第2話
大人に近づくにつれ、幸さんはよくそばにいてくれるようになった。中学、高校は家から出て、寄宿舎から学校に通った。二人部屋の同室の子が幸さんだった。
その頃も相も変わらず、「幸さん、授業難しいよお〜ギリギリで入ったとこなんて行くんじゃなかったよなあ」と弱音を吐いては、「ご両親から離れたがってたんだから、少しは我慢も必要だよ。成績なんて悪くたっていいじゃない。ね?」と会話をする。
幸さんと二人でいる時だけが心休まる時間だ。
そして、大学を経て、社会人となった今では、幸さんは同じ会社に就職して、ずっと一緒にいてくれるようになった。言うなれば、一日のおはようからおやすみまで、幸さんと一緒なのだ。わたしが仕事でミスして怒られる時は、すぐに幸さんが慰めてくれるからダメージも少ない。
中小企業の事務員として働くわたしを見限ったのか、両親から連絡が無くなった。あとは入院か葬式くらいくらいしか会わないだろう。
「あの人たちは期待してばかりだったからね。あなたは頑張ってたのに、それ以上の頑張りを求めてた。酷な人達だよ」
全部、幸さんの言う通りだ。自分の学力に見合わない中学、高校をやたら勧められた。ここにしか行かせないとも言われた。寄宿舎があることしかメリットがなかったが、奇跡的に合格して、両親は喜んでくれた。だが、ギリギリで合格したんだろうな。授業のレベルについていけずに、もっぱらわたしは、赤点すれすれの成績をとっていた。この頃から、わたしに関心はなくなったのかも。
両親に恵まれない子供(や、子供だった人達)が山ほどいるのは知っている。SNSを見れば、生まれたくなかった、なぜ産んだ?と親を恨む人達はたくさん。誰でも親になれてしまうから、こういうことが起きるのかもしれないね、と幸さんと話したことがある。
幸さんの声は今日も優しく耳に解けていく。
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