第9話 つくって演じてガガガガガ~!! 畜生課員は大忙し - 2

 


 演劇が終わり、ぞろぞろと劇場をあとにする職員たち。



「………めっちゃ怖かったね、鉞係長。。」

「いや、今日はまだよかったんじゃね? 前のウツボとタコの演目まじやばかったからな。。」

「担当者5mくらい吹っ飛んでたからね……私ももっとちゃんと自分の担当してる生物を観察しなくっちゃ!!」

「……明日、俺の担当だわ……」

「………頑張って。それしか言えない……」






 ♦  ♦  ♦






「……はぁ、怖かった~~」



 まだ心臓がどきどきしている京子。今の日本でも――いや、現でもあのような暴力行為のある職場はないであろう。それほど衝撃的な場面に遭遇してしまった。そしてその人物が自分がこれから働くらしき建物内にいることへの絶望感があった。



「ささっ、次は畜生課の生産過程の工場に向かいますよ~~!!」



 別の省で働いている雪宮はあまり関りがないのか慣れているのか終始呑気なままである。職人のような人々が作業をしているスペースがあったり、劇場のようなスペースで生物の演劇をしたり、この畜生課という課は他よりも職員数が多いためその業務は非常に多岐にわたっているようである。






 ♦  ♦  ♦






 天空省20階。

 部屋を出て下の階にさらに下りていくと今度は大きな機械音が聞こえて来た。




『ががががががががが……』



 下の階に降りると大きな機会がたくさんある部屋にたどり着いた。大きな回転する機会、プレス機のようなもの、ベルトコンベアーらしき機械まで存在している。



「うわ~~~……すごい音――」

「え!? 何ですか??」



 京子の声は周囲の機械音に瞬く間にかき消された。 



「すっごい音ですね~~~~!!!!」



 雪宮に聞こえるようにもう一度、大きな声。



「もう~~~!! そりゃそうですって!!! ここは生物の生産場所なんですから!!! 念が使えればこんな大声出さなくていいのに~~!! 早く念習得してくださいよね~~~!! もうっ!!!」



 念。九品くほんとかいう章でのランクに応じて得られるスキルの1つ。話では確か中品中生で獲得できるスキル。しかし、今の京子は中品下生。雪宮との意思疎通には盛大なバカ声の使用が必須である。工場のような機械の先を進んでいくと人が現れた。



「ども!! お仕事お疲れ様です~~!! ちょっと天空省の新しい新任さんに工場内を見させてもらっていいですか?」

「えっ……あ、はいっ!! 大丈夫ですよ!! ただ、機会が稼働中なので巻き込まれないように動線からは出ないようにお願いしますね」

「はいっ!! ありがとうございます~~」



 職員と話をつけてもらい工場内を見学する。






 ♦  ♦  ♦






『すすすすすすす~~~~~』

『ガッチャン……ガッチャン……ガッチャン……』



 色々な形のものがベルトコンベアーのようなものを流れて行く。……が、どれもいろのついていない単色白色のものばかりでどれが何の生物なのかはよく分からなかった。



「なんか、欠け――」

「……………」



 無反応の畜生課職員。



「なんか欠けてますね~~~~~!!!」



 京子はコンベアーを流れていく同じようなパーツの中で1つだけ明らかに他と形が違うものを指さして大きなバカ声で再び言った。



「え? ……はいっ!! いっぱい作んないといけないんで、どうしても部分が欠けちゃったりしちゃうのが出てきちゃうんです~~!! でも、せっかく作ったものなんでどんな形であれしっかりと現へ送り出すのが俺たちの役目なんです!!! よく身体が不自由だと前世での行いがどうこうなんて言う話を聞いたことがあるかもしれませんが、全くそんなことなくどちらかと言うと俺たちのせいなんです!!! だから、そう言う生き物にはしっかり生きて戻って来た時にしっかりと優遇してあげるんです!!!」

