第14話 ブンドンの村へ

呪文によって作成された棘は即時に魔力を失い

時間の経過で強度がだんだんと

落ちて行って最後は砂になる。

魔力の殆どが生成のみに消費される

一時的な結合なのだ。


俺はスパイクを靴の先で蹴ってみた。

クーンという鈍い音が響く

まだ強度はあるようだ。


スパイクの呪文レベルも上昇している。

レベル1の時は

くるぶし辺りまでの棘で

強度も軽石以下だった。

なんの効果も期待できないとガッカリだったが

今は胸の辺りまで棘は伸び金属並みに硬い。

この辺まで来ると

十分な威力を発揮してくれた。


特に今回の様な

四足歩行の魔物には致命傷が期待出来る。

飛行生物に効果が無いのは相変わらずだ。

これはどんなにレベルを上げても

同じだろうな。


「マスター。この魔物なんですが・・・」


アルコが話しかけて来た。

なんだろう


「ん」


俺は続きを促すと

アルコは恐ろしい事を言った。


「食べてもよろしいでしょうか」


「食えるのコレ?」


「はい。」


当然の事の様にあっさりと言ったアルコ。

なんでもベアーマンの部族でも

よく食されている獲物だそうだ。


「確かにメシ食ってないしな」


保存食は出来るだけ温存で入手出来た物を

優先して消費していくのは基本だ。


食ってみるか・・・。


解体作業に取り掛かるが

ジゼルお姉さんとミカリンは逃げた。


ジゼルお姉さんはまだしも

剣士のミカリンが何故逃げる。

散々切り裂いて返り血を浴び

慰める奴も居なくなる位

くれないに染まってるだろうが。


捕まえて問いただすと

勝負と料理は別だとか


バカヤロウ料理だって勝負だ。

ラーメン如きでだって

「一杯一杯が客との勝負」とか言って

頭にタオル巻いて、腕組みしてる

連中だっているんだぞ。

あいつらの台頭でやたら脂ぎっていれば

それでOK俺流みたいな風潮が出来上がって

ダシの風味もクソも無い

ゴテゴテしただけで千円も取るような

ラーメンが溢れかえっちまった。

勉強してない=俺流

ふざけるなって話だ。


話が反れた

嫌がるミカリンは仕方ないので薪集めを頼み

アルコと二人で血抜き、皮剥ぎ

臓物は廃棄、各部位にカット

そしてそこで

かぶり付こうとするアルコを止め

ベアーマン生食か・・・。

下味なんだが

どんな味か知らん

取り合えず塩と香辛料を振り焼き始めた。

最初なんで火は全部通す事にした

アルコ以外は耐性があるのか分からない。


「マスター・・・この匂いはニクですね」


程よく焼けて良い匂いがしてきた時

アルコがそう言った。

ずっこけそうになる俺。

やだ何言ってるのこの子は


聞いて見たトコロ

肉=部族で生で食っていたモノ

ニク=俺の所で食べさせてもらった新しいモノ

という認識だったそうだ。


「火を通すと、こんなに変わるんですね!」


俺の説明を聞き改めて驚いているアルコ。

そうだ、火を使う人類は偉大だろ。

焼きあがった順にみんなで頂いた。

うーん・・・不味くは無いな

俺の中では

猪モドキ>兎モドキ>これ>>>ハンスが捕まえた何か

の、順位になった。


全員、満腹になった。

今日は夕飯いらないかも

人間3人はモモだけで十分だった。

残りはアルコが信じられない量を食った。

お店には連れて行くには

資金を多めに持っていかないとな・・・。


それでも半分以上、残ってしまったが俺は焼き続けた。


「もう、食べられないんだけど」


ミカリンがポッコリしたお腹を抱えて言って来た。


「今、食うんじゃない」


今回はアイテムストレージが使えるのだ。

焼きあがる傍から、俺は放り込んでいく


「それも・・・魔法なの」


傍目には空間に消える様に見えている様だ。

ジゼルお姉さんが目を丸くして驚いていた。

説明が面倒なので、そうだと言っておいた。

ただこれ

いざ出した時どうなんだろう

腐ってたりしないかな・・・。

後、他の物の匂いが移ったりとか

うーんまぁ何でも試しだ。


俺の焼いている作業の横で

アルコがお茶を入れてくれた。


俺の作業が終わるまでは皆、のんびり休憩だ。

そうしている内に俺も作業が終わり、お茶タイムだ。


「マスター。皮はどうしますか」


「それかぁ」


お世辞にも質の良い毛皮とは言えない

すごく上手に剥げたので

勿体ない気持ちが湧くが

使い道が思い浮かばない。


「・・・みんなで被るか」


50cm感覚で4人縦に並び

スパイクリカオンの毛皮を

獅子舞いの様に被った。


なんか楽しい。


「ぉおおぐぉおう」


ミカリンもノリノリで吠え真似をしながら

誰が見ているわけでも無いのに

それで行進した。


「あ、着いたわ」


