第17話 設立の目的
「どうしたのでしょうかクロードさんは・・・。」
アルコが不安気に言った。
俺の一言でクロードは血相を変え
半ば強引に協会まで俺達は連れてこられた。
受付の奥が関係者、職員の部屋になっており、
一番奥の部屋、支部長の部屋に押し込められた。
クロードは不在だった支部長を呼びに行っている。
俺はミカリンとアルコにクロードに
掛けたカマについて説明した。
アルコはポカーンとしているが
ミカリンは表情を変えた。
「じゃあ、この村の目的そのものが」
「以前の森なら、こんな戦力は過剰だよ」
以前と異なるモノ
それはバングしかない。
そこで扉が開き支部長がクロードを伴って入って来た。
「引き留めて済まない」
口と態度が一致していない支部長。
「いいえ、急ぐ旅でもありませんので」
俺は笑顔で答えた。
後でミカリンから聞いたが俺のこの作り笑いは
相当気持ち悪いそうだ。
挨拶もそこそこ
支部長は本題を切り出してきた。
「妙な魔物を見たそうだね」
こういうのは好きじゃない
自分の情報は出さずに相手から
都合良く欲しい情報だけ探るようなやり取りは
はっきり言って嫌いだ。
隠す程の情報は無い
俺はハッキリと言った。
「バングの事ですか」
そこで支部長は後ろに控えているクロードに振り返る。
クロードは首を横に振るアクションをした。
名前までも秘密なのか
「僕じゃなくて、この娘のいた
部族から聞いた話なんですが・・・。」
俺は正直に全部話した。
支部長とクロードは真剣に聞き入っていた。
笑いそうになる俺
もっと普通にしようよ。
「どうやって倒したんだ。」
なんだ
倒した事無いのか
「倒し方は聞いて無いですね・・・。」
俺は横に座るアルコを見やる。
アルコは察したようで俺の替わりに話し始めた。
「マスターの様な不思議な力は使っていません。
普通に爪での攻撃だと思います。」
普通と言ってもベアーマンの普通だ。
アルコの爪でも相当硬い
亜鉛や鈴ぐらいなら抉り取るのだ
ベアーマンのトップの戦士である
若頭ならもっと威力があるに違いない。
俺はアルコに爪を伸ばす様に言い
見せながら補足説明を入れて置く
その際にベアーマンについても説明しておいた。
「君、ベアーマンなのか!!」
「ウソだろ坊主。あいつらこんな人間っぽくないぜよ」
さっきから驚きっぱなしだな中年ども
心筋梗塞起こしてもしらん ぜよ。
更に追加でアルコが
突然変異種で通常のベアーマンとは異なる事も説明した。
俺ばっかり喋りっぱなしだぞ。
さて話すだけ話した。
今度はそっちの番だぞ。
「さて、今度はおじさん達の番だね。知っている事教えてよ」
わざと偉そうにふんぞり返る俺。
なんだこのガキ
と言う感じが支部長からヒシヒシと伝わってくる。
クロードの方はそうでもない
午前の魔法が効いているようだ。
「・・・・。」
どうすべきか迷っているようだ。
じゃ脅しだけ掛けて
それでもダメなら退散するだけだな。
「言えないの?じゃあいいよブンドンの村では何も
教えてくれなかったってプラプリに言うだけだ」
支部長の顔色が変わる。
「エルフの族長と知り合いなのか?!」
「嘘だろ坊主」
「ジゼルさんに会わなければ元々そっちに行く予定だったんだよ」
顎に手を当て
俺をじっと見る支部長。
「ちょっとだけ、待っていてくれ」
そう言うと支部長はクロードの肩を叩き
一緒に退出する事を促した。
「待つのはいいけど喉かわいたな」
部屋から出ていく二人に
俺はそう言った。
「何か出させよう」
そう言って二人は退室した。
二人が出るとアルコは長いため息をついた。
「緊張します。」
見た目は大人だがアルコはまだ10歳だ。
種族が違うとは言え大人二人が真顔になれば
やはり怖いのであろう。
俺も会社で新人の頃は緊張したっけな
大丈夫アルコすぐ慣れるよ
大した大人って、そんなにいないから
「大丈夫。俺に任せて置け」
わざと鷹揚に構えて再びふんぞり返る俺。
ふとミカリンを見るとウトウトしてやがる。
流石は天使長
人間なんぞどれも同じか
結構待った。
受付嬢が持ってきたお茶
それのお替りを飲み干した頃に
支部長だけ戻って来た。
「待たせて済まない」
最初と違って言葉と態度が一致している。
認めてくれたようだな
クロードも俺達が只者で無い事を口添えしたのかも知れない。
「バングの事だが・・・。」
支部長は他言無用と言う事でバングについて語り始めた。
最初の出現は降臨の直後
その時は寝ぼけていたんだろうと
誰も取り合わなかったそうだが
同様の報告と被害が相次いだ。
冒険者協会が本腰を上げる前に例の学園設立の
理由でベレンの本部に教会と政府が
協議を持ちかけて来た。
冒険者を志す者を無駄に死なせない。
才能のある者も同様
その為の教育機関
これは嘘では無かったが
隠された目的がもう一つあったのだ。
対バング用の部隊の設立
その人材発掘と教育だ。
「そんなに脅威なんですか」
確かに強いのだろうが
そこまで大袈裟に構えるか
ベアーマンでも倒せた相手だぞ。
「ああ、現にドワーフはそいつらのせいで国を追われた」
なんだって
「ドワーフの・・く・・に」
「ああ、本当の話だ」
深くゆっくり頷く支部長に
