第13話 戦闘、三半機関

森の様子が前回と異なる、森に切れ込みを

入れる具合に開墾されて街道が走る作りだ。


「ねぇジゼルさん。この辺りも

エルフの縄張りじゃないの?」


俺は気になったのでお姉さんに聞いた。

小屋での雑談で各自自己紹介は

終わっていた。


お姉さんの名前はジゼルだそうだ。


アルコが獣人という説明には驚いていたが、

獣人に驚いたというよりは人間で無かった事に

ビックリしていた様子だ。

俺もそうだったが

ケモノ耳以外はどうみても人間なのだ。


ジゼルは俺の問いに親切に答えてくれた。


「なんでも昔、悪魔の攻撃で隆盛を極めていた

エルフが全滅寸前になってね。」


それも俺のせいになっているのかよ。


「そのエルフの要請で人の村ができたのよ」


詳しく聞いて見ると湖側は他種族の侵攻を

押える為にベアーマンに依頼し

ベレン方面を含む里周辺の魔物の脅威に

対抗する為に人間の冒険者を利用したようだ。


確かに残りの人数では

魔物からの防衛もままならない。

カルエルも滞在しているかどうか不明だ。

仮にいたとしても所詮っは一人だ。

包囲攻撃されたら防ぎきれないだろう。


話をしながら歩いていると

脳内センサーが反応した。


「抜刀!!」


俺の掛け声で反射的に戦闘態勢に入るミカリンとアルコ。

うん、いいぞ。

良く訓練された子供達よ。


「ジゼルさんは俺の後ろへ」


そう言いながら俺は簡錫を背中から抜き取る。

その動作はミカリン直伝の三回転回しだ。

背面から正面に持って来る時

失敗すると太ももを強打してしまうが

上手くいった。

おーし

かっこいいぞう。


今まで歩いて来た道には敵はいない。

左側は開けていて

軽い斜面の先は小川。


隠れているとしたら右側の樹木群の中だ。


背後を取るメリットは無い。

道に飛び出してからバックアタックの

2ステップになってしまう。


1ステップ目で気づかれてしまい

折角の不意打ちチャンスが無駄に

なってしまうからだ。


襲うなら真横に来た時だ。

1ステップ目がダイレクトに初撃になる。


ここまで襲われなかった事から

今までの道中にはいないと確信出来る。


敵は必ずこの先の右側に隠れているのだ。


言うまでも無くミカリン達も分かっているようで

道左沿いにミカリンが前

道右沿いにアルコが

ミカリンより少し後ろ気味に立ち

斜めの隊形で慎重に進んでいく。


この斜めにはちゃんと意味がある。

ミカリンに襲い掛かる場合

敵はアルコ正面に横っ腹を晒す事になる。


アルコを襲う場合はミカリンは振り返れば容易に

容易に敵の背後を取れるのだ。


索敵の間に俺は二人に

防御強化などバフを掛けていく


バフとはまぁ

味方が味方に有利になる効果を付与する事だ。

反対に敵がこちらを不利にしてくる事は

デバフと呼ばれる。


20歩位進んだ所でミカリンが

わざとらしく左の小川の方を見た。


来るなコレ。


そう思った瞬間そいつは

右側の茂みから飛び掛かって来た。

体長2m~の四足歩行の魔物だ。

爪と牙でアルコに襲い掛かる。


アルコもミカリンに気が付いていた

襲撃と同じタイミングで

軽くバックステップでなんなく躱す。

あくまで軽くだ。

一足飛びに襲える辺りに居る。

攻撃を諦める程下がらない。

魔物のターゲットを自分に向ける為だ。


空振りになった初撃はそのまま着地の動作になった。


魔物は唸りながら再びアルコを

襲わんと体を捻りアルコを正対した。


「ほい」


ミカリンは初撃空振りのタイミングで

もうバックを取っていた。


軽く切り裂く

突き刺さない

突き刺して足を止める事が危険だからだ。


尻尾の中程から血が噴き出す。

魔物は痛みを感じた辺りを

振り向きざま前足でメクラ打ちするが

ミカリンは大きく距離を取る。

タゲが自分に移るか見ているのだ。


魔物は痛みを与えた相手が

一足飛びでは届かない場所に

いる事を確認し次の動作に迷った。

空振り自体に驚いている様にも見えた。


まぁどっちしても致命的だ。


「ツァアア!!」


アルコは普段は第一関節に収納されている

爪を伸ばし、魔物に襲い掛かる。


アルコの腕は見た目の太さ以上に筋力がある。

人間の筋肉とは質が違うようだ。

腕相撲では俺とミカリン二人掛かりでも

アルコのウィークハンドにすら勝負にならなかった。


爪もヤバい

固いのなんのって

冬場のプルタブは全部お願いしたい。


悲鳴を上げてアルコの攻撃から

逃れようともがき出す魔物。


俺はここで魔物の判別が出来た。

スパイクリカオンと呼ばれる犬系の魔物だ。

ライオンの鬣状に棘が顔の回りを覆っている。


ああ

もうダメだな。

二人がスパイクリカオンを蹂躙し始めた。


群れを成す時もあるが

今回は単独の様だ。

見捨てたのでなければ

もう出てこないといけない。


一見、蹂躙している様に見えるが

安全を最優先させて

踏み込みを浅くさせている分

攻撃力が落ちているせいだ。

時間が掛かっても死なない方がイイ

勝てない相手からの逃亡の際にも

踏み込みは浅いに越した事は無いからだ。


それに魔物の力は人の何倍もある

多少の優勢は一撃でひっくり返る事も珍しくないのだ。


ここで予想外の事態になった。


スパイクリカオンは脱兎のごとくアルコの横を

すり抜けると俺めがて猛進してきたのだ。


「スパイク勝負と行こうか」


突進してくる魔物のタイミングと

魔法の発動のタイミングを合わせて

俺はスパイクの呪文を発動させた。

ドンピシャで前半分部分に

突き刺さり、勢い余った後ろ半分は

しゃちほこの様に上に向くと

本のページが捲れる様に

スパイクリカオンは俺の目の前に倒れ込んだ。


ピクリとも動かない

見れば喉元、顎の下から

頭蓋まで、俺のスパイクが貫通していた。


「ごっめーん。」


「お見事です。マスター」


魔物のすぐ後ろまで二人は来ていた。

仮に俺の呪文が外れても

飛び込んでなんとかしてくれたろう。


俺は二人に手で問題無い事を合図すると後ろを振り返る。

ジゼルお姉さんは腰が抜けたのか地面にへたり込んでいた。


「大丈夫?」


肉体的ダメージがあるはずも無いので

俺は軽く聞きながらジゼルお姉さんに手を差し伸べた。


「・・・ま魔法なの?ゼータ君

魔法が使える人なの?」


言ってなかったな。


俺の手を取りフラフラと立ち上がるジゼルお姉さん。

ん、これは

このまま俺もよろけて

胸にダイブする

ラッキースケベチャンスじゃないか

フヒヒ

今だ


「あぁっ!!」


ちょっとわざとらしい声になったが

俺はよろけてジゼルお姉さんにダイブを試みた。


「おっと。しっかりしなよ」


ミカリンが俺をキャッチして見事に支えた。


一瞬

本当に一瞬だけだったが

あざ笑うような笑顔で俺を見た。

てめええええええ

よくもおおおおお


憤怒の感情を鉄の意志で抑え込むと

俺はミカリンに礼を言った。


「ありがとう。俺も腰が抜けたかな」


ふっ

まだチャンスはあるさ

見ていろ必ずや・・・・

・・・

俺は何と戦っているんだ。


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