必要なバフを掛ける。

今後の為にも色々調べてやろう。


投石の呪文で小石をいくつか飛ばしてやる。

石は命中したようだがバングは反応しない。


バングは避けない。


ダメージは入っていないようだ。

俺は続けて土壁を発生させる。

これには予想外の行動が起きた。


バングは進行方向を変え

壁を避けて進行したのだ。


「本当に自動掃除機みてえな奴だな」


えっちらおっちら歩いて来る。

闇落ちしたハンプティ・ダンプティ

そんな表現がピッタリかな

いかんいかん

馬鹿な事を考えている場合じゃない。

俺は取って置きの魔法陣「暴走陣」を張る。

足元に真っ赤な光を放つ魔法陣が

ゆっくりと回転する。

直径2m位だ。

この中で唱えた魔法は効果が上昇する。

移動や回避動作が求められる戦闘では

使えないが、今回は余裕がある。

最大値でぶつけてみよう。

移動速度と方向が安定しているのだ。

こんな好条件は無いだろう。


考え得る補助を全て駆使し

今の俺の最大限のスパイクを出す。


「食らいやがれ!スパアイック!!」


効果を上げる為、範囲も最低に絞った為

発動したスパイクは一本だけだった。

その一本はタイミングがドンピシャで

バングの股間から頭頂部を貫通すると

そのまま5m位伸びる。

一瞬でだ。

流石最大効果だ。


バングは貫通途中で持ち上がり

スパイクの中程にいて

手足をブラブラ動かしている。

俺は何故だか大阪万博を思い出していた。


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