第19話 バング戦初勝利

後ろで歓声が上がり

三人が駆け寄って来る気配を感じた。


「まだだ!まだ終わっていない」


俺はオセロットばりに声を張り上げ

それを制止した。


串刺しになり宙ぶらりんになったバング

ダンゴなら次男の位置だ。

そこでまだ手足を稼働させようとしている。

この動きは

雪にタイヤを取られスタックした車が

賢明にタイヤをスリップしている状態を連想させた。


生き物で無い事は間違い無い。

股間から頭頂部まで杭が貫通しているのに

絶命は愚か痛みすら感じていないのだ。


スパイクと接している部分から黒い煙状の

モノが漏れ出ている。

煙状と表現したのは煙では無さそうだからだ。

燃焼による煙とは違うと俺は見ていた。


煙なら上に登っていくものだが

バングの煙は放射状に広がり

離れる程、粒子が細かくなり

遂には視認出来なくなるのだ。


俺はゆっくりとバングに近づく

慎重にだ。

バングの動きに細心の注意を払う。


瞬間

バングの腕が鞭を振るうがごとく予備動作を行った。

咄嗟に後ろに飛びのく

その直後、俺の居た場所に

バングの腕が叩きつけられる。

激しい音と

身の丈程に舞い上がる土煙から

相当の威力があると推測された。


危ねぇ

下手すれば人体程度

真っ二つじゃねいかコレ


「生きてる?!」


聞きなれない声だ。

声の主はボーシスだろう

普段の落ち着いた声と違う緊迫した感じだ。


いや

生き物じゃないでしょ

まぁ

まだ動けるのか

そう言う意味ですよね。


およそ5m辺りから腕の鞭の射程であろう。

もしそれ以上の射程の攻撃があるなら

飛び退いた俺の着地に合わせて叩きこんでいるハズだ。


俺は鞭の跡にあと1m程度で止まり、

ストレージから弓矢を取り出すと射る。


弓のレベルは上げていないので

実戦では使えないお粗末さだが

これだけデカイ的にこの距離

さらに動かないのだ

流石に命中した。


矢は弾かれ

あらぬ方向に回転して落ちた。

おかしい

強度が変だ。

矢の弾かれ方からすると

バングの体表は恐ろしく硬い

そんな硬い物が鞭の様にしなるものか

腕や足は別の素材だろうか

見た目には違う素材とは思えない。

それよりも

胴体にスパイクはあっさりと刺さった。

これが納得いかない。


あの強度なら

刺さらずに弾かれ転倒するハズだ

それがアッサリと刺さった。


「うーん」


俺は弓をストレージにしまい

再び簡錫を装備すると

暴走陣には戻らず

その場でスパイクを唱えた。


複数のスパイクがバングまで届き刺さる。

やはり雪だるまの様に簡単に刺さる。

そして痛がる様子は

やはり見受けられない。


俺は続けて投石の呪文と唱える。

俺の周囲の小石はヒュンヒュン音を

立てバングに向かって飛び

弾かれる石、砕ける石、

強度によって結果は様々だが

一つとして貫通もめり込みもしなかった。


「うーん」


もっと色々試したかったが時間切れになった。

追加で刺さったスパイクのせいだろう

煙は刺さった箇所それぞれから吹き上げ

バングは見る見る小さくなって行った。


途中で千切れた腕は一瞬で煙化した

仮面のある本体から離れると維持できない。

そんな推測が成り立つ。


とうとう仮面が剥がれ落ち

それ以外は煙になった。


聞いたことの無いファンファーレが頭の中に響く

レベルアップ時の音楽の豪華版といった感じだった。


メニューを開いて見ると

レベルが21から30にジャンプアップしていた。

経験値、美味しい奴だ。


単独討伐と判定されたようで

仲間には増加は見られなかった。

その分、俺に大漁に入ったようだ。


勝った。

俺は無警戒に近づき

仮面を拾い上げて観察した。


