『愛は時間がかかる』 植本一子

『愛は時間がかかる』 植本一子


 写真家で、家族やパートナーについての日記を公開されている植本一子さんの四年ぶりの新刊。

 三カ月にわたるトラウマ治療について、そして、お子さんや現在のパートナーさんとの生活についてが語られるエッセイ集。



 二〇一六年に刊行された『かなわない』以降、なるべく追うようにしている植本一子さんの本の最新版。前の本からは四年ぶりの刊行になるらしい。

 昔の本ではまだまだ小さかったお子さんたちが、もう小学生の高学年になられているようで「まあまあ大きくなって……」と親戚のおばちゃんみたいな感覚になってしまう。


 自分の身の回りの書くことは、簡単そうにみえて非常に難しい。読ませる文章を書くということそのものが難しいが、どこからどこまでを書いたらいいのかを決めるのが大変難しいと日記を書く度に思う。こんな文章を書いてネタにした人は怒らないか? という不安もあれば、正直になにもかも書けば読んだ人からこいつバカだと思われる! バカ扱いされるならまだしも人間としてどうかしてるヤツとして読んだ方から怒られてしまう! という自己保身も働く。ああだこうだと日和った果てに毒にも薬にもならない文章を生産してしまう。そして自分の書きたかったことから遠ざかる。私はこれをやらかし勝ちである。文章を書いて公開している以上、恥をかくのは承知できるけど、ロクでもない奴として他人様から怒りを買ったり叱られたりするのは嫌だ。いい年齢して、私は人から怒られるのが嫌なのだ。怖いから。

 余計なリスクを背負いこみたくない意気地なしからみれば、植本さんの書くものは驚異的である。子育ての辛さや人生の伴侶への不満、親から十分な愛情をかけてもらえなかったことの哀しさや辛さ、怒り。読者からすると「そんなに依存して大丈夫?」と思わず不安になってしまうカウンセリングのことなどをほとんど生のままに記されているのである。ひょっとしたら本やwebの連載にするにあたって伏せていらっしゃることもあるのかもしれないけれど、単なる一読者からすると十分すぎるくらい暮らしのことがフルオープンなのだ。特に以前の本の中で、前のパートナーさんが大病を患って入退院を繰り返されていた時のことは「本人が一番苦しいのはわかるけれど、病人の臭いでこっちまで辛くなる。なるべく一緒にいたくない」みたいなことを書かれていたのには圧倒された。赤の他人に読まれる前提で、それを書く? 書ける? という驚愕の塊は胸のあたりに居座っているように思う。

「これを書いたら怒られる!」というみみっちさとは縁のなさそうでいて、それでいて、昭和生まれ昭和育ちの親御さんならそんなもんでしょ、的な親御さんの態度に「お母さんは私を愛してくれなかった!」と怒り続けるような繊細すぎるところ。それらがぐいぐい読ませる文章でつづられているのが、植本さんの書くものに惹かれる理由だと思う(他人の私生活を安全地帯からのぞき見した上であれこれ寸評したという、スケベ心も無いわけではないだろうけど)。


 本書というより、植本さんの本への思いを語ったような内容になってしまった。


 とはいえ、生活の苦しみと個人の辛さをここまで克明に綴った文章もそうそう無いと思う。誰に何といわれようが私はこれに苦しみ悩んでいるのだ! という内容に救われる人もいる筈だと信じているので、きになった方は植本さんの本を一冊手に取っていただきたい。子育て中の方に特におすすめです。


 

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