俺は申し訳なさそうに言った。
「なんて、あったんですか?」
ずっこける支部長とクロード。
態勢を立て直し、説明してくれた。
今いる大陸
エラシア大陸の中央に陣取る山脈
そこから西がバルバリス
東が炎で滅んだデスデバレイズ
で
その中央の山脈に連なって南側を
横に広い国土でバルバリスとデスデバレイズを
フタをする様に存在した国。
それがドワーフの国「ドルワルド」だ。
バルバリスは現在進行形で首都バリエアを復興中
その間、首都機能を代行しているのが
新たに聖都となったベレンだ。
冒険者協会本部も教会本部も
それと俺達の目指す学園もここにある。
国教を広めたいバルバリス帝国だったが
ドルワルドは無宗教のドワーフの国
人が侵略にくるなら迎え討つ構えを取り
長年膠着状態だったそうだ。
そんな理由で
ドルワルドと接する国境沿いの街
「ネルド」は半ば要塞と化し
聖騎士も多く滞在していた。
敵対ほどではないが友好国とはいいがたく
細々と鉱石や美術品それにまつわる職人などの
交流がある程度だったのだ。
確かに今ここブンドンの村にも
大勢ドワーフ族を見かけた。
前回はベレンでの冒険者協会で
だけしか見かけなっかった。
東の詳細は不明、
中央の山脈、あるいは東からなのか
バングが増えるそうだ。
山脈伝いにドルワルドになだれ込み
ドワーフ側が迎え討つも
一年程度で放棄せざるを得ない状況まで
追い詰められてしまう。
降臨後に結んだ不可侵条約が仇になり
逃げ場を失うドワーフだがネルドの独断で
要塞を開放しドワーフ達を受け入れる。
ここまで聞いて感心した。
そのネルドを取り仕切っている人物は
是非スカウトしたい。
条約は尊守されるべきだが
ハンコ押すまでの何か月で
一体
どれだけ被害が出るのか
超法規的措置
権力はこういう時に
こういう事に使うモノだ。
だから偉いのだ。
法律がーとか言って何もしないなら居ないのと同じだ。
人じゃなくて法律を書いた紙キレと同じだ。
「そのネルドを仕切っていた人は
罰せられたりしてないですよね」
思わず聞いてしまった。
もし罰している様なら
俺が
・・・・
何も出来ん
今はちんちくりんだ。
・・・・
パウルに言いつけてやる。
「どう・・・だったかな
処罰されたとは聞いていない」
自信なさ気な支部長。
ほっとする俺。
処罰するようなら今度は敵に回るからな
しかしベレン大丈夫なのか
バリエアの難民だっているのに
ドワーフの民、何人だかしらないが
相当数に違いない。
その辺を支部長に聞いて見ると
意外な返事だった。
非戦闘員のドワーフは頼りがいのある
建設要員だった。
バリエアの再興に多大な貢献を
してくれているそうだ。
それ以外にも優秀な鍛冶師であったり
細工師であったり
むしろ引っ張りだこになっているらしい
ここに常駐してるドワーフは
主に鍛冶師関係だそうだ。
戦士系は今もネルドで共同の防衛戦に
当たっている者が殆どだそうだ。
「じゃあ森より、そのネルドに
戦力を集中すべきでは・・・。」
「ネルドがどんな場所だか知っているかね」
知らん。
前回はベレンより南には行っていないのだ。
だからドワーフの国も知らんかった。
支部長は丁寧に教えてくれた。
雪と氷の高山地帯だそうだ
裸で寝過ごしても風邪をひかない
この辺りの気候になれた者が
行っても凍死するだけらしい
剣を研ごうとして刀身に手の皮がへばりつき
無理やり剥がして大量出血する者。
刀身と鞘の金属の材質の違いから
熱膨張の差が出来研ぐは愚か剣が抜けなくなってしまう者
金属の鋲つきブーツで行って足の指が壊死してしまった者
天は我々を見放したと
セリフの内容の割には元気一杯、叫ぶ者
などなど
問題だらけだったそうだ
山を舐めるな
そんな声が聞こえてきそうだ。
雪上戦は専用の訓練を積んだ者でないとな
「なるほどですね」
「そのせいで今はネルドの手前に
訓練所を兼ねた町が出来たよ。」
そうなると当初の疑問
ここの過剰戦力だが
それは支部長が続けて説明をしてくれた。
「ネルドほどの規模で無いのだがね・・・。」
この森でも発見報告が多数寄せられていたのだ。
現にベーマンパトロールが倒している。
山沿いに移動するバングが多いが
平地に下りて来るバングも少数いるようだ。
マイザーは、はぐれと呼んでいた。
南側と東側の二面方向から
バングの侵攻を想定しているのだ。
その時、扉がノックされた。
「準備出来たか・・・入りたまえ」
支部長の声に反応して扉が開く、
現れたのは小柄だがしっかりと装備を整えた
女性冒険者だ。
「失礼いたします。」
表情は硬い、無表情だ。
「このお姉さんは?」
支部長は椅子から立ち上がり彼女を紹介した。
「エルフの里へ彼女の同行を
お願いしたい。道案内も戦闘も出来る」
俺達も立ち上がり挨拶した。
ミカリンも慌てて起きる。
「ボーシスと申します。
よろしくお願いいたします」
ボーシスはアルコに向かって
丁寧に頭を下げた。
オロオロするアルコ。
まぁ
パッと見
アルコが保護者に見えるよね。
出展
天は我々を見放した 映画「八甲田山」のセリフ
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