軽い。

見た目通り

骨・・・が一番的確な表現でいいと思う。

目の部分の穴はやはり穴だった。


俺は普通に仮面を被った。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛」


俺は両手で自らの肩を掻き毟る動作をし苦しみ悶える。

からだを乗っ取られてしまったって設定の

もうお馴染みの藤原演技だ。


「キャーーーーーー」

「なんて事を」

「いやああああああ」


俺は良い感じに悲鳴を上げている

三人に振り返りバングの真似をしながら歩き

ゆっくりと迫る。

極上の恐怖が流れ込んで来る。

ああ、いいなぁ


「ぐ゛あ゛、く゛そ゛何゛て゛こ゛と゛だ゛」


俺は束の間だけ自我を取り戻した演技をして

続けて叫ぶ。


「俺゛を゛こ゛ろ゛せ゛俺゛が゛俺゛で゛有゛る゛内゛に゛」


「出来ません!!」


泣き叫ぶアルコ


「嫌だよアモン。こんなの嫌だよ」


狼狽えるミカリン。

うん、お前の悪感情が一番美味しい。


「こんな、事になるなんて!!!」


槍を構えるボーシス。

すごい殺気だ。

やべ、本気だ。

これはマジ殺される。


「なーんてな」


俺は仮面を外しおどけて見せた。

その瞬間

沈黙が訪れ

風の音と

遠くに流れる小川の音

滝かな、遠くて分からないや

悪感情が

火山の噴火の如く

長い沈黙を破って

悪感情が三人から溢れて来る。

この味は・・・怒りだ。

すんごい怖い形相になって三人が俺を睨んでいる。


これは

やっちまったのか・・・。

あ、やめて・・・・


日も落ちて来た事だし

御者には仮面を支部長に渡す様に頼み、

例の丸太小屋で一晩明かす事になった。

俺は今、食事の準備中だ。

罰として一人でだ。


滅茶苦茶怒られた。

ユーモアの無い連中だぜ。

罰って

俺の冗談は罪ですか。


まぁ試してみたい事があったので

食事の準備はいいですけどね。


薪は常備してある物で足りそうなので

アルコールを使って一瞬で着火させる。

芋焼酎なんだが、子供の体の俺には

美味しく感じなかったので

専ら蒸留して燃料や消毒用に使っていた。


キャスタリアの水筒から

常備してある鍋でお湯を沸かし

干した茸でダシを取る。

ストレージから生地を取り出すと

なんと発酵が進んでいない。


時間が進まないのか

だとしたら腐らないので有難い

次からは焼き立てをしまおう。


そこでスパイクリカオンの肉を思い出した。

取り出してみるとジュウジュウ音を立てている。

取り出す時、変なとこ掴んで火傷しそうになった。

肉はそのまま皿に乗せた。

アルコはこれだけでもイイ位だ。

これで機嫌を直して欲しい。


残り二人は暴力の嵐だったが

アルコは怒りながら泣くという芸を披露していた。


生地は発酵を待ってる時間は無いので

そのまま軽く焼く、食えなくは無いだろう。


「はいーお待たせ」


パンと言うよりピザ生地みたいになってしまったモノを各自に

真ん中に鍋ごと置き汁物は好きなだけ取らせるようにした。

アルコの目の前には肉を置いてやる。


「アルコだけずるい僕も食べたいよ」


俺は返事の変わりにストレージから

肉を今度はトングで火傷しないように

取り出すと皿に乗せミカリンの前に置いてやった。


「・・・・半分、誰か食べない?」


マンガでよく見る肉サイズだ。

ミカリンは食いしん坊だが大食漢では無い。


残ったら俺が食うと言おうと

思ったがボーシスが名乗り出た。


「是非、頂きたい」


草食系かと思ったが肉も食べるのですね。

まぁ先程のお仕置きは肉食獣のソレでしたしね。


全員で頂きますだ。

やはり食事は大勢だと美味いな。

こちら来る前の元の世界では残業で疲れて

