『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』  モニーク・フェロイ

『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』

 モニーク・フェロイ  岩瀬徳子 訳


 一九七六年、カリブ海に浮かぶブラックコンチ島の若い漁師であるデイヴィッドは、人魚のアイカイアに出会い惹かれるようになる。しかしアイカイアはアメリカ人の富豪親子が釣りあげてしまう。彼女を博物館に売り飛ばそうと目論む彼らの手から、デイヴィッドはアイカイアを盗みだし、自宅で匿う。するとアイカイアの下半身が魚のものから徐々に人間のものへと変わってゆく。

 アイカイアは元々は古代のブラックコンチ島で暮らしていた先住民の娘だったのだが、美しい姿と甘い歌声から女たちに呪われて人魚に姿を変えられ、千年もの長い時間を海の中で生きていた。デイヴィッドの献身や愛情、ブラックコンチ島の領主の庇護やその息子の友情の力により、アイカイアは回復してゆく。

 デイヴィッドとアイカイアは少しずつ心を通わせていくが、アメリカ人や彼らを手伝った島の住人たちは人魚を売り飛ばして得られる名誉や大金に心を奪われたままであり、またデイヴィッドに付き纏う女が二人の秘密を嗅ぎまわる。その上アイカイアにかけられた呪いはブラックコンチ島にハリケーンとなって襲いかかるのだった。


 カリブ海が舞台の人間と人魚のマジックリアリズムなロマンス小説。読んでた時期にちょうどディズニーの「リトルマーメイド」実写版が公開されていたけれど、便乗して刊行されたのではあるまいか。

 カリブ海が舞台の小説はあまり読んだことがないし、元々人間だった少女が呪いに人魚に変えられたという設定が魅力的だったので読んでみたのだけど、好みからすると異性愛ロマンス成分が濃すぎて胸やけした。

 あと、あまりにも「良いもん」と「悪もん」がきっちり分けられすぎているのと、そもそも少女が美しく魅力的だったが故に共同体の女たちから呪われて……という因果のなりたちがツラすぎて困った。

 逆にいえば、男女のロマンスや美しすぎるが故にいじめられてしまう可哀相な女の子が幸せになる話がお好きな方には大いに楽しめる小説だと思う。南国の寡黙で野性的なイケメンが可哀そうな人魚の女の子の呪いを解くラブストーリーという設定にキュンとした方は是非読まれたし。島唯一の白人である女性領主と黒人の流浪のアーティストという、人種や身分や経済格差をこえた大人のラブストーリーもあるよ。


 期待が大きかった分ガッカリ度合いも大きい本作だったけど、ヨーロッパから人がやってくるはるか前から植民地時代、現代までを語ったカリブ世界の様子は上手く語られていたと思う。この辺は勉強になった。


 

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