ライトノベル

『ステラ・ステップ』　林星悟

　隕石の飛来によって荒廃した世界、生き残った人々はそれぞれ国を築き、周辺国から領土や資源を奪いあうことで生き延びていた。国家間の争いを決める手段は暴力を伴う戦争ではなく、歌い踊る少女たち「アイドル」によるパフォーマンスの優劣に置き換えられるようになって久しい。

　砂漠に囲まれた「砂の国」に所属するアイドルのレインは、感情を失ったかのような言動とはうらはらに圧倒的な技術によって最強を誇るアイドルだが、ある日無名のアイドル・ハナに敗北してしまう。人型の兵器になる以前、人々に夢や希望を与える本来のアイドルになることを夢見るハナに、レインの胸にも徐々にある感情が生まれだすのだった。しかしアイドルには、本人たちには知らされていない過酷な運命が待ち受けていた。

　アイドルバトル百合ラノベ。最近二巻が出たらしい。

　己のパフォーマンスでどれだけ人々の心を震わせられるかを競うアイドルものの女児アニメの文脈に、「特殊能力持ち少女たちが繰り広げられる華麗なバトルの裏側には実は残酷な真実が……！」という、まどマギ以降のバトル系魔法少女文脈を掛け算したような世界が特徴だと思われる。

　アイドル系女児アニメは好きだし、少女たちが戦ったり戦わされたりする魔法少女ものもまあ好きだし、世界設定や雰囲気は嫌いではなかった。だけど正直、面白かったかどうかを問われると……うーん、どうだろう。とりあえずアイドルが主なテーマなのに、肝心のパフォーマンスのすごさがイマイチ伝わってこないのが致命的だった。文字のみで歌や踊りのすごさを表すことは思っている以上に難しいのだろうけども、もうちょっとこう……なんとかならなかったものか。

　パフォーマンスのすごさがイマイチ伝わらない所と、「機械のような圧倒的パフォーマンスで周囲を圧倒するアイドルは、拙いながらも楽しそうなパフォーマンスで観客を魅了する原石系アイドルには勝てない」というアイドル系女児アニメの定石に沿ったストーリーが、あまりよくない化学変化を起こしていたように思う。

　二人の少女が感情を通わせる様子だけにしぼればなかなか心打つものがあったし、アイドルに待ち受ける過酷な運命などもいい味を出していたり、要素要素は面白いのに上手く噛み合っていないような印象を受けた。アイドルものとバトル系魔法少女ものを融合させてみた意欲は買うけど、両者の良いとこ取りは難しいんだな。

　そういえば以前、バトル系魔法少女もの文脈に沿ったファンタジー百合ラノベ（こちらです。https://kakuyomu.jp/works/16816700428107623238/episodes/16817330651287851399）を読んだ際にもちらっと思ったけど、「華麗な技を振るって戦う少女たちに待ち受ける残酷な世界の真実とは……！」というタイプの物語を文庫一冊分に過不足なく収めるのは実はかなり難しいのかもしれない。

　こういう設定の話は好きなので、増えてくれた方が嬉しいんだけどね……。