俺の後ろで最後尾、尻尾を担当してくれた

ジゼルお姉さんが、そう言った。

俺は毛皮に開けた覗き穴から

外を見てみた。


木材だが壁でしっかりと囲まれた村が見える。

四隅は塔の様に高くなっていて

見張りが駐在している。

その見張りが大声を上げた。


「まっ魔物だあああああああああ」


何?!どこだ

って

俺達か


大騒ぎになった。

矢がバンバン飛んできた。

慌てて毛皮から出る俺達。


アルコは脱いだ毛皮を振り回して

器用に矢を払った。


勘違いと分かってもらい

村へと入れてもらったが

こっぴどく怒られた。


「洒落にならないよ。ジゼルちゃん」


「すいません」


ブンドンの村

村というよりは砦の様相を呈していた。

狭く、農地なども見受けられない。

食料は採取か他の村から入れるようだ。

木製ではあるが全て外壁に

囲まれていて、建物は冒険者協会と、

それに付随する施設が主だ。

前線基地と言いたくなる。


「それで、この子達は?」


ジゼルお姉さんを叱りつけた中年がそう言った。

偉そうだと思ったが後で村長兼

冒険者協会ブンドン支部長だと知った。

偉いのか。


ジゼルお姉さんが事の経緯を説明してくれた。

その頃には、住民

というか冒険者軍団が

物珍し気に俺達を囲んでいた。


「で、この子は魔法が使えるんですよ」


ジゼルお姉さんが、俺をそう紹介した所で爆笑が沸き起こった。

まだ魔法使い=詐欺師の認識なのか


「ジゼルちゃん。バカ言っちゃいけねぇ」


「そうだよ。魔法なんて学校出の秀才しか使えないって」


俺は呪文を唱えると一番爆笑している

ドワーフのおっさんに話しかけた。


「そこの、ドワーフのおじさん。もう一歩前へ」


笑いながら自分を指さすドワーフ。

俺は頷いてお前だよと伝える。


「ここかい?」


笑いながらも俺の言う通りにしてくれた。


「うん。はいデスラーホール」


「ほぉあああぁぁぁ・・・」


おっさんは落とし穴に落ちた。

深いぞ

この呪文もレベルが上がってるのか


俺は心配になって穴を覗き込んだ。

ドワーフのおっさんは3m位地下に行ってしまった。

ケツを押えて悶えている。

大したダメージじゃないな。

俺は安心すると

同じ様に覗き込んでいるギャラリーに注意を促した。

戻りまで後2秒だ。


「危ないから離れて。アルコ

おっさんをキャッチしろ」


ドン

音を立てて地面が元通りになる。

その勢いでドワーフのおっさんは

すんごい高く放り上げられた。


「のんぉおおおああ」


「はい。マスター」


体積では倍以上にもなる

ドワーフをいとも簡単に受け止めるアルコ。


この世界のドワーフはデカい

小人がでかくなった感じだ。

手足顔などの比率はそのまま倍率だけ上げた様な恰好だ。


笑う者は居なくなった。

魔法使いと怪力大女ともう一人だ。

スパイクリカオン討伐も信じてくれた様だ。


さて

冒険者協会があるなら都合が良い

毛皮の換金ついでに冒険者登録してしまおう

身分と金銭

今の俺達に無いモノだ。


一番大きい建物が協会だ。

ベレンと違い酒場と宿泊は別の建物で

それぞれ皆、木造で平屋だ。


「申し訳ありませんが登録は出来ません」


「はぁ?何言ってんだ」


受付嬢ににべもなく断られた。

ベレンまで行かないとダメなのか。


「納品も受け付けられません」


「なん・・・だと?!」


俺はベレンを例に挙げ

粘ったが、取りつく島も無かった。

それどころか

この子は何を言っているんだ的な不審な顔付きだ。


「坊主。そりゃあ昔の制度だぜよ」


粘って交渉する俺の後ろから声がした。

声の主が入り口から入って来ると

周囲の冒険者から感嘆の声が漏れる。

振り返ると、一人の剣士が近づいて来た。

その男の首からペンダント状に加工された

冒険者のプレートは金色に輝いていた。


クロードだ。


「あなた。おかえりなさい」


クロードに気が付くと

俺と一緒にカウンター付近にいた

ジゼルお姉さんがそう言った。


「おぅただいま。ジゼル」


え?

クロード結婚したの?

おめでとうございます。

成長したな

俺も嬉しいよ。

つか

ジゼルお姉さん人妻か!!

危ねぇ!!!!

おっぱい揉まなくて良かった。

いけない

人妻はいけない

いけません


クロードは俺の直ぐ後ろまで来た。

俺は振り返って良く観察した。


前回より老けてすっかり中年だ。

顎髭を生やした様で

なかなか似合っていた。

良いマイナーチェンジだな。

そして俺はプレートの数字を見た。

・・・・3。


「まるで・・・成長していない」

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