第2話 名付が出来るぞ

右目と左目で見える位置を微調整してあるのだろう

その最小化バーは右肩口から正面に

30cm位離れて手が届くのが分かる。

俺はすかさずバーにタッチした。


ミョイン


そんな音を立ててメニュー画面が開いた。

やっとだ。


「ねぇ・・・何してんの?」


ミカが俺の一連の動作を挙動不審に思ったようだ。

まぁ案の定、傍から見れば間抜けだよな。

俺は目を開けた。

メニュー画面は半透明のまま背後の景色も見えた。

透明なセロハンに書かれたパンフでも

持っているような感覚だ。


「ふふ、貴様には分からぬか」


「アモンの頭がおかしいって事?」


呪い発動すんぞ。


「いや、メニュー画面を開く事に成功したんだよ」


思えば長い旅路だったな。


「・・・何にも見えないよ」


まぁそうだよな

他のプレイヤーがメニュー画面を

開いていても見えないもんな。


開き方をミカに説明したが

かつての俺やプリプラの様に

無様な状態になるだけだった。


やっぱりミカは

プレイヤーじゃないから、ある訳ないのか。


今回の俺はアモンボディじゃないから開けたのか?

でも純粋なプレイヤーはさっきログアウトしてしまったし

うーん

考えても分からん

とにかくメニューが開けたのは喜ばしい。


俺はミカにしばらく大人しくする様に

言って、岩に腰掛ける。


裸足なので、小石を踏まない様に注意し

腰掛ける岩の表面の状態も安全かどうか

良く見て置く、なにせ生尻だからな


まず目に行ったのが種族だ

どれどれ


名前:ゼータ・アモン

種族:悪魔人間(デビルマン)


人間じゃなかったー

そして以下に続く文字はと


レベル:1

状態ステイタス :人間ヒューマン

クラス:無

ジョブ:無


ふむふむ

毒とか麻痺とかの状態欄に人間となっている。

これを悪魔に変えればイイのだが弄れない項目だった。

特別なアイテムや一定のレベルが必要になるのかな


試しに先ほどミカが持っていた

木の枝を持ってみたが何も変わらなかった。

武器防具として認めないようだ。


パーティメンバーの項目があるな

触れると俺のメニュー画面の横に

色違い、もう少し黄緑っぽい色で

同じフォーマットが出た。


名前 :

種族 :天使

状態 :人間・奴隷


以下は似た様感じ

レベルも1だ。


これミカだよな。

名前の欄が空欄で点滅している。

これは俺が着けてイイってことか

空欄をタッチすると

キーボードが出た。

「ミカ」と入力したがエラーが出た。


「おい。お前の名前エラーになるぞ」


「エラー?ああ名付してくれるの

だったら多分その名前は真名になるから

この体専用の別のじゃないとダメじゃないかな」


「そうか・・・なんて名前がいいんだ」


「それは主様が決めることだよ」


「・・・そうか」


顎に手を当て候補を呟いた。


「ゲロシャブ・・・・トンヌラ・・・」


ミカが泣きそうな顔になってる。

うーん

良い悪感情だ。

続けたいが可哀想だ。


「あのさ。ブリっていたじゃん」


「・・・うん」


「あいつ同僚をさ、ウルポンとかラハッチって

呼んでたんだけど、お前は何て呼ばれてたの?」


「ミカリン」


すかさず入力する俺。


「み・・・か・・・り・・・んと」


慌てるミカ


「えー嘘。ちょまっ、あー何か

頭の上の方でピロローンとか聞こえた?!」


登録終了。


「よろしくなミカリン」


笑顔で言う俺。

ミカリンは何かウーとか唸ってる。


「名前・・・いいなぁ」


背後で声がした。

俺達以外の誰かだ。

今の俺には完全膝カックン耐性は無い

接近に気が付けない。

つか

背後は湖なんだが

流石に舟とかなら音で分かりそうなもんだが

何だ?


