幸さんはここにはいない

@pacchi-kun

第1話

  幸さんはわたしの唯一の友達である。

 幸さんは女性で、わたしより少し年上で、一人っ子のわたしを優しく見守るお姉さんのような存在だ。

 小学校の頃は「今日の給食、美味しかったんだ〜。幸さんも食べた?美味しかったよね〜」や「クラス替えの先生ハズレだったなあ。幸さん、明日から学校行きたくないよ……」などから始まる、他愛のない会話を帰りの通学路や家でまとめて話していた。

 わたしには、幸さん以外に友達はいなかった。

 周りの子らは家に友達を招いていたけれど、わたしは放課後から、眠る前まで、いつも幸さんと家で過ごしていた。

 お互い不仲であった両親はわたしに関心がないのか、友達について特に言及されることはなかった。多分、自分のことで一生懸命だったのだろう、と振り返ることが出来る。幸さんがそう言っていたから、そうなんだろうな、と思っただけだけど。

 そういうことで、わたしには幸さんしかいない。しがない会社員になった今でも、だ。

「そうだねえ。いつも通り、貴方のお世話係なのは変わりないね」

 幸さんはそう言いながらも、嬉しそうに笑った。

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