『このぬくもりを君と呼ぶんだ』 悠木りん
『このぬくもりを君と呼ぶんだ』 悠木りん
地上に人が住めなくなった世界、人類は地下都市に生活の場を移している。偽りの空に太陽、かつて地上にあった文明や文化を模した街。何もかもがフェイクの地下都市で倦んでいる少女レニーは、サボリ魔の自称不良少女トーカと出会い、一緒の時間を過ごすようになる。トーカと二人でフェイクの街の中にあるリアルな『何か』を探すゲームに興じる時間は、レニーにとってかけがえのない時間だった。しかし学校で一人孤立しているトーカには秘密が多く、あることがきっかけでレニーに対して嘘を吐いたことが明らかになる。偽物を嫌うレニーはそれに大いにショックを受け、二人の間に距離が生じる。
その少し前、レニーは空から降ってきた赤く燃える小さな球体を手にする。それを『太陽の欠片』と名付けたレニーは、それに指を押し付けて火傷を作る自傷行為を重ねるようになる──。
ガガガ文庫のガールミーツガール青春百合ラノベ。第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作にして、作者のデビュー作。購入して数年ものあいだ積んでいたので読んでみた。
地上が荒れ果て、栄えていた文明の面影を再現した地下都市で暮らすことを嫌悪感を抱き、リアルなものを求めるレニーと、本当の自分を知られたくないトーカ。二人が互いを大切に思うが故にすれ違うという、思春期特有の繊細で脆くて非常にめんどくさい感じがよく書けていて、そこはよかった。SFとしては雰囲気のみに終わってしまったように感じたが、雰囲気SFは好物なので短所だとは思わない。
ただ、地下都市内での被差別階級出身のトーカが学校で被る嫌がらせを「いじめ」で片付けている所が、読んでいてどうしても気になった……。お前それ典型的なヘイトクライムだから、一人で悲しんでる場合じゃないよ! 理不尽には対抗しろ! もっと怒れ! 仲間を作れ! プロテストしろ! と心の中で訴えるめんどくさい読者になっていた……。そんな小説ではないのだが。でもSF部分のふんわりさに比べて階級を是とする地下都市の社会構造やマイノリティ描写がやや生々しいので、どうしても引っかかった次第である。
ともあれハッピーエンドだし、瑞々しい青春ものでもあるので、青春系の百合小説を読みたい方にはよい一冊だと思われる。
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