『虚魚《そらざかな》』 新名智

虚魚そらざかな』 新名智


 子供の時に両親を事故で亡くして以来、三咲は幽霊や怪談、呪いや超常現象といったものに頼って生きるようになった。現在、怪談師として活動する三咲は「呪いか祟りで死にたい」というカナちゃんと一緒に暮らしながら、「体験した人が死ぬ怪談」を探している。二人で本物の怪談を見つけ出し、その力で両親を事故死させた男を殺すのが三咲の目標なのだ。

 ある時、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にした三咲は、カナちゃんとともにその噂の真偽を調べだす。川の河口から調査を始めた二人は、怪談や噂がとある川沿いに発生していることに気づく。その川の上流が発生源だとつきとめた二人は現地へ向かうが、その過程でお互いの関係も変化してゆく。



 百合とホラーは相性がいい、その説に異論を唱える人はいないであろう。──少なくとも百合ものを好む人なら頷く人も多いのではないかと。百に合は特に関心がないホラー愛好家の人からは異論が出るかもしれないが。なぜ相性がいい(もしくは相性がいいとされている)のかについては詳しい人に任せる。なんかこう、少女漫画とホラーの関係だとか、ジェンダー的な理由が少なからず関わっているような気はする。

 そんなこんなで、怪談師なる胡乱な職に就く女性が主人公の、現代を舞台にした百合ホラーである。

 

 怖い話やホラーの類は嫌いなわけではない。しかし、最近ホラー界隈では主流らしい実話怪談やモキュメンタリ―ホラーの類に対しては、実はあまりよくわからない印象を抱いている。

 お化けや悪霊やらモンスターが出てくるフィクションは怖いけど楽しいし、信憑性がありそうなものからライターが適当にでっちあげたようなものまで玉石混交な「こわいはなし」の本を子供の時によく読んでは夜に寝られなくなったことも、今となっては楽しい思い出として記憶している。なので自分は怖い話が好きな人間なのであるという自認で長年生きていたが、実はそうではないのではないか? と最近になって疑いが生じてきた。

 どうも実話怪談とかモキュメンタリーになるとあまり興味がもてなくなるのだ。小学生が放課後に共有しあっているような話をいかにクオリティー高く語られた所で、生理的に気持ち悪くなることはあっても、「ただの作り話をこれほどまでに本当にあったことらしく語るとは、まさに技術と研鑽の極み……!」みたいな気分になるだけで全然怖くないしあまり楽しくもないからである。こっちは怖いのを楽しむ気持ちで怖い話を求めているのだ、バトル料理マンガに出てくる審査員のジジイみたいになるためではないのである。もっとこう、スリルとショックとサスペンスとか、お化けとかモンスターとか不気味さとか不快感とか怨念とか憎悪とか不条理で怖がらせてほしい。もう一つ付け加えると、実話系の怪談やネットロアって地域蔑視が露骨に出ているものが多いのも気になっている。


 そんなわけで、主人公の怪談師という職業もよくわからないというのが本音だし、登場人物には彼女らなり必死さや必然性があることはわかっても「ふーん、そう」という距離感で読み進めていた。怪談の発生源をたどる調査も、怪談にするより民俗学の論文にしたらどうだい? という気持ちも無いではなかった。魚の怪談やカナちゃんが呪いや祟りで死にたがる理由、二人を追ってくる不気味な影など謎やサスペンスがちりばめられているので、ドキドキハラハラするしたまま最後まで読み終えられるのでエンターテイメント性としては満足度が高い一冊ではあるのだけど。

 実話怪談やモキュメンタリーホラー作品と並んで「ホラーとは、怪談とはなんだろう……?」という疑問をつきつけられた小説のうち一つとなったが、それはそれとして三咲とカナちゃんという、大きなトラウマを抱え射ている二人の女性に関する話としては非常によいものであった。やっぱり百合とホラーは相性はいいなという確信を得た一冊であった。


(百合部分がよかったのなら、そここそをねっちり感想に書くべきではないのか? 最近のホラーに対する不満ではなく……とここまで書いてから気が付いたけれど、もう疲れたので「よかったものはよかった」で締めさせていただく)。

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