「次の転生したい道とかどんな生物になりたいかとかですよね~~!!」



 補足してくる雪宮。



「はいっ!!! あと最近特に最近問題になってるのが外来種の増殖です!!! 現で人間が勝手に逃がしちゃった生き物が繁殖しちゃうんですけど、章のルールでは命あるものは平等なので畜生課で外来種のベースになる型も作るんですけどそれがなかなか手間で…ただでさえたくさんの生き物の型を作ったり生産しなくちゃいけないのに~~!! でも近々、議会で外来種を放流した人間の厳罰化が議論されるんです~~!! 現じゃ全然たいした罰も受けないのでこっちでたっぷり罰を与えられるようになるんですよ~~!!!」



 と、工場の職員は京子と雪宮に細かく説明をしてくれた。






 ♦  ♦  ♦






 機械の置かれている生産箇所を進んでいくと次第に機械音がしずかになり今度は机に向かって作業している人々が見えて来た。その場所と先ほどの京子たちがいた機械の間を台車を使ってせわしなく往復している人々もいる。どうやら先ほどの機械から出て来たものを運んでいるようであった。



「最後はここで塗装をして完成です!!」



 畜生課の職員に案内されると人々は筆のようなものを使って先ほど運ばれてきたものに色付けをしているようであった。



「あっ、工場長すみません!! ここの模様ちょっと変になっちゃいました!!」

「こ、こっちの猫ちゃんの模様もちょっとみんなと違くしちゃいました、すみません」

「馬、鹿、野、郎!! ……まぁ、これぐらいなら大丈夫だろ。早く運んどけよ!!」

「は~~い!!」



 その工場長の声に思わず驚く京子。その工場長の顔をよく見ると、先ほどの演劇会場でみた鉞係長であった。



「えっ!! ……あれってさっきのまさかり係長なんじゃ?」



 京子はこそっと雪宮に聞いた。



「あの人は鉞は鉞でもまさかり銅十郎どうじゅうろうさんです。畜生課は鉞3兄弟。金十郎、銀十郎、銅十郎の3係長で成り立ってるんです」

「えっ……じゃ、じゃあもう1人?」

「はいっ、最初に行った部署にも金十郎係長がいますよ。今日はいらっしゃらなかったですけ――」

「ややっ、雪宮君ではないか!!」



 雪宮の言葉を遮り京子たちに視線を向ける鉞。京子は慌てて視線をそらした。



「何か用事かね? ん?? そちらのお方は……お見かけしないお顔ですな??」



 が、見つかった。男は……まさかりはそう言って京子の方を見た。



「お疲れ様です、鉞係長。この人は新しく赴任してきた地獄課の課長の日下京子さんです。何とこの方は章ではなく現からいきなり地獄課の課長に昇進した珍しい経歴の方なんです!!」

「ややっ、な、なんと!」



 銀十郎への紹介を使いまわしする雪宮。それに銀十郎と一字の違いなく言葉を発する銅十郎。



「ひ……日下きょ、京子と申します。よ、よろしくお願いいたします」



 それにならって、同じく自己紹介を使いまわす京子。



「どうりでお見かけしたことのないはずですな!! 私はこの畜生課の製造部を担当する、ま~~さ~~か~~り~~~~~っあ!! 銅十郎です。以後お見知りおきを。ここでは生物の製造を任されている係長をしております。何卒宜しくお願い致します。それにしても現からいきなり課長とは……すごいですな~~がははっ!!」



 声が大きい。機械からは離れているので大きな声ではなくても聞こえているが。声が大きい。



「い、いえいえそんな……よろしくお願い――」

「銅は金と同じ~~~~~!!!」

「わわっ!! ………えっ、な、何ですか!? 急に」



 どこかで聞いたはずなのに……予想できたような気がするが、突然の大声に再びビビる京子。



「はいはいっ、銅は金と同じ~~!! ですね~~。同じ同じ……というわけで私たちはこれで失礼しますね~~。ささっ、行きますよ日下さん」



 今の謎の掛け声を適当に流す雪宮。



 想像よりはるかに大きな規模で生き物が作られていたことに感心しつつ、また想像をはるかに大きく上回るパワハラが行われている畜生課に恐怖を抱きつつ、京子は多岐にわたる業務で忙しそうな畜生課をあとにするのであった。


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