飯奢ってやっただろ

 新人教育でついた新人女に奢った食事代のレシートの金額を合計する。ドリア500円 ラーメン800円…トータル2万円。


 安月給の中、外回りの帰りに昼飯やコーヒーを奢っていた。チャージは十分だろう。そう思った。


 外回りわ終えた新人女は営業車を下りる。普段より濃いめの化粧にイヤリング。ははあ、察しの悪いこの女もさすがに暗黙のルールって奴を分かっているか。


「お疲れ様です。」


「あのさ、分かってるよな。」


「何でしょうか。私なにか先方で失礼なことを……」


 新人女は狼狽える。顔はまあまあ。だが乳は合格。


「そろそろ、ホテルだろ」


 俺はホチキス止めしたレシートと、ペンで書き入れた2万円の文字を示す。


「こんなに奢ってやったんだから。な。」


 新人女は表情一つ変えない。待っていた、というところだろうか。気がない男とはそもそも食事に行かない。


 ならば毎日営業の合間に奢ってやっている俺には、まんざらではないということだ。


「そうですね。こんなに奢ってもらっちゃって。」


 女は財布を取り出し、3万円を取り出し、俺に手渡す。


「滞納分もツケて、お返しします。これからはランチは別々にしましょう。私も甘えてしまっていたので。申し訳ありません。」


 可愛げの無い女、ブス。その言葉をぐっと堪え、その週の仕事を終えた。


 翌週会社に出ると、俺は新人女の教育から外された。


 給湯室に入れば女性社員はそそくさと逃げ、口も聞こうとしない。


 あいつの仕業だ。張本人の新人女は営業に出ていた。追いかけようとする俺の肩を部長が叩く。


「小山さん、もう十分一人でやっていけるから。それと君に少し話があるんだ。」


 あいつ、チクりやがった。3カ月も育ててやったのに恩知らずめ。それからは部長にそういうのはセクハラで、もう二度としないようにと諭された。


 そうして俺は男ばかりの地方の営業所に異動になった。


 昼飯を二万も奢ってやったのに。身体で返すのは当たり前のことだろう。


 そんなことも知らないのか。これだから、女は大嫌いだ。俺はそう独りごちた。


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