作る気力も無くコンビニ弁当の日々だった。

どんな味だったっけな

思い出せないや。


ふと見るとミカリンが

俺を覗き込んでいた。


「なんだ」


「怒って無いよね?」


ああ、お仕置きか

お前の攻撃は呪いのせいで

触るぐらいしか出来ないので

全然、平気だった。

ガチで痛かったのはボーシスさんだけだ。


「怒ってはいないよ。俺が悪かったんだ」


どれだけ恐怖していたか体感して知っていたのに

からかう様な悪ふざけだ。

そう思っているからこそ無抵抗で蹴られまくったのだ。

ただ問題は


本人全く反省していないので


また機会があれば同様のギャグを絶対やる自信がある。

俺はそういう奴だ。


「最大の功労者に大変失礼を・・・。」


食事するのを止め

頭を下げ始めたボーシスさん。

んーじゃあ

なんであんなに蹴ったんですか。

でもガチで思い詰めている顔だ

極端な人だな。


「いえいえ、とても良い蹴りでした」


笑顔で答える俺を見て

ボーシスの感情が急変するのを察知した。

もしかしてドMと思われたか。

まぁ

いいか

女子相手ならMの方が良い

冗談でも暴力だ。

差別になるのかも知れないが

俺は女子には振るうより

振るわれる方を喜んで選ぼう・・・・

俺はMなのか

合ってるのか

後でメニューを開いて確認してみるか

そんな項目あったかな


ふと見るとアルコはもう肉を食い終わっていた。

もう一本食うかと聞くと頷いたので、追加してやる。


「聞いてはいましたし、先ほどの戦闘も

直で見ているのですが、やはり

スゴイですね魔法というのは・・・。」


ボーシスは目を丸くして

料理から今まで俺を凝視していた。


魔法はスゴイ


そうだ

話をしておかないとな。


「まだ、推測なんですけどね。」


食事が終わり各自が茶を飲み始めた所で

俺は話しを始めた。


「な・・・なんですかこのお茶は」


ジャムを混ぜたロシアンティーもどきに声を上げるボーシス。


「あ、お口に合いませんか」


喜んで飲んでいた。

ジゼルさんと同じパターンか。

直ぐに二杯目を入れる事になった。


「で、なんの推測?」


ミカリンのツッコミだ。

全部俺か

忙しいぞ。

茶ぐらい入れてくれよ。


「バングなんだが・・・・。」


ベアーマンパトロール2組で苦戦した。

1体とは言えレベル20程度のガキ一人で討伐はおかしい。

それが可能だった理由だ。

俺はそれを話した。


「魔法?」


三人が同じセリフで聞き返してきた。

俺は頷き推測の根拠を説明した。


弾かれた矢はバングの防御の高さを証明している。

投石に関しては、飛ばすまでが魔法で

飛んでくる石自体はただの石ころ、物理だ。

なのでこれも効かなかった。


スパイクは魔力を含んだ物体で

効果が切れれば元になった素材の姿、

石や砂に戻る。

棘の形態の時は魔力を含んでいる。

これはいとも簡単に刺さり。

刺さっている限り

動きを封じる事とダメージを与え続ける

両得な魔法だった。


俺は自分の適正が土だと知った時

ガッカリしたが、対バングに限っては

この上無い有効だったのだ。


火や雷でもダメージは入ったかも

知れないが、接近を止められたかどうかは非常に怪しい。

接近されれば、あの腕鞭が飛んでくるのだ。


仮面から、離れた体は煙化した。

物理でだけで倒すにはあの防御を凌ぐ

切断系で小さく削っていくか

あるいは

時間切れで試せなかったが

仮面そのものを破壊するかだ。

確かマイザーはそれで倒していた。


次に遭遇した時は直に仮面を狙ってみよう。

それで倒せるなら

物理・魔法でも

それが最適解だ。

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