咄嗟に振り返ると

そこには綺麗なお姉さんが居た。

ドレスと言うよりは適当に巻き付けたシーツを

アクセサリーで解けない様に固定した感じの出で立ちだ。

ちょっと扇情的だが真っ昼間な事と

人間で無い事が手伝ってエッチな気分にはならなかった。


なんで人間じゃないのかと言うと

服がまったく濡れていない

このお姉さんは湖から生えている。

変な表現だが

それが一番しっくりくる表現だ。


ニンフってやつか


ニンフは振り返った俺に驚いて少し後ずさった。

歩行では無い水平移動だ。

じゃなきゃムーンウォークの達人だ。


「え?私の声が聞こえるの?」


「ど定番のリアクションだ。

ここは見えないフリをして手探りついでに

おっぱいを掴んでしまおう」


「アモン、声に出てる」


呆れた声でミカリンに突っ込まれた。

ニンフも胸部を腕でガードしてしまった。

言葉が通じるので話をする事にした。


名前、固有名詞を羨ましがった

という事は名前は無いのであろう。

予想通り名は無く

自分の存在はこの湖そのものだそうだ。


「まぁ湖の妖精って事か」


「妖精・・・そう呼ばれる存在なのですね」


湖の妖精は疑問も持たずに妖精の概念を受け入れた。


「私にも名前を付けて頂けませんか」


妖精はそうお願いしてきた。


「自分で好きなの名乗ればイイだろう」


俺がそう言ったら妖精は酷く落ち込んだ。

見かねたミカリンが、この世界における

名付の意味や重要さを説明してきた。


他者に認識され

他と区別される特別な称号だそうで

個という特別な存在になれる。

有る無しでは存在の力が大きく異なるそうだ。

尚、自分で自分に付けても

上記に該当しないので効果は出ない。


ゴッドファーザー

名付け親、名を持つ者から認められる事に意味があるそうだ。


名無し同士では何も始まらないのは

某巨大掲示板と同じか


ホント口だけの連中だからな


そこで思い出した。

自分の事だ。

ゼータ

これはババァルが付けてくれたんだっけ

時間停止成功の秘密が案外この名付だったりして


ともかく、そのお陰で俺は

ミカリンにも名を与える事が出来たわけだ


湖の妖精にも名前を付けてやるか

どっかのスライムと違って

MPが減る様子も無いしな


「よし、名を与えようじゃないか」


「本当ですか」


輝くような笑顔で立ち直る湖の妖精。


「ただし、この俺に湖の妖精と

認めさせてみろ。それが条件だ」


「どうしたら認めて頂けるのですか」


そんな事も分からんのか


「あのなぁ湖の妖精だったらさ

エクスカリバーとか金の斧とか

キレイな〇ャイアンとか持って来るモンだぞ」


それは女神だったかな・・・


「底に沈んでいる人工物でよろしいのでしょうか」


意外に理解が速いな

俺の説明の方が頭悪そうだ。

それでいいと俺が言うと

妖精は急いで湖に潜って行った。

ミカリンが少し呆れている。


「あのさぁケチ臭くない?」


「お前をいつまでもそんな恰好で

いさせる気は無い・・・まぁ俺自身もだが」


2話になるのに、いまだ全裸だ。


「・・・・。あそうななんだだ」


俺の適当なでっち上げを真に受けてしまった

ミカリンは目を大きく見開き

頬を赤くして慌てた。


でっち上げじゃないな

本当に何か着たい。

言葉通り二人とも何か身に着けよう。

布・革・金属

今の俺達が森をどんなに散策しても入手出来ないだろう。

これらを期待するぞ妖精。


程なくして妖精は

直径50cmの円盤を持ってきた。

すんげえ苔生えてるが

妖精曰く

落ちて来た人工物では一番新しい物だそうだ。

受け取って断りをいれてから

湖で汚れや苔を落とすと

見覚えのあるラウンドシールドが姿を現す。


早速、俺は左腕で構えてみた。

全裸に丸盾のみ

これ何て言うアキラ100%なの

ジョブがお笑い芸人になったりしてないか


「ガガッガガ大地の盾

じゃないかあああああああ」


構えた俺を見て絶叫するミカ。


大地(ガイアスシールド)の盾

四大天使 裁と地のウルの専用装備

前回の降臨の際ドロップしたが

聖属性で使い道が無かったため

宇宙空間で成層圏に向けてフリスビーした

弾かれて宇宙を彷徨うかと思っていたのだが

中途半端な軌道周回に入り

引力圏に捕まって燃え尽きず

落下してきたってところか


「こんなモノでゴメンなさい」


価値が分かっていないので謝る妖精

いや、この盾はエンドコンテンツでしか

入手出来ないような盾だから

レベル1が全裸で装備して良いモノじゃないな


メニューを開いて装備を確認すると

驚く事に装備自体は成功していた。

ただ・・・

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