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『破果』 ク・ビョンモ

『破果』 ク・ビョンモ   小山内園子 訳


 女殺し屋の爪角チョガクは、この道四十五年のプロ。名を馳せていたこともあったが、老いからは逃げられない。体の衰えから以前ならしなかったミスを犯し、捨て犬を拾ってしまい、たまたま知り合った医師にらしくない関心を抱き、行きずりの老人をたすけてしまう。体も感情も制御できなくなりつつあることを、若くて生意気な同業者に揶揄される始末。引退を考えだす爪角チョガクの身辺で、彼女と接点を持った人々が襲われるという不可解な事件が起きる。それは彼女に何かと突っかかる若い同業者からの挑発であり、爪角チョガクは人生最後の死闘に進むことを決意する。



 韓国発、とにかくタフで強いババアが血みどろの戦いを繰り広げるアクションノワール。シンプルなストーリーに、爪角チョガクが殺し屋になった少女時代を語る朝鮮戦争時のエピソードが挟まれることによって、韓国の時代の変遷も語られる。本筋よりも少女時代パートが好きだった気がする。あと、作中で暗殺のことは「防疫」と呼ばれていることにカッコよさを覚えてしまった。


 非常に癖のある日本語に訳されており、慣れるまで時間がかかった。癖のある文体は原典からのもので、訳者あとがきによると、読み飛ばすのを防ぐために作者はあえて「読み易くしない」という方法をとっているとのこと。可読性に抵抗するという姿勢には思わず憧れを覚えた。


 中高年の強い女性が登場するフィクションを求める人、韓国の小説や近現代史に関心がある人は是非手に取ってもらいたい。


 そういえば最近(※本作を読んだのは二〇二三年十二月でこれを書いているのは二〇二四年十月後半)、本作の続編の日本語版が刊行されたというお知らせを見かけた気がする……。調べてみた所、爪角チョガクの殺し屋修業時代が書かれた前日譚のようだった。そちらもよんでおきたい。

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